表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

変女

 船を降りて森をさまよった結果。盗賊団に拾われて、塒までやってきた。

こうして盗賊団”漁火”の塒までやってきた俺は、中々愉快なもてなしを受けている最中である。


 血まみれの荷物が転がる洞窟の中、まぁお世辞にも料理とは言えない食い物を平らげるオッサン連中のむさ苦しいことこの上ない。

今更であるが、俺は盗賊に対して特に嫌悪感は無い。なぜなら彼等は生きるためにこの行為を行っているのであって、それを蔓延らせる国のあり方が悪いのである。

襲われた側は、襲撃に備えて傭兵なりを雇えば良いだけであるし、襲われる前に盗賊を駆除しておけば良かっただけの話である。


 それで俺は盗賊達の塒に居るわけだが、手足を縛られた妹と同じくらいの年齢の子供を見てどう思うかだが……さて、困ったね。


「ウズラクさん。ちと尋ねるが、この女の子は何でしょうか? 流石にこの扱いは無体と思うのですが」


「あぁ、こいつか。こう見えて魔法使いらしくてな、こうして魔法防止の猿ぐつわして縄でふん縛っておかねぇと、洞窟の中でファイアボールの魔法を唱えかねんからな。こうしてる訳だ」


「いや、流石にこんな閉塞状況で炎の魔法なんて使わないでしょうに。落石酸欠諸々普通に死ねますよ全員」


「それをやりかねんからこの状況って訳だ。正直、売っぱらう前に色々やらかしたい奴らもいるんだが、それを考えると流石に縄は解けねぇって話だ」


「ふむ、なるほど、この娘は頭がオカシイので仕方なくということですね。それでは仕方ありませんね」


 俺が居た国。名前は蓬莱国。恥ずかしいが、まぁそれは置いておくとして、気が触れた人間は何人も見てきた。瘴気に触れて気が狂うと、殺人衝動に駆られる人もいる。

母もこの瘴気に当てられたが、病弱になっただけで、気が触れたわけではない。人によって症状が異なるのがこの瘴気毒の怖いところである。

瘴気毒に打ち克つには幻刀顕現が必須となる。まだ、幻刀顕現していなかった頃に鬼に挑んだ時は目眩頭痛嘔吐と三重苦で苦しんだのが懐かしい。


 まぁ、何が言いたいかと言うと、自死を厭わぬ行動を平気で取れてしまう。気が触れた人間ほど怖いものはない。あぁ、恐ろしい。


「ん~~~! む~~~~~~~っ!」


 猿ぐつわを咥えさせられている状態なのに、必死にこちらに怒りの目を向ける娘。流石に憐れとは思うが、ここは盗賊団の塒である。ならば、郷に入れば郷に従うべきである。

しかし、この娘のなんと破廉恥な格好なことか。太もも丸見えなスカートなるものを履き、今にも下着が見えてしまいそうではないか。うむ、これはまさしく露出狂である。

青髪の端正な顔立ち、見目麗しい娘とは思うが気狂いの露出狂とは世も末。あぁ、恐ろしい。


「目の毒であるな。暫くそこ居らで寝かせてもらおう。何かあれば声をかけてくれ」


俺は洞窟の寝っ転がるのに都合が良さそうな場所に身を投げると、とっとと寝ることにした。



ドカーンと音が鳴り響く。おぉ、マジでぶっ放しやがったこの変態女。


夜明け前の静かな塒に轟音が鳴り響く。そんな目覚まし要らんのにと思いながらも流石に呑気に寝ている訳にも行かずに状況を検める。


はだけた服装の娘、口に咥えられた猿ぐつわがない。怒りの表情で腕を突き出している。そして「ファイアボール」と唱えておる。

うむ、黒だな。


塒の中は蜂の巣をつついたかのような状況。さて、俺もとっととここから出ていくか。


「待ちなさい! そこのキミ」


 なんてノンびりしていたら声をかけられた。


「はぁ? なんでございましょうか?」


「キミはコイツラの仲間? それとも、仲間?」


 仲間確定じゃねぇか。まぁ、そりゃ普通に寝っ転がってりゃ仲間と思われるのが当然か。

一宿一飯の恩はあるにはあるが、仲間と問われると返答に困るな。


「奴隷として売られる予定だったんだが、それを仲間と呼ぶ間柄と問われると難しいところだな」


「……奴隷として売られるって、どうしてキミはそう平然と寝ていられたのかな?」


「泊まるのには丁度いいし、腹も減っていたからな。なに、外で夜露とともに寝るよりは遥かにマシかと思ってな」


「……仲間じゃないのね? なら私と一緒に逃げてくれるわよね? あ、キミは強いのかな?」


 一気に捲し立てられるが、別に断る理由もなし。


「そこそこは強いと自負してはいるし、逃げる先に村か街があるならば是非もないな」


 俺は塒の中に転がっている棒を拾って肩に担ぐ。


「なら、連中を片付けるかね。まぁ一宿一飯の恩は徒で返すことになるとは、これも奇縁と言うべきか。とっとと済ますぞ変態女」


「へ、変態……私のどこが変態なのよ!」


「おっとすまない、破廉恥な格好をして洞窟でファイアボールをぶっ放す頭が飛んでる娘であったな。変態ではなかったな」


「さっきより酷くなってない? まあ良いわ。私の名前はイラルイ=ラル=ラングレイよ」


「何とも舌を噛みそうな名であるな。俺の名前は蓬莱秋夜だ。気楽に秋夜とでも呼んでくれ」


「私のことはイラルでいいわよ。さ、行きましょう。……私の胸を小さいとか言ったやつは絶対に殺すわ……」


 まぁ手を出された時に色々あったんだろうな。うっかりバカが猿ぐつわを解いて、その後は今に至るわけだな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ