街と奴隷と冒険者
国の名前はエルダート公国。街の名前はワーズラン。良し覚えた。
とりあえず、まずやることは決まっている。もちろん、奴隷になることである。
そんな訳でやってきました奴隷商会。いやぁ、高級宿もかくやというほどの外観である。
家の入り口に立つ柄の悪そうな男に声をかけられる。
「小僧、ここに何用だ? ここがどんな場所か解って来たんだろうな?」
「もちろん、ここがこの街有数の奴隷商会と聞いて来ましたよ。目的は主人と会ってから伝えたいのですができますかね?」
「まぁ、良いだろう」
そして革張りのソファーに座って待ちましたよ。いや、なんかこの椅子凄い良いな。うちなんて座布団だったからな
「お待たせしました。今日はどのようなご用件で……」
俺は懐から三十枚の金貨をジャラッと机に出してニッコリと返答する。
「奴隷になりにきた。いくらで奴隷になれる?」
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滾々と奴隷について説明された。普通、金を払って奴隷を買うものであって、金を払って奴隷になるものではないらしい。
どのような奴隷が居るのかという説明も聞かされた。戦闘奴隷、性奴隷、犯罪奴隷、労働奴隷、勉学奴隷、など、聞いたこともない奴隷の仕組みも教わった。
しかし、奴隷になれないのであれば職をどうしたものかと訪ねたら、そういった者達は冒険者というものになるのが通例であるらしい。
片田舎から一攫千金を夢見て冒険者になり、大体の者達は夢やぶれて奴隷落ちか、死ぬからしい。
なんとも世知辛い職業である。なら最初から奴隷になったほうが早いではないかと言ったら、普通は食い詰めて犯罪を犯して奴隷になるのであってなりたくてなるものではないとのこと。
ちなみに、門番をやっていた男も奴隷らしい。戦闘奴隷と呼ばれ、その腕を買われて自分の借金を返済しているとのこと。普通に門番雇えばいいのにと聞いたら、奴隷は主人に逆らえないようになる呪術を施されるらしいので安心とのこと。
「どうせなら買っていかれてはいかがでしょう?」
「……ふむ、話を聞いてみたいとは思うが、また今度にしておく。話を聞くに、街に来て早々に奴隷を侍らせるのは外聞が悪いというのが理解できた。ご教授感謝する」
とにかく、一度冒険者ギルドへ行って登録したほうが良いと懇切丁寧に説明され俺はその冒険者ギルドに向かうことにした。
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冒険者ギルドである。盾の前に剣とハンマーがバッテンに描かれた看板が目印である。
受付に人が居るのを確認し、とにかく話を聞いてみることにした。まずは何も知らないからね。
「失礼、ギルドに登録を行いたいのだが、こちらで可能だろうか?」
「あ、はい。失礼ですがご職業のほうは?」
「無職だ」
「そ、そうですか。では、どのようなことが得意ですか?」
「戦闘はそれなりに出来ると思っている、他に出来ることはすぐには思いつかん……」
「そ、そうですか。では、魔物を間引いたり森で薬草を採取するなどの依頼を受けるのはいかがでしょうか?」
「うむ、そうさせてもらおう。入会手続きなどはあるのか?」
「はい、こちらに記入してください。文字がわからければ代筆いたしますよ」
「大丈夫だ。ふむ、どれどれ……」
職業、年齢、名前にと適当に記入する。
「はい、ではこちらがギルドカードになります。血を一滴ほど垂らしてもらえれば、手続き完了となります」
手渡された短刀でシュッと親指に傷をつけてカードにベトリ。なんというか、バイ菌とか細菌とか大丈夫だろうか? とは思うが、逆らうのも文句を言うのも面倒くさい。
手渡されたカードは討伐した魔物名やその数。他にも色々機能があるらしい、ついでに言うと犯罪とかもこれである程度取り締まれるそうだ。
なので、入会は基本的に簡単に行われる。審査とかはない、というよりこのカードを持たせたほうが犯罪の抑止力になるんだそうだ。
蓬莱国にも似たような物がある。札である。巫女が管理する札を持つことで似たように犯罪の抑止力となるのだが、瘴気に当てられ鬼に付け込まれてないかの確認も秘密裏に行われていたりする。
一応名目としては幸運のお守り程度の認識であるので、皆持ち歩いてはいるのだが。
「ところで、お嬢さん。ちと訪ねたいのだが、この職業の欄に勝手に無職以外が表示されているのだが?」
「あ、それは生まれ持った職業のことです。その人がどのようなことに向いているのかを知る指標になってるんですよ。もちろん、それが全てではありませんけどね」
「ふむ……まぁ、いいか」
カードに表示された俺の職業は”御曹司”である。意味がわからん。
いや、間違えては居ないんだが、今は違う上に、それは職業じゃないだろ。なんだよ、生まれ持った職業が御曹司って意味不明にも程があるわ。
その後、俺は紹介された安宿を取って、冒険者協会が行っているという初心者講習というものに参加することとなった。