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8:月の泉

 【発掘レンガ】


901515 900年代の宇宙開発 ジョージ・シェパード


古代、繁栄を極めたヒューマンの超科学文明。

私たちは彼らヒューマンの超科学を追い求め、ここまでたどり着いた。


800年代後半、宇宙ロケットの打上は3回成功し、最後には有人飛行を成功させた。


これは世界中が熱狂する実にエキサイティングな出来事だった。

さらに私たちは、もっとエキサイティングな計画を準備中である。

まだ詳しい時期は話せないが、有人による月探査ロケットが打ち上げ予定である。


この有人月面探査は、ヒューマンの月面基地探索も兼ねている。

彼らの文献の中には、確かに「月面基地」という単語が書かれている。

きっとそこには、我々の知らない超科学が隠されているはずだ。

きっと「宇宙船」もあるだろう。いや、それは必ずあるはずだ。


私たちは、その隠された超科学を手に入れることが出来るだろう。


私たちの900年代は、躍進の時代となるだろう。

新しい歴史、宇宙歴の始まりになると私は予感している。




  《月の泉》



 タクラマカン、ピラミッド作業員宿舎。


「今日は何だ、月の話か?」

 ツキモトがオオタに聞いた。


「上の連中から今日聞いた話なんだがな」

 オオタが楽しそうに話し始めた。


「ちょっとまった、その前に何か飲もう」

 ツキモトが立ち上がって倉庫棚の扉を開けた。

「お、じゃあビールで」

 オオタは携帯端末をいじりながら言った。


「さっき送ってきたレンガのやつは読んだけどな」ビールを2本取り、机の上に置いてツキモトは座った。「月の話?宇宙船の話?」


「今日もお疲れさまでした。とりあえず乾杯」

 オオタは缶ビールのフタを指でピンと弾き開けた。プシューと良い音がした。

「はい、お疲れさまでした」ツキモトもフタをピンと弾いた。


「ヒューマンのピラミッドの時代から11万年の時を越え、受け継がれる偉大なる液体、ビールに乾杯」そう言ってツキモトはビールを飲んだ。

「なんか良いこと言った?」

 オオタが笑った。


 缶ビールのフタは爪で赤いしるしの所をピンと弾くと開くようになっているが、ヒューマンにはちょっと硬いかもしれない。爪の頑丈さが違う。


「月の地下空洞都市のさ、ドームの外側に月の泉ってあるじゃない」オオタが話し始めた。「泉っていうには大きすぎる空き地というかなんというか」

「かつて氷があった場所だな」ツキモトが言った。


「あそこにも作るんだって、ピラミッド」

「なんでさ」ツキモトが言った。「いや、月にも作るってことは、地球のがダメになった時の保険ってことか」

「ダメになるってどういう・・・」オオタが考える。「隕石とか?」


「まあ、天変地異みたいなのが起こらないとも限らないし」ツキモトが言う。「それに地球の環境だと風雨にさらされて劣化するし、色々と外的要因で危険は多いだろ」

「地下に作ればよかったのに」オオタが言った。


「何万年もすれば地下に埋もれる可能性は高いかもな、それでも良かったんだろうけど」ツキモトは完成したピラミッドを想像する。「みんなで出来上がったやつを、見上げたかったんじゃないの?」


「うーん・・・」オオタは完成したピラミッドを見上げる自分を想像した。「それは、見上げたいかも」



 レンガ文明は、最後まで月に行くことはできなかった。

 彼らが夢見た月、ヒューマンの月面基地。

 もしも月までたどり着けたとしても、ヒューマンの月面基地なんてものは無かったけれど。


 ヒューマンが初めて月に行ってから11万年後、我々は月に行った。

 ロケット技術を安定させ、月に建設機械を送り、月に建設機械を作る機械を送り、月で建設機械を作った。

 月の地下の巨大溶岩洞窟。それはヒューマンによって存在が発見された。溶岩洞窟とは、サラサラの溶岩が流れた後に形成される洞窟だ。サラサラの溶岩が流れる、外側が冷えて固まる、内側は固まらずに流れ出る、外側の固まった溶岩だけがチューブのようになって残る。地球上にも規模は小さいが、いたるところにある。

 そのチューブの天井部分の一部が隕石の衝突などによって崩れ、丸く穴が開く。ちょっと見ただけでは深いクレーターかと勘違いする入り口の穴だ。


 我々が月の地下の巨大な空間を発見した時、中にはヒューマンの探査機が1台眠っていた。

 月の地表は太陽などによって、強力な紫外線、宇宙線にさらされている。DNA生命体にとってそれは致命的だ。


 我々が月に住環境を作るには、溶岩洞窟は最高だった。

 もともと地下に住居を作る予定ではあったが、こんな広い空間が初めからあるならば、使わない手は無かった。


 洞窟内にコロニーを作る計画は順調に進んだ。


 最初の洞窟内密閉ドームの近くには氷の湖と呼べるものがあった。名前を「月の泉」と付けた。

 我々はその氷を砕き、活用した。太陽光取り入れレンズを月面に設置し、月の地下で農作物を作った。


 氷を取りつくした後でも、氷のあった場所は「月の泉」という名前で呼ばれた。

 その何もなくなった場所に、地球に建設中のものと同じピラミッドを作るという。

 特殊セラミックに記録するデータもまったく同じものだ。

 我々の英知そのもの全て。地球文明の全てと言ってもいい。


 重力や環境が違うから、固定接着剤は変更するかもしれない。

 月は、地球と違い大気が無い。風雨や地震も無い場所だから、固定しないかもしれない。

 隕石が衝突しない限り、太陽に飲み込まれる日まで在り続ける。これは地上と同じだ。

 いつか月そのものを宇宙船にして、太陽系を脱出するのかもしれない。その日まで我々が生き延びていれば。


 今の月都市の人口は、10万を超える。資源を求めて新しい穴を掘り、掘りつくすとそこは住居となった。


 甲殻歴9998年。今では月に造船所を作り、宇宙船も作っている。



 

 

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