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出会い

  灰色の街にぽつねんと一人佇んでいた。

 空もアスファルトもビルの隙間に転がっているポリバケツも信号機も全てが灰色だ。

 途方もなく歩く。歩いて歩いて、大きな声を耳が拾った。

 声のする方向を見れば、そこには黒で顔がぐしゃぐしゃに塗りつぶされた小学生男女二人が歩行者専用の信号機の前で喧嘩していた。

 声は特殊な加工を施されているのか、聞き取れない。


 「○×△! ~※※○!」


 女の子が男の子に詰め寄る。


 「△×◻! ※△◻!」


 男の子も負けじと声を倍にして叫ぶ。

 あの小学生が誰なのか俺は知っている。そしてこのあとの展開もどうなるのか知っている。


 「喧嘩をやめさせないと」


 走ろうとして、俺の真下に黒い沼が出現した。


 「な、なんだこれ!」


 踏み込んだが最後、俺の足は落ちるようにずぶぶと沈んでいく。

 沈んでいくなか、街は色を取り戻していく。


 空は青く、アスファルトは黒く、ポリバケツは水色に。


 そして歩行者専用の信号機は青色が点滅を繰り返していた。


 男の子と女の子の喧嘩はヒートアップしていく。


 やめろ.... やめるんだ!


 「×△○!」


 女の子は叫び、次の瞬間交差点の横断歩道を走り出した。


 なにやってんだ、なにボケッと突っ立てるんだ! 


 止めろよ! でないと一生後悔することになるんだぞ!


 俺は叫ぶ。男の子に、あの日の幼い自分に向かって。


 「○×△め!、○△※から×××!」


 口元まで沈んでいるため、上手く言葉にならない。


 俺は顔をあげ、空に向かって叫ぶ。


 「掴め! 頼むからその娘の腕を掴んでくれ!」


 叫びも無情に、


 男の子は時が止まったように一歩も動かず、


 そして女の子は....猛スピードで走る大型トラックに跳ねられた。


 激しい衝突音、体がふわりと宙に浮くあの娘。



 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 絶叫し、俺はベットから跳ね上がるようにして上体を起こした。


 荒い呼吸を整え、顎に伝う汗を拭い取る。


 「ゆ、夢か.... 」


 時計の秒針がカチカチと時を刻む。


 一通り落ち着き、ゆっくりと首を巡らす。


 見慣れた天井、漫画ばかりの見慣れた本棚、何度も寝てきたベット。


 間違いない。ここは俺の家だ。安堵の溜め息をつき、視線を腹部に落とす。


 当たり前の事だが、貫かれたあとは見えない。しかし、念のためにと、腹を擦ってみる。


 出血をしてなければ、勿論穴も開いていない。


 「はは.... 」


 あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。


 川のゴミ拾いも葵の電話もあの化け物も全部夢。


 そりゃそうだ。あんな化け物がこの世にいるわけがない!


 化け物が出てきた時点でこれは夢だと気づけばよかった。


 「そうか。疲れてたんだな俺は」


 ここ最近力仕事が多かった。大きな石を運んだり、穴を掘ったりといろいと体を酷使した。


 その疲労がなかなか抜けないから、あんなへんてこな怪人に殺される悪夢を見てしまったに違いない。


 それに加え昔のことも夢に出てくるなんて、相当疲れが溜まっている。


 「今日は一日何もせず、ずっと寝るとするか」


 掛け布団を手に取り、目を瞑ると数分も経たないうちに眠気が襲ってきた。

 うとうとと。すやすやと。微睡みの最中、ふいに部屋のドアがゆっくりと開いた。

 足音がこちらに近付き、ピタリと止む。微かに人の気配がする。

 誰だと疑問がわくと同時に俺の腹部に重圧がのししかかった。ぼすっと布団の乾いた音がする。


 「やっと目がさめたか。奴隷よ。これから貴様には私のために働いてもらうぞ」


 俺の腹上には全裸の、産まれたままの姿の少女がふてぶてしく笑っていた。


 「.... 」

 これはあれか。夢か。うんそうだよな。現実にこんな場面があってたまるか。

 それになんでまた餓鬼の裸なんか.... 俺はロリコンじゃないんだ。 見るにしてももう少しこう、なんかあるだろ。


 「おい、貴様聞いているのか? 聞こえていたら返事をしろ」


 それに、態度がやけに大きいときた。流石に夢の中でも好き勝手言われるのは気に食わない。


 「あーはいはい。聞こえてますよ。けど悪いな。俺は餓鬼には興味ないんだ。大人になって出直してきな」

 

 「が、餓鬼だと!」

 少女は酷く狼狽した声をあげる。どうやら子供扱いされるのが嫌いみたいだ。狼狽するのは少女の勝手だがそろそろ退いてもらいたい。なんならこの夢からとっとと覚めたい、もしくは少女からナイスバデェな女性にチェンジしてもらいたい。


 「誰が餓鬼だ! それよりもいつまで私の裸体を見続けるつもりだこの不貞者!」

 そう言って少女は拳を握り、俺の腹に打ち付けた。

 「いってぇぇ!」

 理不尽だった。自分から見せ付けてるくせに。

 「まさか助けてやった男がこんなにも無礼を働くものだったとはな。私としたことが人選を間違えたか」

 「助けた? 君が俺を?」

 少女は鼻息を鳴らし、そうだと頷く。助けたって一体なにから俺を助けたんだ?

 いや、ひとつだけ思い当たる節がないわけではない。しかし、あれは夢じゃないのか。

 俺は恐る恐る確認する。

 「まさかあの怪物から?」

 果たして少女はそうだと頷いた。

 なんてことだ。今俺がみてるのはあの夢の続きというわけか。

 今まで色んな夢を見てきたが、今回みている夢は間違いなく断言できる。

 「くそ.... 悪夢だ」

 「.... 悪夢? 悪夢とはなにが悪夢なのだ」

 「なにがって....  決まってんだろ。俺が今みているもの全てだよ。お前も、この現状も全部が悪夢だ」

 「ほう私が悪夢とは」

 「なるほどな」と女性は呟く。そして不敵な笑みを浮かべ、鼻で笑った。

 「ふん。予想外な出来事が起きれば夢と信じ、なかったことにする。実に人間らしい思考だな。だがな.... 」


 そこまで言って女性の口は止まった。その代わりに盛大に腹の虫が鳴いた。女性は左にふらり、右にふらりと揺れ、前のめりに倒れこんだ。

 どっと少女の体が体重がのしかかる。俺は潰れた蛙のような声をあげた。

 少女は恨めしそうに弱々しく、俺の耳元で、

 「.... 腹へった」


  「え?」


 「なにか食わせろ.... 」


 「え?」

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