第三十九歩目「氷夏」
一ノ瀬大学学園祭、通称ノセ学祭。
1日目の有志のパフォーマンスでは、オタク同好会女子メンバーがバンドパフォーマンス。
会場の誰もがその瞬間に釘付けになり、特にボーカルを務めた遥は大きな喝采を浴びた。
女子メンバー3人は、部室に戻る、今日はコスプレ喫茶は終了だ。
「やー!ブラボーだったよみんな☆お疲れ様☆」
「うざい!あんた、今日は焼肉奢りなさいよ♡」
部長の光国はいつものように大袈裟にターンを決め、皆に花束を渡す、一応ガールフレンドである凛子は早くも食い意地センサーを発動させる。
「ふん、カタブツ。お前にそんなに隠し芸があったなんてな。認めてやらなくもない。」
「お前のツンデレなど1%の需要もない。」
裕美の言う通り、康弘のそれに微塵の価値もないことは言うまでもない、一応裕美の好きな缶コーヒーを手渡していたが。
「お疲れ、二人とも。かっこよかったよ!」
「ありがと。」
「拓海くんありがとう!すっごい緊張したぁ。」
百合と遥はどっと疲れた様子で、拓海くんはそれを労うように、肩を叩いた。二人とも少しだけ顔は紅潮していた。
ノセ学祭は順調に進み、1日目の有志のパフォーマンスの影響もあってか、コスプレ喫茶は大盛況。ノセ学祭の最優秀出店に選ばれた。
しかし、これを機にオタク同好会に嵐が訪れる事になるのだが。
ー
「はぁ、疲れた。」
部室にドシンと荷物を置いた、拓海。
その表情は披露を色濃く写し出していた。
「どうしたの?」
「いや、最近バイトが忙しくてさ、人手不足なんだよ。」
百合は「しょうがないわね」と、拓海の肩マッサージする、気の抜けた声を上げる拓海を見て、Blu-rayディスクを差し出す。
「疲れた時は日常系で癒しましょう!!」
遥が差し出したのは所謂、日常系と呼ばれるアニメだ。
一般的に美女達が緩やかな日常を送るアニメのことを指す。
この手のアニメを拓海は見た事がなく、いい機会だと他の部員も強くオススメした。
家に帰った拓海は母親にこっそり隠れて自室で視聴した。
画面に映し出されたアニメはまったりとしていた、間の取れた逆がシュールで拓海はくすりと笑顔になる。
なるほどなと、感じた。
遥の言う通り、登場人物達の掛け合いを眺めているだけで、どこか疲れが癒される気がする。
「萌え」に対して偏見を持っていた拓海は考えを改めた。
全てのものに先入観を持つ事は危険だ、この頃、拓海にとってアニメは遥に近づく口実ではなく、かけがえのないものに変わりつつあった。
そして、胸にあったモヤを少し忘れることが出来た。
しかしそれは、一時的なものであり、やはりオタク同好会に訪れる、そしてこの物語の最終章への足音を止めることは出来なかった。




