結婚式の放映
【結婚式の放映】
いよいよ結婚式当日。
結婚式は女性のためのものと思っていたのだが、
そうでもなかった。
若い女性は花嫁とドレスに釘付けになる。
高齢者たちは花嫁を愛でている。
まあ、これはいい。
だが、既婚女性はロベルトに釘付け。
僕は。
ひな壇の隅っこで
寂しくドリンクなんかを飲んでいる。
早く終わんないかな。
ようやく結婚式が終わったと思ったら、問題勃発だ。
『エレーヌ、なんだよ、フードコートのビデオに結婚式の映像が!』
『お坊ちゃま、いいじゃありませんか。とっても素晴らしい結婚式でしたわ』
『そうよ。貴方のことだから、事前に言うと反対するでしょ』
エレーヌたちは僕に黙って映像を流してしまった。
エレーヌは質素な結婚式をしたいと言っていたのに。
毎日、繰り返しカトリーヌと映像を見ているうちに、
この体験をみんなと共有すべきだと思ったらしい。
僕が気づいた時には、もう手遅れだった。
凄い勢いで評判が加速していた。
動画をストップしたら、苦情が殺到し、
しぶしぶ流すことにした。
ああ、僕の顔が世間に注目されてしまう。
だが、それは杞憂であった。
まず、一番人気はやはりカトリーヌ。
2番人気がエレーヌ。
二人は僅差である。
3番人気がロベルト。
というか、エレーヌ・ロベルトのカップルは
美貌のバランスが取れており、
理想的なカップルととらえられているようだ。
では、僕は?。
美しい花嫁の隣にいた人。
どうやら、そういうイメージみたいだ。
どうも、僕は昔から陰が薄い。
確かに目立たないように暮らしてきた。
その影響なのか。
あるいは、前世のヒッキー体質が
今世まで影響しているかもしれない。
ひっそりとして、地味なのである。
喜ぶべきか悲しむべきか。
もっとも、花嫁個人よりも
花嫁衣装に熱い視線が注がれた。
豪華な宝石類も。
モダンな会場も注目された。
その洗練された内装は、
重々しいだけの王国の結婚式会場、
あるいは教会に比べて実に新鮮だった。
新しい建物で色合いも軽いので
荘厳さはないのだが、
荘厳さは音楽で補った。
今世でもパイプオルガンは開発されていた。
そのパイプオルガンを極限まで改造したのだ。
無論、改良したのはパイプオルガン職人なのだが、
僕も音楽理論で活躍することができた。
ある意味、数学だからね。音楽は。
僕は幼い頃にピアノを習っていたし、
例の結婚した僕の従兄弟の姉ちゃんは、
オルガンの先生でもあったので、
結婚式はオルガンメロディーで埋め尽くされていた。
映像記憶プリンターという魔道具がある。
その名の通り、人の記憶にある映像を出力する魔道具だ。
僕はこれの音声バージョンを開発していた。
前世の僕の親しんだ音楽をCDかMP3のように
次々と鳴らしていくのだ。
僕の親しんだ音楽はだいたいが現代ポップスなんだけど、
流石にそういうのは流せない。
でも、前述のように鍵盤曲も結構頭にインプットされている。
鍵盤曲はたいていがクラシックというか、
バロック音楽あたりも多い。
この世界で披露しても違和感がない。
パイプオルガンで特筆すべきなのは、
平均律ではなく、純正律を採用したこと。
純正律は響きがきれいなのだが、かなり使い勝手が悪い。
そこを魔道具化して合奏や転調や移調に不自由のないようにした。
話は少しそれたが、
僕たちの結婚式は王国の今後の結婚式を決定づけた。
それまでは、結婚式は自宅かレストラン。
せいぜい、既存の教会を利用していた。
そこに僕たちはとびっきり華々しい会場を用意した。
結婚式会場はおしゃれな場所で。
これが少なくとも未来の花嫁の中では決定事項となった。
僕たちの結婚した会場は幻の観光名所になってしまった。
そりゃ、僕の私有地だからね。
そこで結婚したいという要望が殺到したので、
僕は学院に同じような結婚式会場を建設することにした。
ここならレストランがそばにあり、披露宴にも最適だ。
ウェディングドレスもだ。
花嫁は純白プリンセスドレス。
そして、何回かお色直しをする。
これが王国の花嫁衣装の定番となっていった。
そのために、貸衣装屋が凄い勢いで広がっていった。
ドレスや宝石についての問い合わせも非常に多い。
見せてくれとか、貸してくれとか。
だから、ドレスの型紙を有料で渡している。
有料と言っても実費程度のもんだ。
王国ではウェディングドレスは
花嫁の手作りであることが多い。
しかし、僕たちのドレスは素人ではなかなか手に負えない。
そこで、プロというか服飾関係の祝福を持つ人が
俄然注目を浴びることになった。
僕たちのところにも
服飾・デザイン関係の人が集まるようになった。
だから、デザイン関係の部門を立ち上げた。
リーダーはやはり大蜘蛛のアレクである。
【結婚後】
結婚式の夜。
恥ずかしながら、僕はカトリーヌの裸身を見て
鼻血を出してしまった。
そんなマンガのような展開が。
がっくりきて、二人で居間のソファに座り、
カトリーヌはしきりに僕を慰めてくれた。
そのうちアンガスが現れ、
アンガスにもたれていたら二人共寝てしまった。
今だけかもしれないが、
カトリーヌのきつい部分が随分と柔らかくなったと感じる。
まあ、元がかなりストレートだったので、
比較すると、という話だが。
口調も柔らかくなったが、
特に態度にかなりの変化があった。
カトリーヌは実はすごい甘えん坊さんだった。
所構わず、僕にべったりしている。
というか、僕をまるで猫かなにかのように扱う。
僕の髪の毛に顔をうずめ、
ジュノ吸いとか言ってスーハーするのだ。
僕もたまに膝枕させてもらってニタニタしている。
前世では考えもつかない、この幸福。
もっとも、彼女がマイペースなのはあまり変わらない。
長子で弟が3人もいるせいなのか、
彼女は意外と面倒見が良いというか、
かなりの世話焼きタイプだ。
その分、善意が押し売りになる傾向にある。
おしゃべりでもあるので、
僕は結婚前から彼女を軽く受け流す技を身に着けていた。
ただ、スルーしすぎると文句を言う。
意見をはさみすぎるのも駄目みたいだ。
返答のいらない場面と必要な場面の2通りがある。
うなずく加減が難しい。
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