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第3話

 王さまの屋敷で働き出して数週間が過ぎた。

 元々メイドになりたくてメイド検定の資格も頑張ってとったくらいだし、生まれつき要領も良いと言われることが多かったので、我ながらあたしのメイドとしての働きぶりは有能だったと思う。

 しいて言うなら、あたしが待ち望んでいるドMな状況になかなかならないのが残念だった。でも、こういう平穏過ぎる日々も、じらしプレイの一環みたいに感じることにして、前向きに気持ちいいと感じるように過ごしているから、まだまだ平気! 大丈夫! 確かにそろそろ、もっと気持ちいい刺激は欲しいけどね。

 とりあえず今は、王さまの部屋で、夜のティータイムの準備をしていた。王さまは、家庭教師の先生との勉強を終えて、お疲れの様子だ。ここは、ご主人さまである王さまのために、とびきり美味しい紅茶を入れて、癒してあげるのがメイドとしての務めだろう。

 あたしは紅茶を入れる腕前には自信があり、それは他の人も認められている。その腕前を買われてか、あたしは王さま専属のティータイム係を命じられていた。勿論、ティータイム以外のメイドとしてのお仕事もきちんとしているけどね。ティータイムもあたしの仕事の一つなので、当然他の仕事と同じく頑張っていた。

 今日の3時のおやつの時間はおやつのケーキと合わせるためにあっさり目の紅茶を入れたので、夜はフレーバーティーのちょっと癖の強いものを入れることにした。王さまのカップに紅茶を注ぐ。

「どうぞ……王さま!」

「ああ……」

 疲れた様子で王さまは一口紅茶を飲み、そしてハッとしたようにあたしを見た。

「この紅茶、美味しい!」

「良かった、お気に入っていただけたみたいですね。今回はキャラメルティーを入れてみました」

「ああ、元気が湧いて来た。ササミ、いつも俺様のために、美味しい紅茶を入れてくれて、感謝してる」

「これがあたしの仕事ですから」

 あたしは自慢げに胸を反らした。王さまに褒められるのって、凄く嬉しい。何か、苛められて快楽を感じるのとは別の気持ち良さだ。

 王さまは紅茶を半分くらい味わって飲んで、カップをソーサーに戻すと、隣に立っているあたしの顔を見上げた。

「ササミ、今度の日曜日、休日だったよな……? どこか行ってみたい場所はあるか……?」

「行ってみたい場所ですか? 特にないですけど……?」

「それなら、にぃさまから、遊園地のチケットを2枚、もらったんだ。俺様が一緒に行ってやるから、ササミも来い!」

「チケット2枚って、あたしと王さまの二人で行くんですか……?」

「嫌か……?」

「いいえ、嫌じゃないですよ、嬉しいです。よろしくお願いしますね、王さま」

 つまり王さまが遊園地で遊びたいから、あたしに付き人しろ、ということね! 大丈夫、あたし、ばっちり理解した! 王さまが楽しめるように、ばっちり頑張るぞー!

「楽しみですね、王さま」

 あたしはにっこり笑う。あたしの笑顔を見て、何故か王さまは顔を赤くして、俯いた。

「お前が喜んでくれるなら、良かった……」

「あたし、王さまと一緒にいるの楽しいですし。当日はばっちりエスコートしますからね!」

 王さまは赤い顔のまま、あたしの方をパッと見た。

「ば、ばかっ、エスコートするのは男の役目だ! とにぃさまが言ってた!」

「はいはい。じゃあ、その日は王さまにばっちりエスコートされますね!」

 大人ぶろうと頑張る王さまが可愛くてあたしはますますニコニコしてしまう。そんなあたしの方を見て、何故か王さまは、まるでやれやれというようにため息を吐いた。


 遊園地に行く日、あたしはおニューのメイド服を着て、玄関ホールへ行った。今日は1日、王さまに楽しんでもらうように頑張るぞー! と気合も十分だった。

 玄関ホールでは理緒が箒を使って掃除をしていた。あたしは理緒に挨拶をする。

「おはよう!」

「おはよう、笹美さん……って、笹美さん……?」

 理緒は不思議そうにあたしの恰好を見た。うん? どうしたんだろ?

「笹美さん、今日は王さまと一緒に遊園地に行くのよね……?」

「うん、そうだよー! ちゃんとお勤め、頑張ってくるからね!」

「お勤めって……遊びに行くのよね? その恰好で行くの?」

「うん? 何か変?」

 あたしは首を傾げた。

 あたしはこの屋敷のメイドで主人のご子息に付き添いするんだから、メイド服の方が自然だよね? 何かそんなに変だったかな?

 理緒は、困ったように、はぁ、と溜息を吐いた。

「薄々感じてたけど、笹美さんって、ほんと、鈍いわよね……」

 お洋服の話とあたしが鈍いという話と、一体どこがどうつながるんだろ? あたしはますます混乱して、きょとんとしてしまった。

 そこに大王さまがやってくる。

「二人とも、どうしたの? 特に笹美はまだそんな恰好してて。今日は王とお出かけじゃなかったのかい?」

「それが大王さま……」

 理緒は困った顔のまま、困ったように大王に何かを囁く。どうやら事情説明しているみたいだ。大王さまは、ふむふむと時々相槌を打つ。

 話が終わったのか、大王さまはあたしの方を向いた。

「大体の事情は分かった。おいで。一緒に今日の服、選んであげる」

 ええっ!? 大王さまがあたしの服を……? 大王さま、そんなにファッションセンスいいの? と言うか、ある意味、これ羞恥プレイ過ぎて、すっごく気持ちいい! さすが大王さま、ドS過ぎなところがあたしの好みドストライク!

「そ、そんな……じゃあ、選んでもらうかな……」

 気持ち良さのあまり、あたしは顔を赤くして、もじもじしながら言った。

 大王さまをあたしの部屋に案内しようと歩き出しかけたところで理緒があたしの腕を掴んでストップをかける。

「って、笹美さん、大丈夫なんですか……?」

「えっ、何が?」

「その……何だか、うーん……二人きりにしておくと危険な気がしますので、あたしも一緒に笹美さんの部屋、いきますね」

 危険? 危険って、何が危険なんだろ……? もしかして、あたしの性癖がバレた!? って、そういうことなら、逆に危険なんて言葉使わないよね、何だろ……? でも、折角の申し出だし、理緒のお仕事の時間を潰させてちょっと申し訳ないけど、理緒にも一緒に服選ぶの手伝ってもらおうかな。

 ところが大王さまは理緒の言葉に不思議そうに首を傾げる、当然のことにように言った。

「行くのは笹美ちゃんの部屋じゃないよ、屋敷の衣裳部屋だよ」

 何でそんなところに行くんだろう、と思い、あたしは大王さまの言葉を繰り返した。

「衣裳部屋……?」

「そう、衣裳部屋。いつかキミに着てもらおうと思って、幾つか服を購入しておいたんだ。その中から服、今日の服、選んであげるから、一緒においで?」

 大王さまはあたしの肩に手を回した。その手をばしっ、と払いのける、理緒が。

「ちょっと待ってくださいね、大王さま。どうして笹美さんの服のサイズが分かったんです?」

 険しい声で理緒がツッコミを入れる。

 大王さまがにこやかに言った。

「俺は見ただけで女の子の服サイズが分かる能力を持ってるんだ。だから、サイズ、合ってると思うよ」

 大王さま、凄い! どうやってそんな能力身に着けたんだろ? 色々妄想すると変態チック過ぎて、あたしのM心が刺激されて、これまた気持ちいい。大王さまはあたしを気持ちよくさせる天才だね!

 どや顔する大王さまを、理緒は蹴った。

「いてっ、何すんだよ」

 大王さまは痛そうに顔を顰める。

「いいえ、変態がいたので、この世から滅殺したくて蹴ったのですけど、あたしの力じゃ仕留めきれなかったみたいですね」

「十分痛かったから、痛かったから!」

「とりあえず変態と二人きりにするのはますます危険なので、服選ぶの、絶対笹美さんについていきますね」

 良く理由は分からないけど、理緒があたしのために大王さまを蹴って一緒についてきてくれることは分かった!

「有難う、理緒!」

 でも、大王さま、いいなあ……。あたしも理緒にあんな冷ややかな目で見られつつ蹴られたい! 普段は大王さまにMっ気を刺激されることの多いあたしだけど、このときばかりは大王さまに嫉妬したよ。

 理緒はふと気になったように大王さまに聞いた。

「でも、服を買ったって、メイドの子たち全員分の服を買ったのです?」

「いいや、笹美ちゃんのだけだよ。笹美ちゃんは特別だからね」

 あたしだけ特別って、どういう意味だろ……? もしかして、大王さま、あたしを口説いてる……? ダメよ、ダメ! あたしはもっと、激しくいじめられるプレイが好きなんだから! そんな風に優しくされても、嬉しくないんだからね!

 あたしと理緒は三千院家の家族用の衣裳部屋に案内された。どんな恥ずかしい恰好を強制させられるんだろうと、内心どきどきしてたけど、大王さまが選んだのは、どちらかというと清楚な感じの服だった。

 残念に思いつつも、あたしは大王さまの選んだ服を着た姿を大王さまと理緒に披露する。

「ど……うですか……?」

 大王さまはにっこりと微笑む。

「似合ってるよ、それなら今日の王とのデートに相応しい恰好だね」

 デートって、別に王さまはそんなこと微塵も思ってないと思うんだけど……?

 でも、理緒も大王さまの言葉に同意のようだった。

「はい、笹美さん、凄く似合ってます。大王さまにしては珍しく粋な計らいですね」

「常々思ってるんだけど……理緒の俺に対する扱いが酷い気がする……」

「何故だかはご自分の胸に手を当てて考えてくださいね」

 理緒は大王さまに負けてない感じに、にっこりと笑った。

 大王さまと理緒、どっちの笑顔もドS全快の笑顔で、あたしとしてはもう見てるだけでドキドキする。二人の笑顔を見てるだけで、色々な衝動が抑えられなくなりそうなので、あたしはそっと目を伏せて、床の方を見た。

 するとあたしの視界にすーっと大王さまの手が差し出されたのが見える。あたしは思わず、再び目線を上げる。

「お姫さま、準備が出来たなら、いこ。王子さまがお姫さまのことを待ってるよ」

 どひゃー!? お姫さまって、あたしのこと!? あまりに呼ばれ慣れてない呼び名に、珍しく気持ちいいからではなく、あたしは普通に照れて赤くなる。パチクリと瞬きして、茫然としつつ、大王さまの手を取った。

 そのまま再び玄関ホールへと連れて来られる。既に王さまがそこに待っていて、大王さまと手を繋いでるあたしを見て、大王さまをきっと睨んだ。

「兄さま、何をしてるんだ。ササミから手を放せっ!」

 王さまの険しい声に、あたしはびくっとなる。どうしよう……何か王さま、怒ってる……?

 しかし大王さまは無頓着な様子で、あたしの手を離すと、そっと王さまの方へ背中を押した。

「はいはい、分かりましたよー。お姫さまは王子さまにお引渡しします。だから……しっかりエスコート、頼んだぞ……王」

 あたしは王さまにおずおずと近寄った。

「ササミ……」

 王さまは険しい声のまま、何か言いかける。でも、それを口に出す前に思い直したらしく、あたしの手をぎゅっと掴むと、顔を赤くしてあたしから背けつつ、ぼそっと呟くように言った。

「その服、似合ってるぞ」

「えっ……?」

「俺様のために可愛い恰好してきてくれて嬉しい」

 良く分からないけど、メイド服で遊園地に行かなくて正解だったみたいだ。王さまのあたしを見て照れてる様子が、可愛らしく感じられ、同時にあたしも照れ臭かった。

 どうしよう、今日は何だかあたしにしては珍しく、所謂、胸がきゅんとするようなむずかゆい気持ちになることが多い気がする。居心地の悪さを感じつつ、同時に癒されるような心地よさを感じて、あたしは戸惑うばかりだった。

 あたしの手を引いて、王さまは玄関ホールを出て、止まってる車の方へ向かった。今日はこの車で遊園地に行くみたいである。

「ササミ……」

「は、はい……!」

「いくぞ」

「はい!」

 その時あたしは、本当にあたしがお姫さまで王さまが王子さまみたいな感覚を、味わっていた。それはドMなあたしにとって全然苦痛とか感じたりせずに気持ちいい状況でない筈なのに、不思議な心地良さで心が満たされていた。


 日曜日だったからか、遊園地は沢山の人で賑わっていた。

 車から降りて、その沢山の人を見て、あたしと王さまは思わず、凍り付く。

 王さまはポツンと呟いた。

「遊園地って、もっと人が少なくて、ロマンティックで、甘い場所かと思ってた……」

「遊園地はそんな甘い場所ではないです! 遊園地は戦場です!」

「みたいだな……。遊園地、貸し切りにしておくべきだった……」

 三千院家の財力をもってすれば遊園地を貸し切りにするなんて、容易いことだろう。でも、今更そんなこと言っても仕方ない。あたしは気持ちを切り替え、王さまの手をぎゅっと握った。

「ここまで来たんです、人ごみも含めて楽しみましょう! はぐれないようにあたしと手を繋いでいてくださいね!」

「そ、そうだな! 折角ササミと来たんだ、楽しむぞ!」

 あたしと王さまは戦場に挑む兵士のようにお互いの顔を見つめて勇ましく微笑み合って、人ごみの中に突入した。

 遊園地のアトラクションを色々見て回る。

「王さまは何か、行ってみたいアトラクション、ありました……?」

「何が楽しいのか、よくわからん。ササミが行きたいアトラクションへ行ってみよう」

「王さまは絶叫系は大丈夫ですか……?」

「わからん。乗ったことないからな……」

「王さま、もしかして、遊園地、初めてです……?」

「ああ……。記憶にある限りでは、初めてだな」

 やっぱり大金持ちの子供ともなると、躾とか色々厳しくて、こういうところ連れてきてもらえなかったのかなあ、とあたしは漠然と納得した。それならなおさら、遊園地には普通に何回も行ったことある庶民のあたしが、遊園地の楽しさを教えてあげないと!

 やっぱり絶叫マシンだよね! あの恐怖感があたしにはゾクゾクと気持ち良くて、絶叫マシンはあたしは大好きだった。あたしみたいな性癖でなくても、絶叫マシンは好きな人多いから、やっぱり遊園地に来たなら絶叫マシンを体験してもらうべきだよね!

「あれ、乗りましょう、あれ!」

 あたしはシンプルな上がったり下がったりするだけのタイプのジェットコースターを指差した。最初はああいう無難なのから体験するべきだよね! あれが大丈夫なら、徐々に上級者向けに挑戦していけばいいし。

 王さまは素直に頷く。

「ああ……ササミが乗りたいなら、あれに乗ろう」

「はい、行きましょう。そして並びましょう!」

 あたしと王さまはシンプルジェットコースターに乗った。それでまだ大丈夫というので、あたしと王さまは絶叫系を一通り制覇することの挑戦を開始した。


 色々な絶叫系の乗り物に乗り次の乗り物へ行こうとしている途中、あたしは王さまの顔色が真っ青なことに気づいた。あたしが全力で楽しみ過ぎてて、王さまが具合が悪くなってたことに気づかなかった! あたしたちは慌ててベンチで休憩することにした。

 王さまとあたしは隣り合って座った。

 あたしは王さまの顔を見る勇気が出なくて、自分の膝の辺りを見下しながら言う。

「王さま……ごめんなさい……」

「……何故、ササミが謝る?」

「だってあたし、自分が楽しかったから、つい夢中で王さまが体調悪くなってたの、気づかなくて……」

「そっか、ササミ。楽しかったか。良かった」

 王さまの声色の優しさに、あたしは思わず王さまの方を見た。

 王さまはあたしの方を微笑みながら見つめていた。

「ササミに楽しんでもらいたくて、ここに来たんだ。ササミが楽しんでたなら、俺様も満足だ」

 もーっ、相手は小学生の男の子なのに! 何でこんなに胸がときめくの!? あたし、Mなだけでなくて、ショタ属性に目覚めちゃた!?

 その時、王さまは気持ち悪さからか、少しふらついて、あたしの膝の上に頭を乗せる形で倒れ掛かる。不意な体制にあたしの心臓はどきんとする。王さまは慌てたように言う。

「す、すまん、直ぐどく!?」

 あたしは気持ちを静め、王さまの頭をそっと抑えた。

「いいですよ、そのままの姿勢でいてください。あたし、膝枕しますから」

 王さまは体調不良なのだ。あたしの膝枕が少しでも役に立つなら、あたしとしてもすっごく嬉しい。それにこうしていると、王さまと出会ったときのメイド喫茶で働いていた時のことを思い出す。あの時も良くこうして王さまに膝枕してあげてたからね。だから、今も不快な想いとかは一切感じず、すごーい嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 あたしは上機嫌にクスクス笑う。王さまはあたしの笑顔を見て、少し悔しそうな顔をして、片腕で顔を隠した。

「ササミには情けないところ見られたくないのに、俺さまの格好いいところだけ見て欲しかったのに……残念だ」

「そんなことないですよ、情けないとか思わないです。あたしは……もっと王さまに頼ってもらえたら嬉しいです!」

「……こんな情けない姿を見て、俺さまのこと嫌いにならないか?」

「まさか! 嫌いになんてならないです!」

「じゃあ……俺さまのことが……好きか?」

「はい! 大好きです!」

 あたしは満面の笑みで答えた! うん、あたしは王さまのこと、大好き! 小学生なのに精一杯背伸びして大人らしく振舞おうとしてるところとか、でも、偶に小学生らしくあたしに甘えてくるところとか……凄くかわいいと思う!

 うーん、あたし、ショタ属性はないと思ってたけど、王さまのおかげでショタ属性に目覚めちゃったのかも……? でも、王さま以外の子供にはかわいいと思っても、王さまに抱いている感情とは何か違う気もするし、何だろ、この気持ち……?

 王さまはいつの間にか黙り込んでいた。 沈黙が続く。でも、その沈黙には気まずさは全くなくて、王さまとこうして二人でいることで、幸せな想いで心が満たされていた。

 いつの間にか日が暮れて来た。ずっとこうしていたかったけど、でも、そういうわけにはいかない。

「そろそろ帰りましょうか、王さま?」

 王さまは首を振って、指さした。目で追うと、指の先には観覧車があった。

「最後にあれに乗りたい」

「観覧車ですか……?」

 遊園地の締めと言ったら、やっぱり観覧車だよね。観覧車なら絶叫系と違って王さまも気持ち悪くならないだろうし。あたしに異存はない。

「わかりました、行きましょう、王さま!」


 あたしと王さまは観覧車に乗り込んだ。観覧車は非常にゆっくりと回って、上に向かっていく。観覧車からは遊園地の様子が一覧できた。そろそろ夜が近いので、遊園地は夕焼けの赤で染まっていた。

「見てください、王さま! すごーい綺麗ですよ!」

「ほんとだ、綺麗だな、ササミ……」

「はい、本当に綺麗です!」

 あたしと王さまはお互いの顔を見て、微笑み合った。遊園地、楽しかったな……来て良かった!

 ふと王さまは真顔になった。何だろうと目をパチクリしながら王さまを見ていると、あたしは腕を掴まれて、ぐいっと引っ張られた。あたしの頭が王さまの胸に収まった。驚きであたしは身動きできずにいた。王さまはあたしの頭を抱きしめると、あたしの耳元に囁くように言った。

「好きだ、ササミ……」

 あ、あ、あれ……? これって、告白のように聞こえる……? 王さまがあたしに告白……? ええっ!?

「王さま、これって、告白……ですよね?」

「そうだ」

「いつからあたしのこと、好きだったのですか!?」

「メイド喫茶に通いだした頃にはもうササミのことしか目に入ってなかった。ササミが好きで好きでたまらなかった」

 あたしは考える。一体あたしは、王さまのこと、どう思ってるのか……? 王さまのことは大好きだ。でも、恋愛対象としては……? 王さまが小学生でなければ、もっと大人なら、素直に告白を受け入れてた気がする……。あれ、って、ことは、あたしも王さまが好きなの……?

 小学生と大人が付き合うのはやっぱり問題な気がする。これはお決まりのパターンで、王さまが大人になってもあたしのことを好きだったら付き合う、と返事を返す……? ううん、好きだと自覚したら、あたしももう、そんなに待ってはいられない! 元々あたしの性癖はアブノーマルなんだから、そこにアブノーマル属性がもう一つ付け足されても問題ないよね!

「王さま、あたしも好きです! あたし、王さまの彼女になりたいです!」

「本当か、ササミ! てっきり断られるか、返事引き延ばされるかと、思ってた……」

「あたしの信条は、今が幸せならいい、なんです! 返事引き延ばしたりしませんよ、遠い未来の幸せのために今の幸せを犠牲にするなんて、あたしにはできません! お互い好き同士なら、我慢せず素直にお付き合い、はじめたいです!」

 あたしからも王さまにぎゅっと抱き着いた。あたし、今、幸せな気持ちでいっぱいだ。

 そんなあたしの頬に王さまは手を添える。そして王さまはあたしの顔に顔を近づけてくる。唇と唇が触れ合おうとしたとき、あたしは手で王さまの顔を止めた。

「待ってください! キスは王さまがもっと大人になってからです!」

「恋人同士なら、キスくらいしても、いいじゃないか!」

「そこは王さまがもう少し大人になるまでは、清い交際で行きましょう! 今はまだせめて、手を繋ぐくらいで!」

「無念だ……」

 王さまは下を向いて肩を落とす。でも、この件はあたしも譲るつもりはない。小学生の子に色々大人のすることをしたら、それこそあたしが法律違反で警察に捕まりそうだ。さすがにMなあたしでも、その状況は楽しめないから……。

 あ、そうだ、あたしがMだというのだけは、いずれ王さまに伝えておかないと。

「あの、王さま……」

「何だ?」

「あたしと付き合うなら、色々と覚悟しておいてくださいね? あたし、まだ大事なこと、王さまに言ってませんから」

「大事なこと……何だ……?」

「それは付き合っていけばそのうち、分かりますよー。ただ、それを知っても、あたしのこと、嫌いにならないでくださいね?」

 こうしてあたしと王さまは付き合うことになった。


 必死に勉強して取ったメイド検定の資格!

 この資格を手に、あたし、朝岡笹美は!

 素敵な彼氏が出来ました!


 王さまと一緒に過ごす日々は幸せだけど、ちょっと刺激が足りない。やっぱり、いずれ王さまがあたし好みのドSなご主人さまに育つように、今から教育していかないと。

 逆光源氏計画だね、おー!

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