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内務省特別完治科  作者: 美作為朝
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5


「脳震盪はとは外部からの衝撃により、脳の機能そのものが一時的な意識障害、記憶障害を起こすことを臨床的に言う」

 医学博士、河本均こうもとひとし博士の著書「臨床治験から診た脳とその機能」の第四章より。


 脳震盪の症状が出ている状態でのサインまたは押捺は法的に有効なのだろうか?。遼生にしてはかなり高度なことをベッドに横臥し考えていた。

 『雷三日』とはよく言ったものである。

 病院特有の早い夕食になると外が黒雲で覆われゴロゴロ言い出す。

 あのあと怖いものがなくなった遼生は漆原講師に不眠を訴えるといとも簡単に睡眠導入剤が処方された。この夕食後から出るはずである。

 食後看護師から薬をもらう。

 早めのトイレに行って眠ろうとする。

 嫌な気分のときは眠るに限る。

 途端、雷鳴だ。

 大きな音だ。

 近くに落雷したらしい。

 おれは、眠るんだ!。自分に言い聞かせる。

 全世界で人の体をあれこれいじれるのは医者だけ。そう思ってると早くも眠くなってきた。

 恐るべし眠導剤。恐るべし漆原講師。そして骨髄液を採取される憐れな俺。

 気がついたら、うとうとしてきて遼生は知らぬ間に眠っていた。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ」


 遠くで叫び響く悲鳴で夜中目が冷めた。

 不思議なもので眠っていたはずなのに、悲鳴を聞いた記憶だけが残っている。


「まぁたか」


 カーテン越しの隣のベッドの谷川さんの声だ。だが悲鳴は違う。もっと遠くだった。

 そして確かに聞いた。

 外はまたもや雷鳴と土砂降りの雨。

 落雷と雷鳴の音を聞き間違えたのだろうか?。

 確実に悲鳴を聞いた。

 時計を確かめる。午前一時三十七分。

 真っ暗だが谷川さんとなんとか情報を共有したい。


「ぐぅああああああああああああああああああああ」


 その時だった、また悲鳴がした。今度は疑う余地もない。

 声の伝わってくる感じからしてかなり離れた位置で大声を出している気がする。

 谷川さんに確かめるか、いや確かめたい。


「また、って、さっきの悲鳴よくあるんですか?」


 返事は早かった。隣人も同じ悩みを抱えているらしい。


「しょっちゅうだ、ここは精神科に認知症の人もたくさん入院されていると聞くから、、、」

「はぁ」


 遼生は曖昧な返事をし質問を重ねた。


「この病棟ですか?」

「いや、渡り廊下渡った、古い方の病棟だろう」


 少し納得できた。が。


「げぇええええええええええええええええええええええええええええええええ」


 悲鳴がもう一発。


「声はいつも違う声じゃ」


 と谷川さん。

 恐怖や苦痛に苦しむものが複数存在するということだ。

 看護師はなにをしているんだ。やめさせてくれ。苦痛があるなら取り除いてあげて欲しい。それが病院の仕事ではないのか、、、。

 そう思いながら遼生は枕を頭からかぶり必死に眠ろうとした。


「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 悲鳴が止まる気配がなかった。

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