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103:ブラックホール

  《ブラックホール》



 太陽系第7惑星、天王星。

 その衛星軌道上には銀河系観測専用宇宙望遠鏡が浮かんでいた。名前をハッブル7000という。


 太陽から遠く離れた太陽系の外れ、青白い天王星の衛星軌道上。

 天王星には細いリングがある。その氷で出来た細いリングの外側に、銀河系内を観測する為の全長50メートルの宇宙望遠鏡が浮かんでいる。


 隣にはドーナツ型の管理船が浮かび、ゆっくりと回転している。中には10名の科学者が暮らしていた。


 彼らは日々、天の川銀河の恒星や惑星を観測していた。


 太陽系の辺境に宇宙望遠鏡を浮かべたのは、太陽の影響から逃れるため。そして地球の雑音電波から逃れるためだ。


 隣に浮かぶ銀河系観測専用宇宙望遠鏡から、データがドーナツ管理船に送られてくる。

 ドーナツの内側は遠心重力が効いている。中は観測データ分析機器と生活空間が同居しているからゴチャゴチャとしている。慣れれば居心地はいい。


 送られてきたデータを研究者たちが分析している。壁はディスプレイで埋め尽くされ、研究者たちは立って作業をしている。立っているのは健康維持のためだ。

 銀河系の研究なんてものは、別に急ぐ研究ではない。皆、のんびりと日々を過ごしていた。


 ディスプレイに表示される画像を、ひとりの研究者が何やら必死にチェックしている。


「ハロルド、ちょっと見てくれますか・・・」

 研究者のヒジカタが言った。

「どうしたんだい?」

 リーダーのハロルドが答える。


 ヒジカタの前のディスプレイには、黒い宇宙空間に浮かぶ、青く半円を描く輪が写っている。


「重力レンズですよね」

 ディスプレイを見ながらヒジカタが言う。

「そうだね。どこの?」

 ディスプレイを見ながらハロルドが聞く。


 ディスプレイには青い半円の光が映っている。ぼやけた青い三日月のような画像だ。


「サジタリウスエースターの方角の暗い中性子星です」ヒジカタが言う。

「SgrA*、銀河中心方向。中性子星はもっと近くだね」ハロルドが言う。


 暗い中性子星は、太陽系との距離が離れていると赤外線でしか見えない。その場合、半円は赤くなる。


「その中性子星の前を、ブラックホールが横切ってるのかな?」ハロルドが分析する。


「それがですね」ヒジカタが端末を操作する。ディスプレイに表示された画像が変わった。今度は半円の輪ではなく完全な円の青い輪が写っている。「10年ほど前のです」

「ちょっとだけ動いてる?」ハロルドが聞く。

 位置が少しズレると重力レンズの見え方が変わる。


「100年前はただの暗い中性子星だったんですが、遡って調べたら83年前から重力レンズで歪んで見えてるんです」ヒジカタが言う。

「83年前に我々と中性子星の間にブラックホールが表れた?」ハロルドが聞く。


「そうです」


 恒星の爆発でブラックホールが誕生したわけではない。光り輝く恒星なんて無かったのだ。


「中性子星の向こう側から飛んできたってことかな?」ハロルドが聞く。


「おそらく」


 そして我々から見て83年間、位置があまり変わっていないように見える。答えはひとつだ。


「こっちに向かって?」ハロルドが聞く。


「おそらく」


 太陽系にブラックホールが向かってくるなんてことは、この広い宇宙ではありえない。と言い切れるほどの低い確率だ。

 さらに太陽や地球に当たるなんてことは、計算しなくたって答えは分かりきっている。

 命を賭けたっていい。自分が明日死ぬ確立の方がずっと高いのだから。


「慌てたってしょうがない。別にすぐ来るってわけじゃない」ハロルドが言う。

「計算しましょうか」ヒジカタが言う。

「してみようか」ハロルドがわざとのんびりと言う。


「重力レンズ、赤方偏移、データ入力、計算します」


 ヒジカタは必要な数値を調べ、端末にデータを入力していく。計算式を設定し、計算を開始させた。


 全自動で全てを機械任せにする技術は、使用を禁止されている。

 過去に様々な物の自動化が進んだ時、我々は徐々に退化した。退化に気が付くまで1000年ほどかかった。

 遠い昔に存在したヒューマンのような、楽をしたい、働きたくない、と言う感情は我々には無い。種の繁栄の為に、出来ることをやり続ける。それが我々の本能だ。


 それでも文明社会の中では意識的に脳や体を使わなければ、我々は退化する。

 種の未来の為に、退化は何としても避けなければならない。

「長寿と繁栄を。」ヒューマンの古い映画に出てくる言葉だ。21万年ほど昔の言葉だ。


 しばらくして、計算されたデータがディスプレイに表示された。

 そのディスプレイに表示された計算結果を、ヒジカタが見ている。


「ハロルド、まずいかもしれない」ヒジカタが言う。

「位置は?」ハロルドが聞く。

「えーと、えーと、えーと・・・」数値を見ながらヒジカタがブツブツ言っている。「この画像だとここだけどこの速さだと今ここってことになるからってことはそうなると斜めにつっきるけどじかんはじゅうねんごでひづけだとにがつじゅうよんのにじはちふんはちじゅうにびょうでそのときの地球の位置はえーとえーとえーと・・・」


「もしかして地球?」ハロルドが当たるのかという意味を込めて聞く。

「誤差1パーセント未満で」ヒジカタが答える。

「いつ頃?」ハロルドが聞く。

「3699日後です」ヒジカタが答える。

「10年後?」ハロルドが聞く。

「質量は太陽の4倍程度」ヒジカタが言う。

「半径小さいよね?」ハロルドが言う。質量が太陽の4倍ということは、事情の地平面で言えば地球よりも小さい。


「ギリギリ当たらないかも」ヒジカタが言う。


「かすっても駄目だよね」ハロルドが言った。

「駄目ですね」ヒジカタが言った。


 絶対に駄目である。

   

 ハッブル7000の管理船のメンバーが集められ、間違いがないかの確認作業が行われた。

 皆で計算をチェックした結果、ヒジカタの計算に間違いは無かった。

   

 その小さなブラックホールは、光速の30パーセントという速さで太陽系にまっすぐに向かっていた。通常ではありえないスピードだった。

 可能性はいくつか考えられた。宇宙は何でもありだ。


 高速回転するブラックホール連星と、同じように高速回転するブラックホール連星の、2つの連星同士の合体。4重連星合体の前の不安定な瞬間に、中のひとつが弾き飛ばされて、その弾き飛ばされた先に、別の重いブラックホールがあって、上手くスイングバイすればこのスピードは楽勝かも。というヒジカタの仮説は、ハッブル7000の管理船メンバー達のお気に入りだった。


 残された時間は10年、観測結果が地球に伝えられた。


 その報告を受けた地球では、統合政府とノーヴェルの対策会議が続けられた。


 今の我々が所持している宇宙船の数では火星に逃げるとしても、5000人ほど。少数しか逃げられない。

 大型宇宙船は10年以上かかる目的地に移動中だった。出払っている。


 大きな宇宙船をタイムリミットまでに出来るだけ多く作り、乗れるだけの人数を乗せて火星に避難する。数回のピストン輸送で火星に避難する。

 それが絶滅しないための、少数だけでも未来に命を繋ぐための、1番実現可能な案だった。


 地球を動かす案と月を動かす案が提案されたが、現実的ではなかった。


 地球は特に無理だった。地球自体が重すぎるし、中がマグマの地球は、外から強い力を加えることも出来ない。


 月は厳密に可能かどうかの検証がされた。月面に推進機関を大量に製造する。そして、最初に月を減速させる。減速させて、地球に落下させる。重力加速で速度がついたところで月を加速させ、地球の重力圏を抜ける。


 それは可能性が無いわけではなかったが、時間との戦いになる。宇宙船の大量製造を捨て、イチかバチかの可能性に賭けなければならなかった。


 統合政府とノーヴェルにより、絶滅を避けて少数だけでも生き残る選択がされた。



 パニックを避け、人々にはその情報は伏せられた。


 そして、なんとなく大型宇宙船建造計画が乱立した。



 


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