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いざ、妃選びへ




待合室のような部屋に通された私は、他の令嬢達を遠巻きに見ていた。

皆気合の入った着飾りようで、一人で過ごしている者も居れば何人かで話し込んでいる者達も居る。

テーブルの上にはお菓子が並べてあり、宮女に言えばお茶も淹れてもらえるようだ。


(初対面じゃなさそうな子達も多いわね。令嬢同士友達だったりするのかな)

紫色の衣装の女の子がこちらを見ていたので、口角をあげて微笑んでみたら、顔を真っ赤にして目をそらされてしまった。


(……他の人からも見られてる気はするけど、誰も話しかけては来ない。皆私が美しすぎて萎縮しているのが分かる)


前の人生じゃこんな経験なかったけれど、美人っていうのも結構大変だ。もう友達なんてできないのかもしれない。



「皇太后より、妃選びを始めるようお言葉があった!次に名を呼ぶ者はこちらへ」

太監の声に、令嬢達は静まり返る。

黄麗菊(こうれいぎく)高林(こうりん)白明花(はくめいか)……」

いくつかの名前が待合室に響く。最初はその人達が陛下や皇太后、皇后に謁見するらしい。

呼ばれた者達は緊張した面持ちで、案内役の宮女に着いて行った。


胡明宝(こめいほう)崔空環(さいくうかん)……」

もうだいぶ控室の人数も減ったが、誰一人戻ってはこない。多分、選ばれても選ばれなくてもそのまま帰宅するのだろう。

なんだかそわそわしてきた私は、お菓子の並べてあるテーブルを見に行った。




「胡家の娘、胡明宝、十七歳」

太監が名を呼ぶと、妃候補の娘は皇帝と皇太后および皇后に挨拶をした。

「胡明宝よ、好きな季節は?」

皇帝が問う。

「冬、でございます」

「雪に関する故事といえば?」

「え、と、その……」

「花を」

胡明宝は宮女から桃色の花を受け取った。

入宮できない者には花を下賜し、帰らせる習わしだった。


「……皇帝よ、まだ二人しか選んでいないわ」

皇太后が苦い面持ちで息子を見やる。


「しかし母上、どの者も同じように見え、決め手が無いのです。皆、人形のように飾り立てられている。やれ琴が得意だ舞を習っているとうるさい者も多い」


「陛下の印象に残ろうと必死なのです。礼儀にかなっていれば悪いことではありませんわ」

皇后が令嬢たちに加勢した。


「容姿でも家柄でも選ぶ理由は何でもいいのよ。あなたは皇帝なのだから、子孫繁栄の為に数人の側室が必要だわ。今回は特に高官の娘達だけを厳選したから誰を選んでも問題は無いはず。お前は若いし、まだ子が一人しか居ない。早くこの母を安心させてちょうだい」

母の哀願に、皇帝は渋々頷いた。




苑翠玉(えんすいぎょく)飛嵐(ひらん)李小春(りしょうしゅん)江朱青(こうしゅせい)……」


私と妃候補の娘たちは一列になって歩き、豪奢な建物に通された。衝立の後ろに並んで立つ。

呼ばれたら一人ずつ陛下達に謁見するようだ。


「李家の娘、李小春、十七歳」

太監に名を呼ばれた少女が、衝立の向こうに踏み出した。


「李小春、そなた、髪飾りを他の娘の倍の数つけているな」

皇帝が指摘する。

「……え?」

「いつもそうなのか?それとも今日だけか」


「……派手好きなのかと尋ねられているのよ」

皇后が言った。


「そのようなことは……決して」

完全に萎縮して何も言えなくなってしまった李小春に呆れた皇帝は、花を与えるように太監に命じる。

しかし、それを皇太后が阻止した。


「李家は古くからの家柄で、小春の父親は先帝にも重用された。彼女の兄二人も仕官している。落ち度があっても冷遇しては駄目よ」

「……ええ、母上。その通りですね」


「李小春は入宮させる!」

太監が声を張った。

皇太后の判断で選ばれることもあるらしい。これは逆に、皇帝に気に入られても皇太后に嫌われれば、落選できるのでは?

嫌われ過ぎて罰を受けるのも怖いけど。



「江朱青よ、そなたの特技は?」

「琴でございます」

「どのような曲を……」

「また琴か」

皇后の質問を、陛下がつまらなそうに遮った。

江朱青は花を受け取って去っていった。



ここで、小説『妖狐伝』のストーリーを思い出す。

翠玉は江朱青と陛下のやり取りを聞き、それを踏み台にするのだ。

具体的に言うと、『琴が得意と聞いて不愉快になったのは、今、お聞きになれないからです。すぐに陛下を楽しませられない特技など、意味がありません』

そう言って、持前の美声で歌を歌った。


『舞とも違い跪いたまま披露できるので、陛下や皇太后、皇后に対して無礼にもなりませんわ』

その歌声と利発な発言に、皇帝は翠玉に惚れこんで後宮に入れることとなる。



私は当然この流れをなぞるつもりは、無い。

というか、無理だ。

声は綺麗だけれど技術が無いからこの世界の歌なんて歌えないし、そもそもこの緊迫した空間でそんなことをする勇気なんてない。


――むしろ、よくできたわね、原作の翠玉。


漫画でもドラマでも、周りと違う目立つ行いをして気に入られる流れはよくあるけれど、あれって結構運次第だと思う。

相手がトリッキーなことを嫌う人だったら普通に不快にさせて終わるはずだ。

大体「面白い……!」みたいな展開になるのは主人公補正というものだろうか。



「苑家の娘、苑翠玉、十八歳」


ああ、ついに呼ばれてしまった。

――無事、落選して家に帰れますように。




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