月が奇妙ですね
新月の明くる日、満月になりました。
文字にしてみると、なんだか大したことではない気もしますが、天文学的には明らかな超異常事態です。本来は約2週間後に訪れるはずの満月が早まったということは、月の公転周期に乱れが生じたということ。
衛星の周回軌道に短期間でそれほど大規模な変動があれば、当然地球にも人類、もとい、あらゆる動植物の生存が危ぶまれるほどの甚大な影響が現れるはず。世界中の天文学者たちはパニックを起こし、我先にシェルターへと駆け込みました。
ところが、信じられないことに人類を待ち受けていたのは昨日と何ら変わらない穏やかな日常でした。大津波も異常気象も何一つ起きず、ただ夜空に明るい満月が静かに輝いているだけです。観測機器の故障も見られず、不可思議な現象の原因はさっぱり分からないまま一日が過ぎ去りました。
翌日、月が増えました。
オリジナルよりも一回り大きいこと以外は、まったく月と変わらない謎の衛星が、澄ました顔で夜空に浮かんでいます。あまりにも衝撃的で不気味な出来事に、オリジナルが再び光を失っていることなんて霞んでしまいました。さらに、地球上の天候、潮の満ち引きには相変わらず何の変化もなく、専門家たちはとうとう匙を投げました。
そこで代わりに声をあげたのは数学者たちでした。
「我々もこのイカれた現象のメカニズムについては皆目見当がつかない。ただ、明日は二つの満月が輝いているだろうし、明後日は三つ目の月、それも満月が追加され、二つの月は新月になるだろうと予測できる。神あるいは地球外生命体が人類を馬鹿にしているのか、それとも真面目に二進数の勉強をしているのかは判断できないが……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「全然難しくはありませんよ。ほら、この模型を使って考えてみましょう。月が暗いときを0、明るいときを1とします。月が一つだと1と0しか表せないでしょう?」
「はい、先生」
「それなら、こうやって月を増やせばいいのです。これで、00、01、10、11の4通りの数字を表すことができますね」
「あ、本当だ! その次は、もう一つ月を増やして100ですね?」
「その通り。よくできました! ご褒美にこの模型をあげましょう」




