001 妻(仮)と会う
身長は140cmもみたない少女が、身長180は超える冴えない大男へと指を突きつけた。
少女はフードを取ると、その赤毛の髪を夜風になびかせる。
「なるほど、申し送れました、私、ラーミ・ランフ・ヴァミュー。
貴方の妻になる予定の人間です」
冴えない大男、万年冒険者ランクEのマルクは、少女の言葉を聞くと、突然の事で頭を悩ませた。
◇◇◇
マグナと言う地方都市がある。
王国カーベランス所属の国であり、冒険者の出入りも多い。
その一角に薄汚れた建物があった。
冒険者ギルド、マグナ支店。
ギルドの扉を入る中年の男性。
彼の名はマルク、貴族ではないのでマルクという名前しかない。
齢は既に三十七を過ぎ、その高身長から当たりを見回す。
短い金髪に、使い込まれた革製の鎧、手入れされている短剣を腰に付けいる。
眉間にしわが寄っているのは怒っているわけではなく彼にとっては自然な表情であった。
冒険者ギルドの買取カウンターに立つと、その背負ってきた袋を無言で差し出す。
めがねを掛けた若い女性ギルド員、胸のプレートにはミーアとかかれており、そのミーアが申し訳なさそうな顔をマルクへと向けた。
「マルクさん、申し訳ありません。
薬草一種二種の買取は、先週分がまだあり、先週の半分の値段しか出せませんが、どうしましょうか」
「そうか……」
これは意地悪ではない、何でもかんでも買い取ると需要と供給がある。
何でもかんでも買い取っていたらギルドも破綻するし、薬草も取りつくされる。
マルクは無意識に考え込む。
(どうするか……。いや、持って帰っても腐るだけだ、シスターの所に持っていくお金も欲しい)
二人の会話がギルド内に漏れると、依頼書を探している若い冒険者が下種な笑いを浮かべ、陰口を叩いてた。
低ランクのおっさん来てるぞー。
失礼だろっ、彼は薬草ハンターだっ!
もう引退したほうがいいんじゃね? まて、彼から薬草とったら飢え死にするぞ。
いや彼は薬草で城を建てるらしい。
なんと、それは雑草城とでもいうのか?
など、どれも酷い雑言であった。
彼らは若く、冒険者としてもランクも、マルクより上のDやCなどである。
そう、マルクは中年という世代に上がったのにランクがまだ、『E』なのだ。
冒険者ギルドには冒険者にランク付けを行っており、上からS・A・B・C・D・E・Fさらには、それに属さない特別功績員と別けられていた。
これは、冒険者ギルドという所で仕方が無い。
新米冒険者に危険な事をさせるわけには行かない、そういう配慮から付けられたランクであるが、今では一種のステータスと成り代わっていた。
もう一度確認すると、マルクのギルドランクは『E』である。
特に大きな功績もなく、昇段試験も受けず、かといってギルドに貢献し、特別な事をしたわけでもない、万年Eランク冒険者であった。
辛うじてFじゃないのは、年功序列という名の謎の計らいである。
もはや、このギルドの中でも彼は小さな有名人であり、何故冒険者をやっているのかも周りには謎である。週に一回ギルドに来ては薬草を売っていく。
ギルド内喧嘩禁止である。
外なら喧嘩してもいいわけでもないが、陰口を気にしないマルクは、その金額で買い取って貰った。
聞こえているはずの影口に反応を示さず、マルクは代金を受け取る。
別に腹が立たないわけじゃないが、事実だから反論もしないのだ。
逆にマルクから言わせれば、森に行けばお金が手に入るのに何故しないんだ? まである。
ランクが高ければ高いほど見入りのいい仕事が請けれる、しかしそのぶん危険やペナルティも多い、慎ましく生活するのであれば彼のように低ランクのままでも生活は出来るのだ。
マルクは帰りに市場で買い物をする。
馴染みの酒屋で酒を物色していると日に焼けた頭をパチンと叩いてマルクへと知らせた。
「よう、マルク。
上物が入ったぞ、八年前のブドウ酒だ、値段は銀貨七枚」
「すまない。
何時もより買取相場が下がってな、銀貨三枚ほどで、いい酒と肉はないだろうか?」
「三枚か……、よし任せておけ」
マルクは自らの財布を店主へと見せた。
銀貨数枚と銅貨数枚しか入っていない。
銀貨一枚で安酒が二本程度。
金貨一枚あれば成人男性が七日は暮らしていける。
店主から肉と酒を受け取り、最後に孤児院へと歩く。
(何も問題は無いだろうか? いや、毎週考えすぎだな)
孤児院のドアをノックすると、年配のシスターが出てきた。
マルクを確認すると、嬉しさと悲しさを顔に出した。
「また来たのですか……」
「ああ、シスターアン。
今週分を渡そうと思って」
マルクは先ほど、ギルドで受け取った銀貨が入った残った袋を、そのままシスターの前へと差し出した。
シスターアンはしばしその袋を見つめて、袋を押し返す。
「何度も言うようですが。
マルク、貴方にはもう何年も寄付を貰っています。
それは過度なほど……、少しはご自分の事に使いなさい……、出来ればアルコール以外にですけど」
「オレの家族はここだからな……、合って困る物でもない、オレの事思うなら受け取ってほしい」
「そんなんですから、彼女もいないんですよ……わたくしに孫の顔でも見せてほしいです」
「こんな俺に嫁に来たいという人間は居ない、自由に暮らさせて貰うさ」
もう少し文句を言おうとしたシスターであったが、少しだけ笑顔になった。
「わかりました。
何はともあれ今週も生きて貴方と会えてよかったです。
お茶でも飲んで行きなさい、どうせ食事もまだなのでしょう」
「では、お言葉に甘えて」
マルクは孤児院の食堂で夕食を共にした。
そのまま泊まって行けと誘われたが、迷惑をかけまいと丁重に断る。
夜の道を静かに歩く事にした。
十年ほど前に購入した門外の家。
小さな畑と自ら掘った小さな井戸もある、夜の予定は体を洗い、町で買った酒で腹を満たす。
そして寝るだけであった。
明日からはまた森に入り薬草を探す。
他人から見れば面白も見もない人生かもしれないが、マルクはこれはこれで満足して暮らしている。
あと数十歩で家という所で、家の前に誰かが居るのを確認した。
(ん? 誰かいるのか……。物盗りの可能性もあるな。しかし、オレの家には価値のある物は無いし、どうするべきか……)
声を掛けるしか方法が無いのを思い出し小さく笑う。
影は小さく、子供の背丈しかない。
ローブをかぶり顔は隠していて、三角に折り曲げた膝を抱えて座っていた。
家の前まで着くと、その影へと挨拶をした。
「オレの家に用事だろうか?」
少女は顔を上げ、その赤い瞳をマルクへと向けた。
小さな体からフードを外す少女。
赤く、少しだけ伸びた髪を小さく結んでいる。
そして可愛い顔をした少女が、マルクを見つめて来た。
「あの、貴方がマルクさんですか?」
「ああ、俺だけど……君は?」
(孤児院に居た子供ではないな? オレは他に子供に知り合いはいないし、じゃぁ誰だろうか)
「なるほど、申し送れました、私、ラーミ・ランフ・ヴァミュー。
貴方の妻になる予定の人間です」
突然出てきた、少女に妻宣言をされ、マルクの思考が止まった。




