初戦はいつだって綺麗に終わるとは限らない
地面に着地すると、ズシンと振動が伝わりアスファルトの破片が飛び散った。
腕を見ると紅いアーマに変わり、掌はグローブをつけたように黒い。しかし、手袋をつけているような感じはせず、普段通りの指の感触だった。次に脚を見る。
地面を穿った脚も紅いアーマに変化し、爪先は尖っている。胸を叩く。ガチャンと鎧を叩いたような硬質な音が響く。顔に触れると甲冑をのような固い感覚が指に広がる。
だが目の前の女性の瞳に鏡のように映る俺の姿は西鎧の騎士ではなく、変身ヒーローのような姿だった。
そして何より力が胸の底から沸き上がってくる。
これはひょっとしたらいけるんじゃねぇか?
ファインティングポーズの構えをとる。
女性は俺の姿に怯える様子もなく、舌打ちを何度も繰り返し、髪をかきむしった。
「くそ! くそくそ! 何でこんなところで貴重な一回を使わないといけないのよ」
女性はああああ!!と叫び その姿を変身させるとバチンと触手を叩きつけ威嚇してきた。
それが合図となり俺は怪人に目掛けて拳をふるう。右腕のストレートがヒットし怪人は悲痛を漏らす。
「もう一丁!」
枯れたような蕾に回し蹴りを繰り出す。これもヒット。
「く.... 調子にのるな!」
怪人が触手を伸ばし、右腕に巻き付こうとする。俺はそれを裏拳で弾き飛ばすが、もうひとつの触手が首に巻き付いた。
「がぁ!!」
窒息させるきか!
巻き付いている触手を引き剥がそうと右腕を伸ばすが、空いたもうひとつの触手が腕を拘束する。
やべぇ! このままじゃ死ぬ! 何がなんでも引き剥がさねぇと。
左腕を伸ばし触手を剥がそうと試みる。しかし、首の締め付けが強くなり、苦しさのあまり手がだらりと落ちた。
目の前が靄がかかったように白くなる。
くそったれ.... なにかないのかよ。もがくようにベルトを触るとベルトのホルダーに指があたった。
ガチャっと音が鳴り、僅かに動いた気がした。
一瞬の閃きが電撃の如く脳内に走る。
やってみる価値はある! ホルダーを掴み真横に倒す!
『レッツゴーファイヤー!』
スクリーンに炎のドット絵が表示され、全身が紅く燃え上がる。
「アッッッヅ!」
焼かれまいと逃げるように触手の拘束が解ける。
「あー苦しかった!! 今度はこっちの番だ!」
俺は燃え上がる炎を右拳に集中させ、紅の掌底を怪人の体に打ち込む。
煙が上がり、怪人は後退した。
「くそなんでなんでなんで! なんでうまくいかないのよ」
「そんなもん刑務所の中で考えるんだな! それよりも覚悟を決めろよ!」
ホルダーを三回倒す!
『レッツゴーフィニッシュ! スパイダーデストロイ!!』
また全身が燃え上がり、今度は右足に集束する。
「ふざけるな!!」
怪人の触手が伸びるが、俺は空中に飛び、それをかわすと、蹴りの構えをとる。
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
キックは怪人目掛けて一直線にむかい打ち込まれた!!
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
怪人は二転、三転し、派手に吹き飛ぶ。
やったか?
怪人に駆け寄る。怪人の体からは白い蒸気が上がり、次の瞬間人間の姿に戻った。
女性は唇を噛み締め、涙を隠すように腕をL字に曲げ目元を覆った。
「なんでよ.... なんで」
「お前の事情なんてあとで聞く。それよりもきかせろ。なんで葵に嫌がらせをした」
胸ぐらを掴むと、女性はひっと悲鳴をあげた。
今の彼女には俺の姿は怪人と同じように見えるのだろう。
「やめて.... お願い殺さないで!」
殺さないでだと? 胸ぐらを掴む手が強くなる。
「おいおい.... 人を殺そうとしておいて、自分は殺されたくないなんて随分都合のいい台詞じゃねぇか。お前と一緒にすんな! そう簡単に人を殺すわけねぇだろ!! それよりも答えろ。なんで葵に嫌がらせをした!」
女性はだってと呟き、またひっと叫んだ。
「おい貴様なにをしている?」
氷のような冷たい声に背筋がビクッと震えた。後ろを振り向くと、絵美が立っていて、その眼差しはひどく鋭かった。
「いつまで引き伸ばすつもりだ。早く終わらせろ」
「終わらせろ? もう決着はついてる。これ以上何を終わらせろって.... 」
「決着がついているだと? ふん呆れるな」
絵美はやれやれと首をふり、
「馬鹿だと知っていたがこれほどとは思わなかった。知らないなら教えてやろう。決着なんて言葉は相手の命を奪ってからこそ言える言葉だ」
「はぁ? なに意味のわからないことを.... 」
「わからないか。なら簡単に、言葉を砕いて、簡潔的に、一言で、わかりやすく説明してやる。
私はこう言っているのだ。その女を殺せと」
俺は息をのんだ。自然と声が大きくなる。
「殺せってお前なに言ってんだ! 言っていい冗談と悪い冗談ってもんがあるだろ!」
「冗談だと? 私からしたら奴隷よ。貴様の言っている言葉こそ冗談に聞こえるな。どの時代も相手の命を奪って勝利を知らしめてきた。それは今も、どんな時代も変わらないだろ」
またわけのわからないことを!
「お前中二病も大概にしろよ! とにかく俺は人は殺さねぇ。絶対に!」
絵美と俺の視線がぶつかる。絵美はふんと溜め息のように呟くと、踵をかえし、
「なら身をもって知ればいい。貴様の言っていることがどれだけ綺麗事なのかを」
その時、後ろでなにかが光った。なんだと振り向くと、胸ぐらをつかんでいる女性の顔が怪人に変わり、茶色く枯れたような蕾が開いていた。
ヤバイ、そう思ったときには開いた先から光線のようなものが発射され顔に直撃していた。
変身が解ける。
体が宙に浮き、アスファルトにもんどりうつ。俺は目を押さえ、芋虫のように体をくねらせ、脚をばたつかせた。
「がぁぁぁぁぁ! ぐ.... ああああ!!」
目が.... 目が熱い!! 熱い熱い!!
触れるとぶよっと気色の悪い感触が指に伝わり、また焦げているのかところどころ肉がごげたような塊がこびりついている。
「ふん。これでわかっただろう? 怪人は殺さなければまた復活する。殺す以外方法はないのだ」
目元に柔らかく冷たいものが置かれる。
「ぐ.... ああああ!!」
「暴れるな。直ぐに終わる 回復のスキル『ヒール』」
ふわっと温かな光に包まれる。痛みが次第に和らぎ、不思議と心地のよい感覚に包まれる。
瞼が重くなり、俺の意識は落ちた。




