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精油と蒸留酒2

【精油と蒸留酒2】


『さて、今日は製品を取りに行く日だね』


『ええ、楽しみです!』


 朝食のテーブルでの一コマ。

 本日の朝食は、B.L.T.。


 軽く焼いたベーコンと、レタス、トマト。

 それにオニオンスライス、ケチャップとマヨネーズ。

 それらをトーストした黒パンで挟んだもの。


 ドリンクは、バナナにラズベリーを混ぜたもの。

 酸っぱ甘いのがいい。



 朝食後、すぐに工房に向かう。 

 注文品は2種類。

 精油の蒸留器具と、酒の蒸留器具だ。


『言われた通りのものを作って見たが、まだ動作確認はできていねえ』


『問題ないですよ。まずかったら、改良すればいい』


『うむ。あんたの説明は理にかなっているからな。両方とも上手くいくはずだ』


 僕はこのために、大量の花を茎ごと摘んできた。

 ラベンダーのような花だ。

 摘んできたラベンダーは10kgほど。


 季節は夏真っ盛り。

 花の季節は終わっていたが、

 この紫の花はちょうど咲き頃のようだ。


 “料理人”は精油までカバーしていた。

 料理の香り付けにも使うからだろう。



『じゃあ、やってみるか』


 まず、ラベンダーを釜に入れる。

 隙間がでないように、圧縮する。

 蓋をして、ネジで締める。

 お湯を沸かして蒸留する。


 しばらくすると、釜から伸びているパイプから、

 冷却装置を通り冷えた状態となって、

 ポタポタと蒸留水が零れ落ちてきた。


『おお、成功だ!』


 蒸留水を受け止める瓶には、液体が溜まっていた。

 よくみると、2種類の液体に分離していた。


 芳香蒸留水と精油だ。

 芳香蒸留水に含まれているものは、

 香りのうち、水溶性のものだ。

 これはこれで気軽に使える。


 精油は名前の通り、油溶性である。

 これを溶かすには、アルコールがいい。



『では、もう一つの蒸留器。蒸留酒用だ』


 このために、大麦麦芽だけで発酵させた麦汁を

 エール醸造所からもらってきた。

 これにはダリアンの顔がきいた。


『じゃあ、いくぞ』


 酒の蒸留は、精油の蒸留とはタイプが違う。

 精油は水蒸気を利用する。


 しかし、酒のほうは水を沸騰させない。

 アルコールの沸点が80度ぐらい、

 水は100度ぐらいだ。

 アルコール蒸留はその差を利用して、

 アルコールだけ蒸留するのだ。


 やがて、ポタポタと蒸留されたアルコールが

 瓶に溜まっていく。


『こちらも上手く作動しているぞ!』


 一口飲んで見る。


『うおっ、なんて酒精が強いんだ』


『ダリアン、もう一回蒸留するとちょうど良くなるよ』


『もう一回蒸留するって?こりゃ強い酒が生まれるな!』


 そうしてできた酒はウィスキー並に強い度数となった。



『あんたの言った通りだ!物凄い強い酒の誕生だ!』


『だけど、まだ飲めたもんじゃないね』


『お、お前は子供の癖に酒の味がわかるのか?確かにそうだ。まだまだ改良する余地がある』


『あのさ、これを樽に入れて寝かしてみてよ』


『ほう。エージングか』


『その時に、焦がした樽を使うのがおすすめ』


『そんな知恵、どこで仕入れたんだ?』


『内緒』


『まあ、そうだな。で、どの程度の大きさの樽を?』


『2リットルぐらいのミニ樽でやってみようよ。熟成が2週間か一ヶ月で完了する』


『なるほど。じゃあ、大きい樽だともっと長いわけだな?』


『うん。大きいと数年とか数十年とかになるらしい』


『ほう。数十年とな。もう、神に捧げる酒だな』


『神々しいよね。あとさ、焼いた樽は最初は味がきついから、一回目は慣らしで酒を作って、2回めから本番ということで』


『よし、わかった。でな、もう一人仲間を加えてもいいか?俺の従兄弟なんだが、エール技術者だ。二人でこの酒を研究したい』


『かまわないよ。守秘義務契約してくれるなら。あ、今回はエールの蒸留をしたけど、発酵酒ならなんでも蒸留できるから、そのへんの芋とかとうもろこしとかいろんなものでチャレンジしてみたら。発酵には甘味分が必要だけどね』


『ほう。奴が喜びそうな話だな』


 この技術はそのうち世間に広めるつもりでいる。

 そもそも、僕の考えた技術じゃないし。

 でも、今は僕が前面に出てくると城的に拙いのだ。



 なんにしても実験は成功したので、

 蒸留を繰り返して度数の高い、

 純粋なアルコールを作ることにする。


 何度も蒸留を重ねると度数は上がるが、

 その分純粋なアルコールになり、

 素材の風味は失われていく。


 だから、蒸留酒の多くはせいぜい60度ぐらいになる。

 

 ◇


『エレーヌ、香水できたよ』


 僕は早速アルコールとレモン精油、それからラベンダー精油を混ぜてみた。


『ああ、これが香水なのね。香りが凄く広がるわ』


『いいでしょ』


『すっごく!他の花でもいけますか?』


『うん。蒸留器作ってもらったからね。ただ、手に抱えられないほど花を摘んでくること。ラベンダーは茎や葉からも精油がとれるけど、他の花もそうだとは限らない。薔薇なんか花びらだけだし、物凄い量がいるよ。あと、いい香りがするんだったら、花じゃなくてもいいよ』


『わかりました。任せてください!』


 それからはエレーヌは多種多様な植物を摘んできては、

 蒸留器に掛けるのが日課になった。


 正直、香水に興味はないのでなんの精油なのかわからない。

 瓶には植物の名前がかかれてあるけど。

 ただ、僕のマジックバッグに日々精油の瓶が

 積み上がっているのは確かだ。


『精油はすぐに劣化しますから。お坊ちゃま様々です!』


 ま、喜んでくれてるからいいんだけど。



 でも、僕にも興味のある使い方もある。

 精油を料理にたらすのだ。

 

 エレーヌが凝り始めたのは、

 クッキー。

 特に柑橘系の精油を加えて楽しんでいる。

 僕やロベルトも甘いものは好きだから、

 喜んでご相伴させてもらっている。


『僕はレモン味が好きだな。何にでもあう気がするし』


『紅茶なんかでも手軽に香り付けできますよね』


『グレープフルーツなんてのもいい香りですよ』


 このあたりではグレープフルーツはかなり珍しい。

 それに、実はむちゃくちゃ酸っぱい。

 しかし、香りは前世のよりもずっと素晴らしい。



ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

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