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初心者? 講習 1

二泊三日の旅行もとい、研修のようなものを受けることになった。

周囲の森や、町と町を繋ぐ街道に湧き出ている魔物を退治が基本事項。途中でテントを組み上げて一晩を明かし、見張りの訓練。


 全部、一度はやったことがある上に、テントなんて持ち歩いたことも無い野宿が専らだった俺はかなり感動した。なんて楽な研修だと。


今回の研修は女三人パーティと男三人パーティと俺の七人が参加する。

付きそう上級冒険者は二人で、何かあったら助けてくれるという至れりつくせりである。


「冒険者に必要なのは慎重さだ。迂闊に踏み込まない、迂闊に音を出さない。いいな、迂闊なことはするなよ」


 うむ、迂闊迂闊と聞かされて、迂闊とはなんぞや?という状態。確かげしゅたると崩壊なるものだったか。まぁ、一応先輩の言うことだきちんと心に書き留めておこう。


迂闊に突っ込まない、迂闊に迂闊しない。迂闊だったら迂闊でした。迂闊迂闊。


「……迂闊」


ぼそっと口にだしたのが悪かったのか、一緒に話を聞いていた女三人組が「ぷっ」っと吹き出した。

ギロリと睨まれる。怖いよ迂闊先輩。……名前なんだっけ?


「そこ、私達が付きそうとは言え、魔物に対応するんだ。遊び感覚はやめてほしいな。罰として君には荷物持ちをしてもらう」


「……うか。げふん。了解しました」


まぁ、何とも締まらぬが、とりあえずは街をでて魔物退治と洒落込むことになりました。



遊び感覚はと言われても、そりゃあ男と女がこれだけ入れば多少やかましいのは仕方がない。

背負い袋を背中に背負い、前面にも抱え、右肩左肩と合計四つ背負う俺は何とも言えない気持ちで歩き続ける。

荷物は全部で八つだったので、半分は俺が持つことになった訳だが、この状況で魔物が出たらこの荷物放り投げて良いのかね?


「ねぇねぇ、君」


「ん? 俺か?」


「私達、みんな学生なんだけどさ。君はパーティ組んでないの?」


「うむ。一人であるな。君たちは学生とのことだが、全員そうなのか?」


「そうだよ。俺ら六人は学生って訳。今回の初心者講習は一応必須科目だからな。ったく、ダルいよな」


 そう言って声を掛けてきたのは真っ赤な髪をした、若干幼さの残るが精悍な顔つきをした男である。

手ぶらな先輩と二人の男女、似た背負い袋を持つ残り四人。つか、これ虐めだよな、まぁ、良いんだが。


「あ、俺の名前はアドっていうんだ。このやかましい女達も、連れの二人もみんな同じクラスの学生って訳」


「ふむ、ご丁寧にどうも。秋夜だ。気楽に呼んでくれ」


 どうにも蓬莱までつけると面倒なことになると昨日学んだからな。もう秋夜だけでいい。


「やかましいとは聞き捨てなりませんわね。この公爵令嬢であるベアトリスに向かっての……」


「まぁまぁ、落ち着けってベアト。こんなタイミングで一緒になるなんて中々ないんだから、仲良くやろうぜ」


「あなたが最初に言い始めたことではないですか!」


 なんというか、仲がいいな。とは思うが、正直他の面々が困っている。

最初から何だかオカシイとは思っていたんだよ。この二人以外はさ、メイド服に執事服きてるしさ。それなりに腕が立つのも見て取れるくらいだけど。

色々推察した結果。今回のこの試験に身分の高いこの二人を護衛しつつ、見守りながら御学友な感じかな? まぁ、当たらずとも遠からずだとは思う。


「ま、痴話喧嘩なら二人きりの時にしてもらって、俺は荷物を運ぶだけだよ。手伝ってくれると嬉しいんだけど駄目かな?」


「ちちちち、痴話喧嘩ではありませんわ。か、勘違いしないでくださいまし!」


 お~金髪縦ロールのお嬢様がつんでれとやらを全開ですな。うむうむ、華月もそんな時期があったな。あの時は……妹様が今が攻め時とかなんとかでかなり面倒なことになったな。


「アドもあんまりベアトリスさんを虐めてやるなよ。色々後悔しないようにしないと、女は怖いからな……」


もちろん、耳打ちである。聞かせたら更に炎上するのは確実なのでアドの耳元でささやく程度にした。

お、今、俺がアドに近づいた瞬間、護衛の二人が凄い睨んできた。あぁ、怖い。


「そこの二人も、俺は敵とか刺客とかじゃないし、つか、この国に来たの二日前だし、色々面倒はないから大丈夫。安心してくれ。ついでにベアトリスさんの護衛の二人もな」


 そう声をかけるが、護衛の四人は歳の割には気が利いているのか、素知らぬ素振り。なかなか、優秀な面々である。重たい荷物も背負ってくれまいか。


「くっくっ、シュウヤは面白い奴だな。気に入った、今回の研修が終わったら、俺のところに来ないか? こき使ってやるぞ?」


 やはりやんごとなき事情の方なのだろう、アドはカラカラと笑いながらそう宣う。


「何をコソコソと話されてるのかしら? シュウヤさんも私達はあくまで学生六人ですわ。変な勘ぐりはおよしくださいませ」


「これは失礼しました、ベアトリスお嬢様。まあ、短い日数ではあるが、仲良く務めを果たそうではないか」


 色々学生のことを聞きながら、今日は魔物とも遭遇せずに用意されていた野営の場所までたどり着いた。

研修で何度も使われている場所らしく、新人冒険者も安心して野営できるという親切な場所である。アドがこれではキャンプと変わらんではないかと呟いていたのが聞こえた。



まぁ、なんというか、なんで、アドとベアトが居るのだろうか。

どう考えても高貴な出自であろう。奴隷制度があるということは、身分制度によって格というものが存在する国であることは容易に想像できる。

ドッコイセと背負った荷物をおろしながら二人を観察しつつ、護衛の生徒と護衛であろう先輩冒険者を観察する。


「なんか、面倒くさいことに巻き込まれる気がするな。正直他所でやってくれとは思うが……」


そうぼやきながら荷を解き、テントを組み上げる。このテント便利だな、ウチの国にも欲しい……。


「ほら、食事の用意をしなさい。火は起こしてあるから、自由に使いなさい」


 先輩冒険者Bさん。えっと女性で背が高い、筋肉質の斧を持った……要するにマッチョ姉さん。遠目だと男にしか見えないな。

名前は確か……なんだっけ?


「料理はここに来るまでに女子生徒……ごほん。研修を受けている女性冒険者三名が腕を奮ってくれると言うので其れをいただこうと思ってますよ」


「……へぇ、お嬢様方が料理ね。君、お腹こわしても知らないわよ?」


 呵呵と笑い、マッチョ姉さんが背中をバンバン叩いてくる。おお、結構痛いな。


「腹に入っちまえば大丈夫ですよ。不味かろうが、食べてやるのが心意気ってものですよ。なぁ! アドくん!」


 こっそり自分の分の乾物を荷物から取り出し避難しようとしていたアドくんに声をかける。もちろん、メシマズなのは確定していたが逃げるのは駄目じゃないかな。


「……秋夜。お前はベアトの料理の腕前を知らないから、アレはヤヴァいんだ。頼む、見逃してくれ」


 そんな青い顔で言われたら答える言葉は決まっているな。これは幻刀流門徒の奴らと学んだ処世術。


「安心しろ! 骨は拾ってやる!」


 俺たちは、その屍を超えて明日に向かって生きていくんだ。


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