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内務省特別完治科  作者: 美作為朝
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 「当院ではおくすり手帳の御使用をオススメしています」

 能美相生病院の受付の張り紙より。


 衣食住整っているが、入院生活ほど退屈なものはない。規則だと言われスマホは取り上げられた。テレビは有料。昼間何もすることがないので逆に夜、目が冴えて眠れない。

 なんとか昼間疲れる具合にして夜寝ようと頑張るが、これが難しい。 

 しかも、遼生は保険証なしでこの病院に担ぎ込まれ医療費の精算が非常にややこしいことになっていると医療事務にも言われた。

 この能美相生病院は山合やまあいにあるらしい。

 窓から見える範囲は森と林だ。

 キャンプだと思えば環境は良い。

 虫刺されの心配もなく冷房もきっちり効いてるし。

 夏場だからか、わからないがここらあたりでは夕方になると急に黒雲が空を覆い、かみなりがゴロゴロ言い出す。

 病院の夕食は早い。

 遼生が夕食を食べていると、外では雷がゴロゴロ言い出した。

 カーテン越しに隣のベッドの谷川さんが言った。

   

「まぁた、雷だ」


 部屋で相槌を打つものはいない。病室で騒ぐのは厳禁だ。

 静かに味の薄い半分冷えた夕食を黙々と食べる。


 消灯となったその晩。激しい落雷の音で遼生は目が冷めた。ベッドの脇に備え付けられた時計を見ると夜中の一時過ぎ。

 眠りが浅い。

 小便にでも行くか、、、、。そう思った時、雷鳴とともに激しく土砂降りのような雨が降ってきた。

 音でわかる。

 ベッドの脇の明かりをつけた。

 松葉杖を手探りで探していると激しい降雨の音とともに、小さな掛け声が病棟の外から聞こえる。


「イチ、、、ニイ。イチ、、、、、ニイ」


 なんだ、、。気になる。

 確かに病棟の外から聞こえる。この激しい雨の中。

 半身を起こし、ベッドの周りのカーテンを少し開けると窓にはカーテンがきっちりかかっている。

 外では激しい土砂降りの雨の音。


「イチ、、、ニイ。イチ、、、、、ニイ」

 

 掛け声はどんどん大きくなる。

 病棟の前には駐車スペースを兼ねたちょっとした庭があるのを知っている。

 人の声であることはまちがいない。

 こんな雨の中、、、、。

 単純に怖い。

 掛け声が最も大きくなりやがて小さくなりだしたところで窓枠を支えに身体を起こした。

 窓のカーテンを小さく開ける。

 外を見る。

 窓には風で吹き付けられた雨粒が付いていてよく見えない。

 この病室は二階にある。

 が、見えた。

 ぼんやり、見えた。

 雨の中、二十人の戦時中の傷病兵が着ていたような白い襦袢のようなものを着た集団が白い帽子をかぶり駆け足をゆっくりしている。

 二十人の集団の斜め前方と斜め後方には雨合羽を着た男性の看護師らしきものが付いていっしょに駆けている。

 なんだこれ!?。

 見て、ぱっと遼生が思ったのは軍隊の基礎訓練。ブートキャンプ。旧軍の内務班の訓練。

 しかし、駆け足にしては、掛け声の割にものすごく集団の動きが遅い。これで走っているといえるのか、、。

 病人を夜中の雷雨の中、走らせているのだろうか、、。

 そのとき、集団の斜め後方に付いていた雨合羽の男性看護師が振り向いてこちらを見た気がした。

 遼生はぱっと小さくめくったカーテンを放し窓枠から離れた。

 遼生は松葉杖も使わずにものすごい勢いでケンケンでトイレまで行くと用を済ませ、ベッドに戻り枕をかぶり眠った。

 雷鳴とものすごい雨音だけが病棟の外に響いていた。

 その夜はなぜかとてもよく眠れた。

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