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長月の集

媒介 bye 傀儡

作者: みふぎゅ

貴方は

気が付いて しまった



見返りは

何もないってことを



advantageなんかじゃない

ただの貧乏籤だってことを



消費される

身勝手な欲求を満たすための

便利で手近な玩具だってことを




一度 拓かれた眼を

閉じることは もう

叶わないから



棄てていく



塗り固められ

感触すら遠くなった

この厚い厚い 自分だった何かを



脱ぎ捨てて

踏みつけて なお

きっと美しく見えるでしょう



そういう風に

重ねて来たのだから



自分ではない理想の何かを

求められるがままに


ずっと ずっと必死に

重ねて来たのだもの





私は上手く

踊れているかしら


ひらひらと裏返る

群衆の手のひらの上



望まなくとも

重ねられる憧れと羨望に


浅くなる呼吸と 渇いていく喉



目の前が霞むほどに

鮮明になっていく


その裏に籠められた

人々の 本当の願い





早く 転べ


そこから どうぞ滑稽に

ここまで転がり落ちて






指をさして笑う準備

ガッカリして肩を落とす準備

腹を立て怒鳴り散らす準備


そして


可哀想に 私は見捨てない


真新しいハンカチを片手に

優しい理解者を 装う準備





見えること

持たざるものは 渇望する


あぁ 私に未来が見えたなら

あぁ 愛しい あの子の望みが 見えたなら


それはどんなに素晴らしい世界なのだろう!





見えること

持たされたものは 絶望する


あぁ 最良の結果を差し出すのなら

あぁ 愛しい あの子が そう望むのなら



がっかりさせる未来は 見たくないから

望む通りの世界を見させてあげるよ



そう 君の望みよりも

ほんの少しだけ嬉しい未来も

僕なら見せてあげられるから



君が喜んでくれるのなら

それはきっと

僕にとっても 嬉しい世界のはずだから




君は知らなくて良いんだよ

僕が本当に 望む世界なんて




知らなくて 良いんだよ



僕の 危うい綱渡りを

僕の つま先立ちの 覚束ない背伸びを



落胆されることに怯える

小さな小さな 本当の僕を





知らない君が 無邪気に笑う


貴方は 私の理想の王子様

おとぎ話の世界みたいね




知らない君は 無邪気に願う




もっと完璧な おとぎの国を と




少しずつ

植物が根を張り 背を伸ばすように


少しずつ少しずつ

高くなる 理想郷の外壁




遠くない未来

いくら背伸びをしても

その縁に僕の指は

二度と かかることはない





あぁ 見えてしまった





視線に怯え

ヒソヒソ声に怯える

ちっぽけな自分


応えていくことしか出来なかった

臆病な自分




応えられない自分がいる未来




網膜に焼き付いて

片時も離れない




応え続けて

摩耗しきった この心では

振り払うことは叶わない


いつからか

じとり 首の後ろに

張り付いた影たちを




さぁ ファスナーを下げて

汗を吸って重たくなった

このスーツを脱ぎ捨てよう


涙に濡れて

もっともっと

重たくなる前に



軽くなった身体で

何処に向かおう



目隠しをしよう

耳を塞ごう



知らなければ

気が付かなければ





僕は 僕だけの ものだもの

私は 私だけの ものだもの





重なった声が

頭の中で谺した




髪を かきあげ

そっと項を 指で なぞる



まだ熱を持つ感触に

すっと一筋 滑り落ちていった




吸い込まれて消えた雫




ただ軌跡だけが

私の熱を 奪って融けた

酔った勢い、とも言う

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