第一歩目「タイプの美女がオタクなのは許されるわけがない」
世には「オタク」と呼称がある。
諸説によれば1970年代に日本で生まれた言葉で、アニメや漫画といったサブカルチャー、アイドルや鉄道といった様々な文化や趣味に対して特別な愛情を注いでいる人たちを指す物だ。
しかしながら少々、愛情表現が過激であったり、一般人とは違った感覚を持っている事から世間からは疎ましい目で見られる事も少なくない。
これは一人の青年がオタクと出会い、何を感じ、どう成長していくかを記した物語である。
「僕がオタクを始めたら」
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ポカポカと暖かな空気の中、一人の青年は大学の入学式を迎えようとしていた。
つい先日には高校の制服を着ていたのだから、少しスーツ姿は緊張する様子だ。無理もない。
青年はお気に入りのスニーカーを履いて家を飛び出そうとしたが、間一髪の所で気がついた。革靴を履かなければならないと。
新生活が始まる期待と不安を胸に心をばたつかせている間にすっかりその足は大学の正門前に着いていた。
『一ノ瀬大学』
どこにでもある私立大学で、偏差値、知名度共にそこそこである。
数年前に校舎を建て替え、綺麗なキャンパスである事から生徒数は増加傾向にある。
「ここから始まる華のキャンパスライフ♪」
青年は鼻を伸ばしながら入学式の会場である体育館へと足を運ばせた。
彼の名は山城拓海、所謂どこにでもいる"フツメン"という奴だ。取り留めて特徴がないと言えばそうなるのだが高校時代までスポーツに興じていた。
大学には自分の世界を広げたいという理由から知り合いのいないこの大学を選んだのだ。
拓海は体育館に到着すると上回生だろうか、プラカードを持った女性がブロックごとに立ち並んでいる。
「えーっと、経営学部はここかな...」
パイプ椅子が並ぶ最前列には一人の女性が座っており、後に座るのもなんだなと拓海は声をかけた。
「隣、良いですか?」
女性が振り向いた瞬間、拓海の頭に電気のような衝撃が走った。
そしてめちゃくちゃ可愛いじゃないか!最高にタイプだ!と拓海は心の中でガッツポーズをした。
「あ、どうぞ...」
まとめたポニーテールでとにかく小顔だった、同じくらい声も小さかった。
「急に声かけてごめんね。俺、山城拓海って言うんだ。君の名前は?」
「木津遥です...あの、よろしくお願いします...」
遥は人見知りだった。高校時代まであまり多くの友達がおらず、親友にべったりだった彼女が意を決して、大学は人見知りを治そうと意気込んでいたのだ。
突然の青年からの挨拶に戸惑った、声は上ずってないか、きちんと挨拶出来ただろうか。
気が付くと視線は下を向いていた。
「うん!それじゃあよろしく!」
遥が顔を上げると彼の顔は晴れやかだった。
この人なら友達になっていいかもしれない。遥は勇気を出した。
「あ、あの良かったら友達になってくれませんか...その、嫌でなければ。」
「もちろん!拓海って呼んでね!えーっとじゃあ...連絡先聞いてもいい?」
遥は喜んで携帯を差し出した、少し彼の顔が赤い気がしたけどそんな事より大学で初めての友達が出来た。
拓海は舞い上がった。
自分のタイプど真ん中の女の子の連絡先を大学生活初日にして手に入れたのだ。
メッセージアプリの連絡先を交換する。
しかし、彼女のアイコン画像をして少し戸惑った。
"アニメアイコン"だった、彼は5秒間思考を巡らす。
(アニメちょっと苦手なんだよな...でもタイプだし...とりあえず友達になってからだ!)
「えーっと、これなんて名前のキャラなの?」
ピシピシっと亀裂音が走った様な気がした。
目前の美女は大きく目を見開き、瞳を輝かせた。
「えっとね!これはエミリアって名前のキャラでね!ほんとに可愛いの!それから...」
怒涛のように彼女の口から発される言葉。
何を言っているのかわからない、先程のおとなしげな印象とは打って変わって大興奮の語り口。
拓海は言葉の波に飲み込まれた。
そして拓海が言える事は一つ。
この子はどうやらオタクらしい。
ー
部活や、サークル、同好会の存続をかけて上回生それぞれが新入部員勧誘に躍起になる中、一人の超絶美少年は体育館の陰から様子を伺っていた。
「なるほどぉ...彼女は逸材だね☆それから隣の彼も磨けば光りそうだ♪」
はじめまして!
以前作っていた当作ですが、作り直す事にしました!!
是非お楽しみください!!