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「この先急カーブ」
国道の表示より。
夏場といえ、深夜の山間の国道の風は冷え切っていた。
夜風がとても気持ち良い。
こんな田舎の国道には、誰もいない。
山下遼生は、スロットルを戻し回転をエンジンの抑えた。400
ccの4ストロークのエンジンは今日も順調に回る。
後ろから1つ目のライトが迫ってきた。
バイクだな、遼生はすぐに思った。
フルフェイスのメット越しに後ろを見るまもなくそのフルカウルのバイクはもう遼生の隣に並んでいた。
国道は暗かったが、エンジン音でわかった。バブルの時代から駆け抜けて来たような甲高い2ストのフルカウル、レーサーレプリカ、250cc。
サイド・バイ・サイドで二台のバイクはヌルヌル国道を走る。
相手はクラッチを操作する左手でバカにしたように前へ二回手を降った。
競争しようというのだ。
こんな夜中に一人で走っているやつは概ね決まっている。走り屋か飛ばし屋だ。
更に遼生はバイクの速度を緩めた。
2ストのバイクのナンバーが見えた。他府県ナンバーそれもかなり遠方。
遼生がニヤリとした。
この国道のことはおれのほうが熟知している。
受けて立とう。
遼生も右手で二回前方に真似して手を降った。フルフェイスで相手の表情まで分からなかったが、頷いたことはわかった。
途端、2ストのエンジン音が咆哮した。
2ストは遼生の4ストロークのエンジンに比べ、ほぼ倍の馬力が出る。事実上相手は500ccこちらは400ccの勝負になる。
いい勝負だ。
前方の右カーブにバブル期のレーサーレプリカが突っ込んでいく。
あそこのアールを知っているのか、馬鹿め。しかも下りだ。
遼生もレーサーレプリカにテール・トゥ・ノーズでついていいく。
カクンっとレーサーレプリカがリーンウィズで車体を倒した。
遅い!。
遼生はその前のブレーキポイントで減速していた。前輪のサスペンションが大きくガクンと沈む。
が、なぜか遅いのは遼生だった。
落ち葉を踏んだのか、山からの湧き水が残っていたのか、減速と下りで車重がかかる前輪が切れ込んで、きれいに遼生はバイクごと転倒した。
遼生の右足に激痛がはしった。
遼生が覚えているのはそこまでだった。