表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/122

黒死病1

【黒死病1】17歳


 きっかけは、下水道で清掃作業をしていた男からであった。


『いてっ!』


『なんだよ』


『くそっ、ネズミに噛まれた!』


『ネズミだと?下水道の中は定期的に消毒してネズミはおろかゴキブリさえいなくなったのにな』


『薬もってねえか』


『もってねーよ』


『俺もないぞ。まあ、つばでもつけとけ』


『おい、よく見ると何匹かネズミがうろちょろしてるな』


『へんだな。退治しとくか』


 実際、傷口は大したことはなく、

 すぐに噛まれたことを忘れてしまった。

 そうして数日が過ぎようとしていた。



『街のほうでおかしな病気が流行っています』


 薬師の間で持ちきりの話題になった。


『風邪とかじゃなくて?』


『似てるんですけど。発熱、悪寒、頭痛や体幹痛といったところなんですが、症状が重篤な場合が多いです。中には嘔吐や嘔気、全身衰弱というのもあるようです』


『疫病か。病気の特定ができないのか』


『不明です』


『よし、疫病警報を出すぞ。疫病の流行地域は封鎖。街の出入りも厳格にせよ。市民には、他人との接触に注意を払え、飲水は必ず煮沸、と伝達しろ』


『了解です!』


 どの街でも、疫病は災害に等しかった。

 病気が特定されても、治療は心もとなかった。

 

 従来の回復薬にしろ回復魔法にしろ、

 外傷には滅法強いのだが、感染症には弱かった。


 ◇


『疫病患者から初の死亡者が出ました!』


『状態は?』


『皮膚が黒く変色していたそうです!』


『何?それは黒死病じゃあるまいな?』


 黒死病。

 ペストのことである。

 皮膚下出血を起こして全身が黒く変色死することから

 そう名付けられた。


 ペストは大昔から流行を繰り返してきた。

 このような難病に対する支配者の対策は一つ。

 流行地域を焼き払う、である。



『ううむ。流行地域は下町で雑多な建物がある。焼却するわけにはいかん』


『ですね。街中が延焼する可能性があります』


『とりあえず、死亡者の家はアルコール液噴霧消毒。他の患者の家もな。それから、アニエス教授にお伺いをたてよう』


 この世界の黒死病は毎年流行するというものではない。

 収束してからは何十年と潜伏するのだ。

 そして、何かのきっかけで大流行する。

 だから、黒死病を実際に見たことのある人は限られる。



『黒死病ですって?あれは不潔な場所で発生するはず。これだけ清掃の行き届いたこの街に?』


『下水道にネズミが大発生しているそうです』


『ネズミの大発生?不自然ね。餌となるものがあるのかしら。で?』


『下水道はすっかり焼却しました。念のために数日焼却を繰り返すそうです』


『発生地域の隔離は済んでると。街の出入りも制限している。わかったわ。ちょっと待ってって。相談してくるから』


 ◇


『黒死病ですか?』


『ええ、ジュノーくん。報告では間違いないそうよ』


『本当なら、大変ですね。早急に対策しないと、多くの死者がでますね』


『その対策がないのよ』


『ペニシリンは?』


『全然効かないって』


『エレーヌとカトリーヌ、どうだろう』


『私達の研究室で培養しているカビから作った抗生物質。試してみましょうか』


『うん。最初の死亡例は発症した次の日に死亡したそうだ。時間との勝負だな』


 その間にも、黒死病は広がりを見せていた。

 死亡者数も増加していった。


『あと、バイオスーツ着用すること。最低でも、フェイスマスクを。細心の注意を忘れないようにね!』


 それらは感染症対策のために製作した魔道具だ。

 バイオスーツになると、宇宙服のような外観になる。


 ◇


『いくつか試したんですが、一番有望と見られていた薬が効くみたいです!症状が改善していってます!』


『よし、猶予がない。薬局は全員動員して、その薬、えっと』


『とりあえずα薬と呼んでいます!』


『α薬を培養。どんどん投入していこうか。副作用とかの確認は後手にまわるな』


『下町で黒死病が急激な増加をしているようです!』


『感染経路は?』


『空気感染の可能性が強いですね』


『こりゃ、外出禁止だな。治安当局には強制的な警備を要請しよう。彼らにもフェイスマスクの貸与を』


 強制的な警備。

 外出したものを最悪射殺する権限が与えられる。


 ◇


 街には外出禁止の鐘が鳴り響く。

 拡声器でも外出禁止と警備強度のお知らせが続く。


『これから、街の警備にはいる。警備強度は最強の“1”だ。外出禁止に歯向かうものの排除を許可する』


『各自、フェイスマスク着用。人との接触に注意せよ。不用意に水や食事を摂るなよ』


『死体は街のはずれで焼却。家族に有無をいわすな。街の存亡がかかっているぞ!』


『『『はっ!』』』


 前世日本なら、彼らの行動は大問題となるだろう。

 しかし、そうしないとより多くの人が死ぬのだ。

 拙速が求められている。


 ◇


『どうだ?薬のほうは』


『街中の薬師を集めて、培養しています!あと、エレーヌさんが薬作成の魔道具製作に成功しました!』


『おお、いいぞ。患者の反応は?』


『重篤な副作用は見られません!』


 ◇


 そのころ、付近の村でも黒死病が流行り始めていた。


『おい、聞いたか。昨日亡くなった○さんな、皮膚が黒くなって死んだらしいぞ』


『おい、それって街で大騒ぎになっている黒死病じゃないか』


『転移魔法陣で街で対策を聞いてこい!』



ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ