待望の砂糖の木
【待望の砂糖の木】ジュノー7歳
転生したことに気づいてから1年近くが過ぎた。
年が開け、ようやく日の長さを実感し始めた頃。
『坊ちゃん、そういえばこの季節に砂糖の採れる樹があります』
夕食の食卓でそういい始めたのは、ロベルトだった。
メニューはチキンバーガー。
グリーンカールのような見栄えのするレタス、
表面がカリカリ中ジューシーのフライドチキンに、トマト。
これにトマトソース。
飲み物は酸っぱいレモンジュース。
僕が、砂糖があればもう少しメニューが広げられる、
とつぶやいたのに対する返事だった。
砂糖は、王国の南にいけばさとうきびが生えている。
だから、貴重というほどではないが、
それでも高価である。
ただ、それほど純度が高くない。
確かに前世でも純度の低い砂糖はあった。
だが、その分ミネラル分が豊富という位置づけだった。
この国の砂糖は、製造工程が雑で、
ミネラル分も多いのかもしれないが、
それ以外の雑味も多い。
前世ならとても売り物にはならないだろう。
『砂糖の木?』
『ええ。正式名称はシーナって言うんですけど、砂糖の木のほうが通りがいい』
『この辺にある?』
『少し森の奥に行く必要がありますけどね。今の私たちの実力なら、少しぐらい森の奥でもいけるかと』
『砂糖なんて、今までに一度しか食べたことありません。お坊ちゃま、いきましょうよ!』
森を甘く見るのはいけないけど、確かに今の僕達は、
森の浅い地点では無敵に近い。
『じゃあ、探してみようか』
この世界に転生したことに気づいてからはや1年以上。
その間に学習したこと。
魔素がこの世界に及ぼす影響はかなり強い。
食材的な事を言うと、
魔素を多く含むほど、食材の味が豊かになる。
だから、森の奥にはえる植物や、
森の奥の獣=凶暴さが増し、ランクの高い魔獣ほど、
美味しくなるということだ。
だから、森にはえるというこの砂糖の木。
すごく期待できる。
というわけで、僕・ロベルト・エレーヌの三人は、
少し森の奥に踏み込むことにした。
場所は少し北の方。
雪が積もるような山の中だ。
2月終わりから3月下旬にかけてからが、
樹液を採取する時期だという。
『オオーン』
『坊っちゃん、今のはスノウウルフの鳴き声です。ひょっとしたら、私らに目をつけてるのかもしれませんね』
『えー』
『前にもいいましたが、スノウウルフは集団で襲ってきます。挟撃されないように、迎えうつ場所を選びましょう』
僕たちは、いざとなったら木に登って戦うことにした。
三人とも、中・遠距離攻撃は得意だ。
『坊っちゃん、集まってきましたよ。こりゃ、囲まれてますね。まだ距離は50m以上離れてますけど、これぐらいなら奴らは数秒で突っ込んできますから、木に登る準備を』
ロベルトが僕たちに耳打ちするが早いか、
狼たちが迫ってきた。
俺たちは慌てて木に登る。
ここからは一方的な殺戮ショーだ。
三人が120度に展開して狼を迎えうつ。
10頭ほどを一方的に屠殺すると、
狼たちは慌てて距離をとる。
『こりゃ、思ったよりも統率がとれてますね。リスクがありますが、ボスをやっつけたいです』
『ボスはどこにいる?』
『坊っちゃんの10時の方向。距離80mってとこですか』
『じゃあ、見晴らしを良くしてみるよ。風刃!』
僕はボスのいると思われる方角に向けて、
風刃を乱打した。
バサバサと倒れていく木々。
百発ほど打ち込んだろうか、
何頭かは巻き添えをくらったようだ。
『ボスは右側、2時の方向に逃げ込んだようです』
『よし、じゃあ次はそっちね』
こうして、僕は周囲の木々をどんどんと倒していった。
僕のいる木を中心として、半径100mほどの地帯は、
ほぼ丸刈りの状態になった。
『坊っちゃん。奴の場所わかりますか。あそこの倒れた木の影に隠れてます』
『うん、気配を感じるよ。じゃあ、止めの攻撃をする。氷槍雨!』
僕はボスのいると思われるエリアに氷の槍の雨を降らせた。
『ギャン!』
槍の1本が、ボスを串刺しにした。
ボスはしばらく抗ったが、すぐに息絶えた。
それを見た狼たちは三々五々、逃げ去っていった。
『狼の数や統率力から見て、倒したボスはこの辺りの支配者かもしれません。それなら、しばらくはこの辺りは比較的安全地帯になりますね』
ロベルトのいうとおり、倒したのはボスだった。
もっとも、新たなボスが現れることになるので、
いたちごっこになる。
◇
僕たちは木を降りて、砂糖の木を目指すことにした。
丸刈りにして見通しを良くしたお陰で、
砂糖の木の特徴的な姿が視界に入った。
『ああ、あそこの白い木。あれが砂糖の木ですよ!』
僕たちは砂糖の樹林に近づくと、
樹液採取の準備に入った。
準備はシンプルだ。
木に直径数cmの穴をあけ、そこにパイプを突っ込む。
パイプの一方にはバケツ。
こうして2日後にバケツを回収する。
こうして、200リットルほどの樹液を採取した。
木の穴は、棒で塞いでおく。
『へえ、ほんのりと甘いのですね。これが砂糖になるのですか?』
『こっからが大変なんだよ。煮詰めるのに時間がかかる。私とエレーヌが交代で番をしますか』
『いや、僕も参加するよ。単純作業なら、魔道具化できるかもしれない』
だいたい40~50分の1程度に煮詰める。
すると、とろりとしたシーナ・シロップの完成だ。
さらにヘラで混ぜながら煮込んでいくと、
水分がなくなり、砂糖の塊になる。
暖かいうちに鍋から塊を剥がし、風魔法で細かく砕く。
これで、シーナ・シュガーの出来上がり。
だいたい、4kg程度の砂糖を獲得した。
水分を飛ばして細かく砕くだけなので、
この工程を魔道具化した。
ただ、採取は魔道具化というわけにはいかない。
下手すると、木を枯らしてしまう。
それでも来年以降はもっと大規模に採取するつもりだ。
多分、50kg程度の砂糖の収穫は可能だと思う。
ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。
励みになりますm(_ _)m