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3、私は絡まれる


 よろしくお願いします。





 会場の扉の前で、またいつもの護衛騎士に会いました。私と目が合うと、ほっとした表情になります。


 はは。大丈夫ですよ。さすがに今日は()()しませんから。


 ファンファーレが鳴り、会場内のガヤガヤとした音が消えました。扉が開かれると同時に護衛騎士から朗々と名を呼ばれます。

 私とアルは微動だにせずそれに耳を傾け、呼び終わったと同時に一歩足を踏み出しました。


 一斉に視線が集まります。給仕の者も音を立てない様会場の端に寄って立ち止まりますから、招待客だけでなく本当に会場内全員の視線を二人占めですね。

 今隣国へ留学している(ことになっている)アルは滅多に人前へと出ないので、最早珍獣状態です。ふふ。綺麗でしょう?この月の化身の様な女神が私の婚約者なのです。誰にもあげませんからね。

私はアルのぬくもりを腕に感じながら、鼻高々に絨毯の上を進んで行きます。


 ある程度進むと最初の緊張感は薄れ、徐々に煩わしい視線を感じ始めました。予想以上ですね。きっと例の噂のせいでしょう。思わず出そうになる溜め息を気合いで飲み込みました。

 噂に関してはアルが何かを考えている様ですから、私が邪魔をする訳にはいきません。残り少ない道のりですが、気を引き締めてかかりましょう。


 さて、今日これからの流れは、まず玉座に座る父上に挨拶をして、隣の母上に挨拶をする。その後長兄家族と次兄夫婦の前を通り自席へ向かう。この時の挨拶は目礼だけでしたね。自席に着いたら座らず椅子の前に立ち、宰相の紹介を受け……

 あと十数歩で陛下のいる玉座下の階段に辿り着こうという時、突然目の前に可愛らしい令嬢が飛び出して来ました。思考を遮られた私はつい眉間に皺が寄ってしまったと思います。


「悪女アルミネラ! アルフォンス様を解放しなさい!」


 この方は何を言っているのでしょうか。ちらりとアルを見やると、持っていた扇子を広げて口元を隠し小さく舌打ちをしました。警備の不手際に機嫌が悪くなってしまった様です。

 きっと頭の中で今日の警備はどこの護衛騎士かを思い出しているのでしょう。今夜の主役は私なので、主力は第三王子(うちの)ところの者ではないでしょうか。入り口にいつもの護衛騎士も居ましたから。うーん。明日の鍛練場は死屍累々となるでしょう。


 しかし、アルを貶める様な言葉に気が立ちます。何の権利があってアルを呼び捨てているのでしょうか。もうそれだけで私は彼女を切り捨ててしまいたいですが、祝いの席を血に染める訳にもいきませんね。ここは我慢です。


 無視して前に出ようとするも、彼女は私達の進路を邪魔します。いい加減にしてください。

 周囲の貴族たちのざわめきも大きくなってきました。噂がなんですか。真実を知らない人が好き勝手に言わないでください。


「あなたはどこのどなたですか? 名乗りなさい」


 私は埒が明かないと、令嬢に名乗るように命じました。同時に父上と護衛騎士に目配せをします。きっと保護者を探し出してくれるはず。

 あぁ、隣のアルがイライラとしていますね。爆発する前に治まればいいのですが。


「わたしはクラリスです! ウィル、わたしの事を忘れてしまったのですか? まさか、アルミネラに洗脳された!?」


 この失礼な令嬢は一体誰なのでしょうか。記憶を浚ってもクラリスと言う令嬢の知り合いが出てきません。アルに視線を送っても、わからないと首を小さく横に振るだけです。普段から一緒にいるアルにもわからないとは、どういう事なのでしょう。だいたい、私の事をウィルと呼んでいるのは家族とアルだけなのですが。

 それにアルが私相手に洗脳などする必要がありません。アルに何かを()()されたら私が負けるのは確実なので従わざる……コホン。そもそも王家の血筋の者には加護によって洗脳関係の魔法等が効かないのですが。あ、これは最重要機密事項でした。


 この事態をどう収拾しようかと途方に暮れていると、アルが私の腕に添えるだけだった手を絡み付かせました。まるでか弱い御令嬢の様に私に縋り付きます。扇子の下を覗き込まなければ、と言う注意書付きですが。


「ウィル、これ、排除して良いか?」


 苛立ちからか、口調と声がアルフォンスになっています。いえ、いつもより更に掠れた低い声ですね。しかも許可を求めているようには聞こえないのですが。ここは祝いの席だからダメですよ。アル、顔が怖いです!!

 父上、そろそろ助けて頂けませんか。そうですか、自分達で何とかしろと。はぁ。もうどうなっても知りません。


「申し訳ありませんが、私にクラリスと言う名の令嬢の知り合いは居ません。それに洗脳などとは、何かの勘違いではありませんか? それから、そろそろ退いていただいてもよろしいでしょうか。私たちが席に着かないと夜会が始まりませんので」


 今ならまだ捕らえたりしませんよと優しく遠回しに言ってみました。あなたは自分のしている事が国の行事を妨害していると気付いていますか? ただでさえ私たちの入場が遅れているので、これ以上延ばしたくありません。早く夜会を終わらせないと、珍しく令嬢モードのアルといちゃこら出来ないじゃないですか。

 ……アル、睨まないでください。悲しいです。


「ウィルの事もわたしが悪女から解放してみせます! アーロン! デリック! 手伝って!」


 え? ええー? こっちの意図を全然汲んでくれない!! それにアーロンとデリックって、あなたは本気で言っているのですか? 二人ともアルに負け続けているどころか、私にすらも勝てないのに?

 ほら、案の定私を見て狼狽えています。いや、衆目の中での王族や公爵令嬢に対する不敬に今更ながら尻込みしているのですね。帰ったらそれぞれのお家でお仕置きされるのは確実でしょう。

 うーん。確かその二人と常に行動を共にしている女子学生が居たような。さっぱり顔が思い出せませんが、もしかするとその女子学生がクラリスさんですかね?


 アルが何かを思い出した様です。そして口元が引き攣りました。


「どうしました?」


「思い出した。あの勘違い女だ」


 ……そう言えば、よくわからない女子学生に纏わり付かれていると言っていましたね。彼女だったのですか。私より接点が多かったはずなのになぜ気付かなかったのですか?

 あぁ、なるほど。会う度に煩わしくて記憶から抹消していたのですね。クラリス嬢、ご愁傷さまです。


「どうしましょう」

「暴れて良いか?」


 アルと言葉が被ってしまいました。血は見ない様にするからと言われても……。

 チラリと父上に視線を送りましたが逸らされました。好きにすれば良いと捉えます。本当にどうなっても知りませんよ。


「……アルのお好きにどうぞ」


 私は怒りで荒れ狂う獅子を解き放ちました。文句は我らが国王陛下に言ってくださいね。私は一切受け付けません。





 第三王子の護衛騎士、今日の仕事は会場警備その他

 いつもの護衛騎士はいつもの護衛騎士


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