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宇宙の彼方のIF~SF作品集  作者: 夏生由貴
考古物
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考古物

初稿は2003年7月。

「ワン!」と、いう突然の鳴き声に、手にしてた物を落としそうになる。


 ちょっと、ちょっと、驚かさないでよ~。朝ご飯はあげたでしょう? もうお腹すいちゃったの? 今日は友達が手みやげ持って来る日だから、それまで待ってて。


 言葉が通じたのか、あたしの足元にちょこんと座って、つぶらな瞳を向けてくる。その愛くるしさに負けたあたしは、思わず抱き上げてしまった……っと、これを遊び道具にされたら大変だ。


 あたしは、さっきまで読んでいた物を膝の上から非難させた。



 ステイタスシンボルが何なのかは、時代によって変わると思うけど、35世紀の地球では、考古物がそれにあたる。


 友達にボロボロの紙束を持ってる子がいてね。《ホン》って聞いたことない? 小さい文字がびっしり刷られた紙を何十枚何百枚と重ねて綴じたモノ。26世紀頃までは、情報や知識を得るために《ホン》ってのを読んでたみたい。あたしがさっき、興味本位で試してたやつ。


 でも、こんなめんどくさくって疲れること、よくしてたなぁって思う。どのみち脳に蓄積されるんだから、最初からダイレクトに伝達すればいいのにね。視覚を通すだけムダじゃない。しかも、読んでる間は両手がふさがってるから、何もできないの。非合理的っていうか、不便きわまりないっていうか、現代じゃ考えられない代物だわ。簡単に濡れるし、燃えるし、破れるしってことで、保存に慎重さが求められるぶん、希少価値は高い。



 別の友達は、おっきな車輪がふたつ付いた鉄のガラクタを持ってる。《ジテンシャ》っていって、24世紀頃まで使われてた乗り物なんだけど、これが笑えるんだ。ムービングロードじゃないってだけでも、あたしにとっては「うっそー」って感じなのに、わざわざ自分の体力を消耗しながら移動するって、信じられる?


 エンジンで動く小型の乗り物もあったみたいだけど、運転するのもドアを開けるのも自分って、ありえなーい。移動中に映画も観られないんでしょ? つくづくムダな時間の過ごし方だわ。大きさのわりに《ホン》よりも価値が低いし、保管場所も取られるから、あたしは欲しいとは思わない。



 他には《カヘイ》がかなりの値打ちモンって話。22世紀頃まで売買に使われてた通貨なんだけど。紙で出来てるモノもあれば、銅で出来てるモノもある。それぞれにいろんな彫刻や印刷がしてあって、綺麗っていえば綺麗かな。


 でも、考古物だから価値があるんであって、実用的じゃない。買い物するには常に持ち歩いてなきゃいけないんでしょ? 重いし邪魔よね。クレジットカードや電子マネーが一般化された時期もあったみたいだけど、結局はカードや端末を持ち歩かないといけないんだから同じこと。落としたり盗まれたりしたら、どうすんのよねぇ? 瞳孔に登録された識別コードがあれば身ひとつで対応できる今とは、えらい違いだわ。



 で。こっからが、あたしの話。あたしのは、すっごいわよぉ……って、もうバレてるか。すでにお披露目済みだしね。

 

 考古動物(生きてるから考古ってのも妙だけど)とくれば、当然、希少価値は最高ランク。狩ったり殺したりするのは大罪だけど、個人所有はオッケーなの。絶滅させないためにも、富裕層に飼われてる方が安全ってわけね。


 そんな考古動物を2匹も飼ってるあたし、国ではちょっとした有名人。もちろん莫大な保護費がかかるけど、それも含めてステイタスシンボルなの。



 ピンポーン。


 あ、友達だ。考古物の蒐集仲間で、例の《ホン》を貸してくれた子よ。考古動物の観賞料としていつもご飯を持ってきてくれるから、助かるんだ。


「クゥ~ン、クゥ~ン……」


 ふふ、匂いでわかるのかしら。鳴き声に甘えが出てる。尻尾まで振っちゃって……ホント可愛い。最初の1匹はやたらと反抗的で、いまだ懐いてくれないから困っちゃう。でも、食事させないわけにはいかないから、ちゃんと専門業者に作らせて、お取り寄せしてるけどね。


 だってほら、あたし達には《食べ物》って必要ないじゃない?



「ハロー、JC4791。見に来たわよん」

「いらっしゃ~い、LR5632。やだ、これ《フライドチキン》? 《イヌ》には贅沢すぎるかも」

「違う違う。これはあなたが世話に手こずってるいうもう1匹のぶん。『ニンゲン』用」


                               END


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