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領境越え 襲撃2

【領境越え 襲撃2】


 さて、学園都市のある街は王都のある王領の隣の領にある。

 領境は峻険な山脈が横たわっており、難儀な道が続く。


『坊っちゃん、出るとしたらこの山道でしょうね』


『うん。入試のときにも通ったけど、馬車がやっとという道が多いね』


 ただ、エレーヌは右手にアップルパイ。

 左手にはアップルバナナジュース。

 あまり、お行儀がいいもんじゃない。

 

 このアップルパイはエレーヌが最近凝り始めたもの。

 リンゴは酸っぱいのだが、火を通すと甘味が出る。

 ケーキにはちょうどいい塩梅になるのだ。


 エレーヌは緊張感がないが、僕は用心のために、

 改めてソリッドエアを馬車と三人にかけ直した。

 おなじみの中級風魔法のソリッドエア。

 防御・結界魔法。


 入試のときもこの峠を越えた。

 あのときも出るかと思って待ってたんだけど、

 結局何も出ずに肩透かしを喰らった。


 だが、今回は間違いなく仕掛けてくるだろう。



『坊っちゃん、来ましたよ』


 山道の中頃と思われるあたり、

 右は断崖、左は急な山という道。


『前後、囲まれました。人ではないですね。大蛇ですか』


『前が僕、後ろは二人に頼むよ』


『『了解!』』


 僕は馬車の上に登り、前方を見つめる。

 体長20mはありそうな大蛇が急速に近づいてくる。

 イエローボア、冒険者ギルドでA級に分類される魔獣だ。


 A級は軍隊規模で討伐する必要がある。

 個人での討伐は一部を除き、考慮もされていない。



 大蛇が50mほどの距離に縮まった時だ。


『サンダーストーム!』


 僕はトルネードと雷を同時発生させる上級風魔法を発動した。

 大蛇はトルネードに巻き込まれたすえ、

 雷にうたれて黒焦げになった。



 さて、後ろの大蛇を担当する二人。


『ストーンブラスト』


 これはロベルト。

 石の飛礫を作り出し、対象に浴びせる中級土魔法だ。


『アクアレイン!』


 これはエレーヌ。

 高圧縮された水を雨のように降り注ぐ中級水魔法だ。

 手にしていてアップルケーキを皿にもどし、

 勢いよく魔法をぶっ放した。


『ギュワ!』


 2つの魔法にさらされた大蛇は、

 聞き慣れない叫び声をあげボロボロとなって

 断崖を真っ逆さまに落ちていった。


 僕もそうだけど、二人もこの6年で凄く成長した。

 軍隊規模が必要な魔獣を二人がかりとはいえ、

 あっさりと一撃で倒す。


 実際、彼らのステータスは、

 僕の料理強化込ではあるが、

 魔導師軍の師団長レベルになっている。

 剣や弓の実力はそれ以上だ。



『坊ちゃま、少しお待ちを』


 ロベルトがそういうと、山の上に登っていった。

 殆ど垂直のような断崖だが、

 ロベルトは意に介さず、ひょいひょいと上がっていく。


 しばらくすると、ロベルトは一人の男を抱えて降りてきた。



『坊っちゃん、テイマーです』


『ああ、こいつが大蛇を操っていたのか』


『2匹同時、しかもA級と目される大蛇、イエローボアを操っていたところから、相当な手練れですね』


 僕はソリッドエアでしっかりとテイマーを拘束した。

 そして、気絶から目を覚まさせる。


『おい、起きたか』


『ううう、まさか2匹とも瞬殺とは!』


『誰の指図だ?』


『……』


『言っとくけど、他にもテイムしている魔獣を出したら、即座に首チョンパだからね』


『……』


『じゃあ、久しぶりにあれをやりますか』


 僕は、以前ホワイトトーチャーという拷問を披露した。

 僕たちの離れを爆破しようとした者に対してだ。

  

 あれは無音・完全な闇空間に対象者を閉じ込める。

 大抵は30分ほどで精神に異常をきたす。

 屈強なものでも1時間は我慢できない。


 今回はそれをバージョンアップさせた。

 光・音に加えて、嗅覚、味覚、触覚も遮断する。

 全くの無刺激の世界に放り込む。


『アースジェイル!』


 この土魔法で閉じ込められたものは、

 心臓の鼓動はもとより、自分の動きも全て感じ取れない。


『どうかな?』


 30分後に魔法を解除すると、

 口から涎を垂らして目が最大限に見開いていた。

 胸を掻きむしったのか、血まみれだ。


『ガガガッ!』


『ああ、しまった。強すぎたかも』


『坊っちゃん、こういうのは頭を殴ればいいんですよ』


 ロベルトはボカボカ頭を数発引っ叩いた。


『あうう?』


 少し正気を取り戻したようだ。

 

 それからの尋問はスムーズに進んだ。

 しかし、前回同様トカゲの尻尾に過ぎず、

 なかなか核心をつかむことができない。


 ただ、こいつは母上を襲撃した本人だとゲロした。

 やはり、母上は暗殺されたんだ!


 僕は怒りのあまり、こいつを消滅させようとした。


『坊っちゃん、気を確かに!』


 あわてて、ロベルトに静止された。

 ああ、まだ情報を引き出していない。

 

『ありがとう、ロベルト』


『お坊ちゃまでも冷静さを失うことがあるんですね』


 僕の中身の半分は前世日本の自分だ。

 しかし、半分はこの世界のジュノー・クノールなのだ。

 しかもまだ少年の。


 母親を恋しがらない子供はいない。


 

 さて、それからもいろいろな情報を引き出したが、

 指令を出したのは、おなじみ“闇のもの”。

 本拠地は以前と違っていた。

 移転したのか。


 おそらく、今回も失敗を受けて本拠地を変えるだろう。

 だが、いつか必ず潰してやる。

 僕は怒りとともに、襲撃者を火魔法で焼き尽くした。

 初めての殺人だ。


 しかし、心の中は実に冷静であった。

 襲撃者を人とは思えなかった。

 こいつに指令を出したもの全てにもそう感じていた。


ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

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