天才奏者の親友のために、凡人の私が出来る事
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
音楽室のピアノで滑らかに奏でられるグラナドスの「アンダルーザ」に、私こと吹田万里は最後まで聴き入っていたの。
「流石だよ、千恵子ちゃん!次の演奏会、頑張ってね!」
「そう言って貰えて心強いよ。練習に付き合ってくれて、万里ちゃんには感謝してるんだ。」
私の賛辞に微笑みながら、奏者を目指す級友は上品にピアノの蓋を閉じた。
コンテストで優勝して以来、級友の笛荷千恵子ちゃんは天才ピアニストとして注目されている。
そんな親友の栄光を喜ぶと同時に、私は言い様の無い焦りを感じていたんだ…
プロ奏者への道を着実に進んでいる親友に比べて、未だ将来の夢を決めかねている私。
それが私の中で焦りを生んでいたんだ。
小四で将来を気にするのは、まだ早いかも知れないね。
でも今のままじゃ、将来の夢を決められずに何となく生きてしまいそうなんだ。
そうなる事の恐ろしさと、未だ将来の夢が見つからないもどかしさ。
その二つの感情が、私の中で燻っていたの。
そんな私を変えたのは、堺東駅の駅前で貰ったビラだったの。
「ん?」
「そこの君、人類防衛機構に入らない?」
私にビラをくれたお姉さんは、笑顔の朗らかな軍服姿の下士官さんだったの。
「私達と一緒に平和を守ろうよ!」
−女性だけで構成された国際的軍事組織の人類防衛機構は、大正からの改元間もない時代の戦争で活躍した日本軍の女子特務戦隊の末裔で、その活動目的は軍や警察の手に余る悪の脅威から人類社会を守る事にある。
下士官さんが説明してくれた組織の概要は、私にとって周知の事実だ。
何故なら私の母も、中学教師になる前は人類防衛機構の軍人だったからだ。
「危険と隣り合わせだし、楽しい事ばかりじゃない。だけど『管轄地域の笑顔と平和を守れる』って遣り甲斐の大きさは間違い無し。私に言えるのは、そんな所かな。」
軍人時代の話を聞こうと質問した私に、母はこう答えてくれたの。
「守る事の、遣り甲斐の大きさ…」
母の言葉は、私が人類防衛機構に感じていた魅力その物だった。
千恵子ちゃんみたいに美しい演奏は私には出来ない。
でも、千恵子ちゃんみたいに夢に向かって頑張る人達を悪の脅威から守る事なら出来るからね。
「やりたい事が見つかったのね、万里。」
「うん!私、頑張るよ!」
微笑む母に頷きながら、私は将来の夢が見つかった喜びを実感していたの。
軍人さんになって、沢山の人達の夢を守る。
それはきっと、誰にも負けない大きな夢になるはずなんだから!