イチゴの品種改良
【イチゴの品種改良】
穀物・野菜・果物の品種改良は積極的に推し進めている。
僕が学院を卒業してからは、
研究所を独立させ、大勢の研究員を招き入れている。
ぼちぼち成果の出てくるものもある。
その中で力を入れてきたのがイチゴだ。
イチゴがなかなか見つからないと言ってきたが、
実はイチゴのような形の実は見つかっている。
ただ、味がない。
実がふかふかで甘くもなんともない。
唯一、芳香のあることが長所だ。
で、いつものように南国の市場で果物を漁っていたときのこと。
『おじさん、これなんて果物?』
『その赤いやつかい?フラガウの実だよ。甘いよ』
『少し頂戴』
『あいよ。山で採れた珍しい果物だよ』
『山で?』
『ああ、涼しい場所で採れるんだ。暑い場所を嫌うんだよ』
フラガウと呼ばれた実。
直径1cm程度の赤い実で、
果実の周囲に種がついている。
食べてみると、結構甘い。
僕はこの実を栽培してみた。
気候的には王国の秋に種付けして
春から夏にかけて収穫という感じだ。
夏に弱いことを除けば、神経質な植物ではない。
『お祖父様、このフラガウって名前の実なんですが』
『ほう、綺麗な実だな……なかなか甘いではないか』
『これと野いちごをかけ合わせてみませんか』
『おお。野いちごの大きさとフラガウの甘さを狙うわけか』
『ええ』
『お前のイチゴにかける情熱は特別じゃの』
『上手くいけば、フルーツの王様になるはずなんですよ』
南国にもフルーツの王様を自称している果物がある。
確かに味はいいのだが、ニオイが酷い。
イチゴは見栄え、香り、味、全てにおいてパーフェクトだ。
なにより、イチゴのショートケーキが欲しいのだ。
だから、イチゴに似たような果実を見つけると、
お祖父様や他の協力村で品種改良をお願いしている。
◇
イチゴの品種改良であるが、
フラガウの実と野いちごの掛け合わせが順調に行われた。
『ぼちぼち、大きくて甘い実がなり始めているぞ』
僕も食べてみた。
前世のイチゴほどじゃないけど、この世界の果物としては
十分甘いし、香りもいい。
弱点は、天候の変化に弱い。
夏の暑さは駄目だし、乾燥にも弱い。
野いちごはたくましいのに。
それと、病気になりやすい。
虫もタカリやすい。
だから、ハウスで栽培している。
『お祖父様、これかなりいいですね』
『ああ、完熟時はかなりのもんだ。ただ、その期間が短いし、痛みやすいがな』
『その弱点はマジックバッグで補えますね』
『うむ。最高の状態で出荷できる』
このイチゴでもいいんだけど、
お祖父様にはさらなる品種改良をお願いしている。
なにせ、僕には前世のイチゴの記憶がある。
だから、お祖父様に許可をとって、
このイチゴを他の村の研究所に渡して、
さらなる品種改良のお願いをした。
そうこうしているうちに、
いくつかの村でさらなる改良されたイチゴが開発された。
お祖父様のところでも毎年品種を改良してくる。
イチゴの改良に取り組んでから数年後、
ようやくストロベリーケーキがお目見えした。
『お坊ちゃま、これが昔から言ってたケーキですか』
『チョコレートケーキがケーキの王様なら、イチゴケーキはケーキの女王様ですな』
『ショートケーキだけじゃなくて、タルトでも豪華でしょ』
『この赤色は実に映えますね!』
『香りもいいし、これ以上ないってぐらい甘いですね』
後年であるが、イチゴに関しては前世日本なみの品種が
登場してくる。
◇
もちろん、植物の品種改良はこれだけではない。
麦類も野菜も果物も、より味のいい品種になるように、
お祖父様や他の村々で研究してもらっている。
品種改良は簡単にできるものじゃない。
しかし、品種改良に成功すると名前付けの栄誉が与えられ、
多額のインセンティブが与えられる。
そして、その村の特産品として10年間保護される。
種を盗んだものには厳しい罰則を与えている。
王国的にそういう法律があるわけじゃない。
しかし、僕たちの仲間内でそういう決まりを作ったのだ。
これはあらゆる個人・団体に適用される。
もっとも、品種改良する場合は僕の魔石飼料を前提とする。
仲間じゃないものに流出しても、上手く育たない。
ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。
励みになりますm(_ _)m




