In die hohle Hand Verlangen,
掌なら懇願
貴方を裏切る事を許してください。
貴方をこの騒動に巻き込みたくなかったのです。でも、おれが貴方の立場だったら、自分が傷付いてもいいから巻き込まれたいとそう願うのでしょう。
…それでも、おれは貴方を傷つけたくないから…貴方を裏切る覚悟をしました。
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「私は貴方の事を自分の命をかけて守り通して見せます」
あの時、そう言ったおれに貴方は、
「命をかけなくてもいい、代わりに僕の傍にいてよ。ずっと一人だったから寂しいんだ。それに僕のせいで誰かが死ぬのは見たくない。だから、ずっと僕の傍から離れないって…居なくならないって約束してよ。」
と言ってくれましたね。あの時おれがどれだけ嬉しかったか、貴方にはわからないかも知れません。"命をかけなくてもいい"その言葉はおれが一番欲しがっていた言葉だったから…
だから、あの時貴方にそう言って貰えて嬉しかった、だからこそ余計に、貴方のためにこの命を使おうと思ったのです。
でも、おれはもうこの国にはいられません。どうやら仲間に騙されて敵国のスパイに仕立てあげられたみたいです。その仲間はおれだけ出世したのが気に食わなかったらしいです…しょうもない理由ですよね…
思わずおれも呆れてしまいました。
これ以上おれが貴方の傍にいたら貴方にも被害が及んでいまうかも知れない…
…だから、貴方とは離れないといけないのに…なのに、貴方と過ごした日々が頭の中に思い浮かんで来て、離れるのが辛くなってくるんです…
貴方と過ごした日々は、平凡で穏やかで…貴方は俺の知らない事をたくさん教えてくれて…周りから貴方は余り笑わないと聞いていたのに、忙しなく変わる表情に、俺はいつも見惚れて…そして、いつの間にか貴方を好きになっていたのです。
眠っている貴方には届かないと分かっていますが、どうしても伝えたかった。どうか、おれの思いに気づかないで…そして、おれが貴方の傍からいなくなったら…おれの事など忘れて幸せになって下さい。
…おれは、貴方の事を誰よりも、愛しています。
そう言っておれは貴方の掌にキスをした…
In die hohle Hand Verlangen, 掌なら懇願
…伝えるのが遅いんだよ。お前はずっと僕のものなのだから…だから、離れるなんて許さない。
Auf die Hande kust die Achtung, 手なら尊敬
Freundschaft auf die offne Stirn, 額なら友情
Auf die Wange Wohlgefallen, 頬なら厚意
Sel'ge Liebe auf den Mund; 唇なら愛情
Aufs geschlosne Aug' die Sehnsucht, 瞼なら憧れ
In die hohle Hand Verlangen, 掌なら懇願
Arm und Nacken die Begierde, 腕と首なら欲望
Ubrall sonst die Raserei. それ以外は "狂気の沙汰"
フランツ・グリルパルツァーの『接吻』という詩の一つ。