手紙
目をさますとそこは寝室のベットの上だった。
そうか。俺はまたあの怪人にやられたのか。今度はどれくらい気を失っていたんだ。一時間か、それとも丸一日か?
枕元のデジタル時計で時間を確認しようとして、そこに一枚の封筒があることに気がついた。
今朝はなかったよな。誰からだ。
俺は封を破り、A4の紙を取りだし広げる。手紙にはワープロで打ったような小さく丁寧な字でこう書かれていた。
『奴隷よ貴様には色々と目を見張るところがあった。特にパン屋での出来事は誉められる点だ。あんなこと簡単に誰でも出来ることではない。橋から飛び下りようとした時私は馬鹿者と言ったが心では感心していた。なかなかどうして勇気のある男だとな。そのため期待していたが、結果は私の期待に沿うことはなかった。
奴隷よ貴様は私の手足として失格だ。マスクドライバーとマスクシステムは回収させてもらった。貴様は甘すぎる。化け物に何故躊躇する必要がある? 息の根を止めないと他に犠牲者が出ることがわからないのか? あの怪人には逃げられた。恐らく犠牲者が出るだろう。他の誰のせいでもない、貴様のせいでな。
追伸。葵には帰ることは知らせてある。しかし、葵のいる所でスキルは使用できないためバイクは置いたままだ。自分で取りに行け』
読み終えると俺は苦笑し、そして手紙を引き裂いていた。
「ふざけんなよ!!」
何が失格だ、何が甘いだ! 化け物に躊躇するな? どうみても人間だったろ。俺に人殺しをしろって言うのかよ!
「そんなこと出来るわけないだろ」
俺は髪をかきむしり、盛大に溜め息をついた。絵美に何か言ってやりたかったが手紙の文面から察するに、もう出ていっているのだろう。
「風呂にでも入るか」
一っ風呂浴びればこのイライラも多少スッキリするかもしれない。ボロボロになった紙屑をゴミ箱に捨て、洋服入れからてきとうに服を取りだし、脱衣場へと向かう。
しかし、脱衣場につくと俺のイライラは増した。風呂場の電気がつけっぱなしだったのだ。
恐らく、今朝シャワーを浴びた絵美が切り忘れていたのだろう。
電気代はタダじゃないんだぞ。
また頭が痛くなってきた。俺はこめかみを叩き、衣類を脱ぎ捨てていく。
衣類を籠に入れようとして手が止まった。女性ものの下着や衣類が入っていたのだ。
絵美のやつまさか裸で出ていったのか。別に服なんて返さなくてもよかったのに....
「変な所で律儀な奴だ」
ドアを開けると、風呂場は煙が立ち込めていて、次の瞬間腹部に強烈なキックが入った!
「不埒ものが!!」
「くぼぉぉぉあ!」
脱衣場へと転がる。なんでこいつがいるんだよ。俺は蹴られた腹を擦りながら、
「え、絵美!! お前いたのか」
「当たり前だ!! 明かりがついていただろ。寧ろ何故いないと思った?」
「いやだって手紙にそう書いてあったから」
「いや書いていないぞ」
「え.... ああそっか。そうだな。確かに書いてなかった」
書いてあったのは俺に対する酷評だけだった。てっきりそれで俺を見限ったと思ったが、居るということは違うのか?
絵美はタオルでさっと身体を隠し、人に向けてはいけない目で、
「それよりもいつまで私にそんな粗末なものを見せるつもりだ。とっととしまえ」
「だ、誰が粗末だ.... てか見てくんな!」
俺は急いで服を着る。
くそ、でていったと思ったのに。いつまでいるきだこいつは。
「まぁ待て奴隷よ。そんなに急いででていくことはない。折角来たのだ。貴様に人生で最高の思い出を作らせてやる。私の背中を洗え」
「.... 」
こいつの自信はどこから沸いてくるんだ。俺は耳をほじりながら、
「断る。今朝も言ったろ? 餓鬼の裸に興味はないんだ」
「が、餓鬼だと! 貴様奴隷のくせに主人にたてつくきか!」
「そもそも主人ってのもわけわかんないんだよ。どうしても洗ってほしいなら大人になってから出直すんだな」
「貴様!!」
シャンプーやら洗面器が飛んでくる。俺はそれを容易にかわす。
いくら生意気な口を叩こうと所詮は子供だな。発想が甘い!
「く.... 避けるな!」
そう言うと、絵美は風呂の蓋を持ち上げーー
「あっちょ!! 待て絵美。風呂の蓋は駄目だ。落ち着け!」
「潰れろ!」
風呂の蓋が眼前に迫る。脱衣場に俺の悲鳴が響き渡った。




