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初心者研修3

アーシーという名前のムキマッチョな女先輩冒険者が、女性テントに入っていったのは気配で察知していたよ?

でもさ、普通に野営してるんだから、敵襲ぐらいは最低でも予想や準備はしてしかるべきであろう。


「……もう知らん。俺には関係ない。一人とっちめといたんだから後はそっちで何とかしやがれ」


 なんで臨死体験するほどの毒を盛った奴らを助けにゃならん。お嬢様を助けるのは王子様と相場が決まっておろうが。

……アドも臨死体験したのかな。って、まだ動けねぇのかな。仕方ない。もうホント面倒くせぇ。



 ベアトリスは公爵家の娘である。その公爵家の娘を護衛する、身の回りの世話をするために同じ歳に生まれた男爵家の女子が私ことフィーラの役目であり、今までも陰日向にとベアトリスを立てて来た。

しかし、基本的に令嬢である彼女達に身を守る力もあるはずもない。確かに、今回護衛として付添はしたものの、本来そういった役目ではないのである。


 今回のこともそうだ。

もともとアド様が冒険者講習を受けるに当たり、その婚約者であるベアトリス様が一緒に受けると言い出したのが始まりである。

冒険者研修を受けるのは学園で必須とされているが、貴族家の者達はそのへんは適当にサボるのが常である。


 しかし、アド様はそれを良しとせずに律儀に参加を表明したものだから他の者達はたまったものではない。

「ならば私も参加しますわ」と、ベアトリス様が言い始めてしまったのである。


 それでも腕の立つ冒険者が付きそうということ、安全なキャンプ感覚で問題ないということ、そんな説明を受けて参加したはずである。


「なのに、どうしてこんなことに……」


 組み上げて泊まっていたテントは無残に破壊され、その前には狂ったように斧を振り回しているアーシーの姿があった。

今日が私の命日になるのは嫌だとこっそりとその場から逃げようとした瞬間。


「うああああぁぁぁっ!」


 と、大声を上げて私に向かってアーシーが斧を振り下ろしてきた。


ドゴン!


 運良く外れたのか、私の横の地面が陥没している。あんなので殴られたら、私の体なんてグチャグチャになってしまう。

そんなことが頭によぎった瞬間。私の前に立つ黒髪の男の子の背中が見える。


「ふぃー、あぶねぇ」


 そんな声が聞こえたと思ったら、私は緊張の糸が切れたのか視界が暗くなっていった。



 とりあえず斧を振り回してるマッチョ姉さんの場所に駆けつけると、腰を抜かして動けなくなっていた令嬢Aさんが目に入った。

めちゃくちゃに振り回している斧が、正確にその娘に向かって振り下ろされた時にはギリギリ間に合うことができた。


 振り下ろされる斧を全力で横っ腹を蹴りつけ軌道を逸らす。

凄まじい重量だったが、何とか令嬢Aさんへ向かう軌道をずらすことができた。


「ふぃー、あぶねぇ」


 喫緊の自体は回避したものの事態は好転していない。俺に向かって敵意を顕にしてくれたのだから、この場から少しでも距離を離すように立ち回る。

荷物? 知らん! 人以外なら壊れても良し。ヒョイヒョイと斧を避けながら充分に距離を離してから気づく。

今頃ノコノコと貴族様御一行がこちらに気づいて向かって来ているのである。はっきり邪魔である。


「とりあえず、気を失ってもらうのが一番か……」


 先程の迂闊先輩と違い、このマッチョ姉さんは中々の手練である。下手に手加減するとこちらが危うい。

かと言って女を殴るのは恐ろしい。後が恐ろしい。一応斧は危ないからとっとと手放させてますよ。さっきの蹴りで落とさなかったとは言え、手を直接蹴り飛ばせば流石に手放すよね。


「……なにをしているの! 早く取り押さえなさい!」


 ヒョイヒョイとマッチョ先輩の素手の攻撃を避ける俺が余裕そうに見えたのか、そうベアトお嬢様がおっしゃる。

しかし、それが不味かったのだろう。声に反応したマッチョ先輩がベアトお嬢様に向かって行ってしまった。


だが、安心して欲しい。もう手は打ってある。

俺は近くに転がしていた迂闊先輩を拾うと全力でマッチョ先輩に向かってぶん投げた。


 もちろんベアトお嬢様達の対角線上にはならないようにしたんだよ。でも、逸れた場所に他の男達が居るとは思わないやん。

憐れ、衝突した人たちが死屍累々な様相を呈する結果になってしまった。


……俺は悪くない。


読んでくれてありがとうございます。

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