第5話 優しさ全開、可愛いを守れ
悲しみを忘れるために話題を変えることにした。
「今、チーターは哺乳類って言ってましたけど、なんで知ってんですか?。この世界にはいそうにないですけど。」
「いやいや、いますよ。そこも日本とおんなじです。チーター、カンガルー、クマにゾウ。あぁ、あとユニコーンですね。
「8割いないんですけど。というか最後のは存在してないです。」
「えぇ、そこそこ前に見ましたよ。翼の生えたお馬さん。あっ、そろそろ出口ですよ。頑張りましょう。」
それはペガサスだし、やっぱりいない動物だし、と突っ込もうとしたがソミアが出口だというのでほっとく。
「外に出たら馬車に乗って町へ行きましょう。その名も始まりの町"スタルト"です!。そして、ギルドに行って冒険者になり、宿をとって。おっと、いけない。まずは、ごはんですね!。あの街には、ハンバーガーやらケバブやらたくさんの屋台があります。しかも、初心者価格です!。とっても、お手頃です!。さぁ、あなたも是非スタルトへ!。」
一端の観光大使のような口調で僕をわくわくさせてくれるソミア。
「ギルドに宿に屋台!?。なかなかファンタジーですね。とりあえずは町を探索からですかね。それはそうと、僕お金がぁ、なくてですね。申し訳ないですけど、お金を、貸してはくれませんか。このとー-り。」
ゆうしゃ的にはプライドがあるが僕だけ外で待ちぼうけとはいかない。
意を決してソミアに頼むとその顔がゆがんだ。
「ユウト様、お金持ってないんですか。」
「それはもちろん、この服に変わってポッケの財布もないし。というか、さすがに日本のお金は使えないんでしょう?。」
「確かに、使えません。通貨が違うので。単位はエンですが。・・・すみません。思い出したら私も持ってませんでした。」
「えっ。」
一文無しだと気づいたソミアの歩みがトボトボになり遅れていく。
心配になって後ろを振り向いたら絶望した顔で立ち止まるソミアがいた。
「・・・あっ、そうだ。最初にギルドで簡単な仕事を受けての成功報酬です!。そういうシステムでしょ!。」
「ふふ、ここから町まで歩いて2日。歩いてついたとしてもごはんを食べることができません。その上でクエストを?。ふふ、それこそ、自殺行為です。お腹がすいたまま魔物のところへ。あぁ、むしろ私たちは魔物の食事になってしまいます。お腹をすかせた冒険者がお金欲しさに魔物のえさに。ふふ、笑えない冗談ですね。」
絶望の淵に立ったソミアが不気味なことを言い出した。
この人、笑ったり、泣いたり、失望したり、やっぱり元気だったり、情緒は大丈夫だろうか。
「もう、そんなところで座らずに。ほぅら、歩いて外に出てから考えましょう。明るいとこで。」
「光る、光る、光っていーる私の体で周りは明るい。ほーらほらほらパッとすーれば消ーえールゥ。」
次は、謎の歌を歌いだした。
かと思うと突然、体の光が消えた。
「あっ、そーやって光消せるですねー。」
正直、顔が会わせられないほど怖いが置いていくわけにもいかないので引きずろうとするも動かない。
まさかあれか、力が弱いからか。
「動かない。はぁ、出口までどう・・。ん?あそこにいるのはウサギ?」
出口に顔を向けると一羽のウサギが座っていた。
「見ぃて、ウサギですよ。ソミアさん、見てください、可愛いから癒されますよぉ。」
僕の言葉が届いたのか顔を上げるソミア。
ウサギの姿を確認するなり元気を出して。
「見てください、ユウト様。あれはウサギです!。しかも、あれは角ウサギ!。魔物です。ふふふ、あの子を殺せば角を獲れてお金になります。幸運は味方しています。さぁあ、早速討伐しましょう‼。」
血走った目で討伐を提案してきた。
「ちょ、ちょ、ちょっとタンマ。殺すってあんなにかわいい子を?!。少しくらい情けを掛けてください!。」
「ダメデス。そんな甘っちょろいことは言ってられません。世の中金、金、金なのです。」
耐えきれなくなったソミアの情緒がウサギに向かって彼女を走らせた。
「ダメだ!。ソミアさん、優しさを思い出してー‼。」
すると、ソミアが涙をぼろぼろこぼしながらこちらに振り向いた。
「そうですね、あんな可愛らしい命。散らせるわけにはいきません。気づかせていただきありがとうございます、ユウト様。」
涙を浮かべ微笑む彼女の顔は優しさに満ち溢れ美しかった。
そして、その頭には文章が出ていた。
「『スキル"優しさ"が発動しました』?。なに?、これ?。」
「優者のスキルですね。己の優しさを他者に分け与えて平和にする。とても良い力です。」
そんな力が今日のゆうしゃにはあったのか。
知っているなら先に言って欲しかったが、今は無粋なので突っ込まない。
「と、とりあえず正気に戻ってよかったです。さぁ、今後のことは出てから考える、でいいですよね。もしかしたら、優しい人が通りかかって何かくれるかもしれません。めっちゃ他力本願だけど。」
「ふふ、ポジティブですね。では、あのウサギさんにはあそこを通していただきましょう。」
そう言うとウサギの方へ向き直るソミア。
「戦うおつもりなのですね、ウサギさん。しかし、あなたとは争いません。私の小さな魔法で怯えて去りなさい!。」
僕のエゴだがあのウサギは助かる。
脅すだけだと言ったソミアの顔は自信に満ち溢れてとても凛々しく心の底から安心した。
「"ファッイャ"。」
汚い発音を受けて魔法が放たれた。
ソミアの手から放たれた小さい炎。
それは、ウサギに向かいながらだんだん大きくなり、どかーんと爆音を立てて、出口の壁一帯を巻き込みながらウサギを屠った。
あまりのことに呆然になる僕。
「え。あれ?。ウサギが。ソミアさん、うそつい・・・へ?。」
と隣を向くと頭を抱えたソミアが悶絶する。
「あぁぁぁぁああああ。また、また、やってしまいましたぁぁああああ。あああああああああああああああああああああああああああ、がっ。」
一通り絶叫した彼女はなぜか気絶した。