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内務省特別完治科  作者: 美作為朝
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4

 「禁煙外来はじめました」

 能美相生病院の廊下の張り紙より。


 遼生が最世に思ったのは、こいつは胡散臭いやつだということだけだった。

 漆原うるしばら医師は遼生の目の前に居た。

 診察室はB-2、いつもの整形外科だ。小さな看板だけ付け替えるのだ。

 漆原医師は実際は県内にある大学の医学部の特任講師にあたるらしい、正確には講師と呼ぶべきだ。

 そもそも、医師は全員六年間大学に行く全員が修士の学位を持っている研究者だと考えたら良い。

 そこの大学の医学部のポストが足りず出向という形でこの能美相生病院に来ているらしい。

 医学部の医局の支配とか、現役の天下りとか、そんな関係か?。

 専門学校生の遼生には見当すらつかない。  

 漆原医師は、年齢不詳。たぶん三十代か四十代前半。髪は黒々ふさふさ。太っていはいないがほっぺが膨らみ太って見える。これまた色白、白を越えて青白いほどの白さだ。松永医師よりはるかに知的そう。眼鏡を着用。互いの言葉やその場に関わらず表情が一切でないタイプ。座ってはいるが、なによりものすごい背が高い大男だ。

 パッと見て形容が難しい、駅の待合室、ショッピングモール、バスの中、誰もが居るべきところに完全に居ないタイプだ。

 見た目が人として変わっている。

 そうとしか言いようがない。


「カンチカ!?。そう松永先生が言ったのですか?」


 遼生の質問に漆原医師はそう答えた。

 抑揚のない喋り。

 一定のトーン。

 感情のない声。

  

「松永先生とはあまり面識がないのですが、完治科なんて呼び名冗談ですよ、最先端の再生医療の一種だとお考えください」

「僕の膝の、、」

「いえいえ、違いますよ、膝の治療とは一切関係がありません。しかしこれだけRB値の数値が高い人も本当に珍しい」

「アール・ビー?」

「はい、RB値です。で骨髄液の採取を早速行いたいのですが、日取りは二日後でいいですかね」

 

 えっ、そんなのいつ決まったの?。

 それはお断り出来るのですか、、と遼生が言おうとした瞬間。

 漆原医師は言葉を続けた。


「この石川県で医学が五十年、いや百年進歩しますよ、あるいは大きな体系として生物学上も含めた科学史上の革命を及ぼすかも知れない」


 医者は権威だ。医学を学んでいないものからすると命や身体に変化を及ぼせるマジシャンみたいなものだ。そして、世界中で医師だけに”人間をいじる”許可をどこの国も与えている。

 遼生も権威には弱かった。病院だから滅多なことをされるわけではないことは理解できる。ギプスでもかなり面倒なのに面倒なことは嫌だ。早く退院したいだけだ。

 探りを入れてみる。


「その採取には痛みを生じますか」

「昔はそうでしたが、ご希望なら局部麻酔をおかけますよ」


 無言の遼生。

 鼓動が急激に早まる。

 医学の進歩だろが、科学史だろうが今の俺には関係ない。嫌なものは嫌だ。

 心臓がドキドキするなか、遼生が言った。


「それはお断りできますか?」

「お断りもなにも、もう山下さんは膝の治療の折に押捺とサインで了承されてますから」

「えっ!?」


 漆原医師は一枚の書面を遼生に見せた。

 そこには死ぬほど見覚えのある自身の筆跡で名前が記されていた。

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