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第2話

 今日からあたしは王さまの家で住み込みメイドとして働くことになった。

 王さまのおうち、ひろーい。これ、公園並みに広いよ。公園と言っても、近所の公園とかでなくて、緑一杯の大公園ね!

 あ、分かりやすく言えば、小学校や中学校が4つくらい入りそうなほど、広いお屋敷!

 普通は東京ドーム何個分とか言うんだろうけど、東京ドームはあたし、よく分からないから、その例えはなしね。

 あたしは王さまの案内で、大きな部屋に通された。

 そこには先輩らしいメイドさんが一人いた。

 王さまはそのメイドさんに、あたしを紹介する。

「リオか。こっちは今日からうちで働くことになったササミだ、宜しく頼む」

「あ、朝岡笹美です! 宜しくお願いします!」

 あたしはぺこん、とお辞儀した。

 そのメイドさんはあたしのことを、まあ、と驚いたように口を開けて見てくる。

 それから王さまの方を向いて、尋ねた。

「こんな時期にメイドさんになるなんて、訳ありですの?」

「ササミは俺さまのお気に入りだ。だから、苛めるなよ?」

「なるほど、そういうことですか。分かりました。丁重におもてなししますわね!」

 メイドさんは顔を輝かせる。ち、違うって、違う! 何、変な誤解してるのよ!

「普通でいいですからね、普通で! むしろ厳しく、ばしばしお願いします! メイドになるの夢でしたし、それに……」

 こんな可愛らしいおねーさんに厳しくしつけられるなんて、ドMのあたしにはたまらないご褒美だし!

 おねーさんはぺこりとあたしに頭を下げ返した。

「あたしは美空理緒と言います。メイド長でも何でもない、ただのメイドですけど、朝岡さんの先輩なので、色々分からないことありましたら、教えますよ」

「あ、笹美でお願いします! 朝岡さんと言われるの、何か、慣れなくて!」

「じゃあ、笹美さんで。あたしのことは理緒とお呼びください。お願いしますね」

 この子とは仲良くなれそう。さあ、いよいよ、夢に描いてたメイド生活だあ!

 と思ってたら、背後からあたしの頭にぽんと頭が乗せられた。

 振り返ると、一人の何だかドSそうな顔をした美青年があたしの後ろに立っていた。

 あたしより少し上くらいの年齢。うわー、好みだ!

 顔が好み! この意地悪そうな表情がたまらなーい!

「誰? この子? 新入り?」

 青年はあたしを見下ろしつつ、周囲に向かって問いかけてくる。

 身長差もあたしを高みから見下ろすこの身長差、まさに理想!

「はい! あたし、ここに新しく入ったメイドの朝岡笹美と言います! 宜しくお願いします!」

「ふーん、笹美ちゃんか、宜しくね。俺、三千院大王。気楽に大王さま、と呼んでね」

 名前も尊大な名前がたまらなくいい!

 三千院という苗字ってことはこの人が王さまのおにーさんかあ。

 うん? 王さまに大王さま? この名前って……もしかして、この二人の両親、某バレーボール漫画のファン? 某バレーボール漫画に、王さまと大王さま、というキャラ、いたよね……? まあ、細かいところはいいか!

「どうかあたしのこと、びしばし、いじめ……じゃなくてご指導してください! 宜しくお願いします!」

「ああ、任せておいて。いくらでも、いじめ……じゃなくて、ご指導してあげるよ」

 ニヤリ、と大王さまは笑った。このドSな笑み、あたしがドMだと気づいてる! 今のはペットをどうしつけようか楽しみにしてるご主人さまの顔だった! きゃあ、嬉しい!

 しかし、そんな通じ合ってるあたしたち二人に声が割って入る。

「幾らにぃさまでも、ササミを苛めたら、俺さまが許さないからな!」

 王さまだ。いや、あたしはむしろ、苛められたいのよ!

 しかし、王さまは当然あたしの気持ちは分からなかったらしく、キッと大王さまをにらんでる。

 大王さまは今度は王さまに視線を移して、ニヤニヤ笑う。

「ふーん、そんなこというなんて、王はよっぽどこの娘が気に入ってるんだな」

「軽い気持ちでササミに手を出すのだけは許さないっ!」

「そこまで言われたら、仕方ないなあ、俺は退散するよ。二人で仲良くな」

 大王さまは手をひらひら振って、行ってしまった。

 あぁん、待って、大王さまぁ~。これが放置プレイと言うやつね、高度なドS技を使ってくる人だわ。

 ぎゅむっ、王さまはあたしの腕を掴んで、あたしの頭を自分の顔の方に引き寄せた。

「ササミはにぃさまみたいな男が好みなのか?」

「う、うん……どちらかというと、好みかなぁ……えへ」

 あたしは隠さず言う。すると王さまは悔しそうな顔をした。

「俺もにぃさまと血が繋がってる。だから、にぃさまみたいないい男に育ってみせる! だから、ササミ、俺さまのこと……」

 こほん。

 王さまの声を破るように、可愛らしい咳払いがした。

 理緒があたしたち二人をじーっと見てる。何か言いたげな視線で。

 どうしたんだろ??

 そして何故か王さまは顔を赤くした。

「すまん、こんなところで。場所を改めて、今度伝える!」

 王さまはパッと手を離した。

「は、はぁ……?」

「じゃあ、またな、ササミ!」

「は、はい!」

 王さまも部屋を出て行った。

 あとは理緒とあたしだけが取り残される。

 理緒は呆れた顔であたしのことを見ている。

「いちゃいちゃするなら、人目のないところにしなさいよ。かるーい女に見られるわよ」

 いつの間にか口調がフランクになっるが、まあ、それはいいか。

「かるーい女に見られるのはいやだなあ。でも、あたしと大王さま、そんないちゃいちゃしてるように見えた……? きゃっ、照れるなあ!」

「そうでなくて、王さまのことよ」

「王さま……? 王さま、小学生くらいだよね……? さすがにあんなちっちゃい子と恋愛なんて、ないない!」

 あたしは笑顔でその疑惑を否定した。

 理緒は、はぁ、とため息を吐き出す。

「これは前途多難ね、王さまも……」

「何で? 王さま、何か大変なことでもあるの?」

 不思議そうに聞き返したあたしに、何故か理緒はもう一度、はぁ、とため息を吐き出した。


 お掃除お掃除、らんらんらん。

 あたしは歌いながら、廊下を只管雑巾がけしていた。

 でも、何だろ……? ここの制服、何故かあたしが勤めてたメイド喫茶の制服と似てる……?

「ここの制服、誰が考えたんだろ……?」

「王だよ」

 あたしの心の呟きに答えるように、人の声がした。

「だ、だ、大王さま!?」

「やあ」

 大王さまは手を上げてみせる。

 あたしは思わずぺたんとその場に座って、近寄ってきた大王さまを見上げた。

「何してるの……?」

「何って、雑巾がけ……」

「モップ使えばいいじゃん?」

「この方が綺麗に汚れが落ちるんですっ! 日本の伝統と言えば、やっぱり雑巾なんです!」

 力強くあたしが主張すると、大王さまは愉快そうに笑った。

 あたし、そんな、変なこと、言ったかなあ……?

「まあ、効率が落ちないなら、いいけど。それより、あと1時間後くらいに、お風呂場、来てくれないかな……?」

「あ、はい! でも……何で? お風呂場掃除ですか……?」

「背中流して欲しいんだ、キミに」

 って、何、これ!? きたー!

 一緒のお風呂に入ってドキドキ作戦ね! そんな、一緒にお風呂だなんて、恥ずかしすぎて、悦んじゃう……。

 駄目よ、駄目ーっ!

「はい、分かりました! 喜んで!」

「喜んでって、ほんと、面白いなあ、キミは……」

 クックックッと大王さまは笑ってみせた。

 ああ、そんな笑顔も素敵……。もっと苛めて欲しい……。もっと……もっと……。

「駄目だよ、そんな熱い眼差しで見られると、勘違いしちゃいそうだよ。キミをこの場で直ぐに食べてしまいたくなりそうだ」

 食べるなんてしなくていいから! ただ、あたしをいじめてくれれば、それでいいの!

 あたしは違う違うというように、首をプルプル振った。

 そう言えば、ふとあたしは思い出したことを声に出した。

「そう言えば、さっき大王さま、あたしの心を読みましたよね? エスパー?」

「心って、声に出してたじゃないか……」

 えっ、そうなの!? あたしの心が声に出てた!?

 これはうかつなこと考えて声に出したら、変態とばれちゃう!?

 いかんいかん!

 あたしは口にチャックを閉める動作をした。

 大王さまはそんなあたしを呆れたように見下ろしている。

「ここの制服はつい最近王がこの制服に変えさせたんだ」

 そうなんだ。王さま、よっぽどあのメイドカフェの制服、気に入ってたんだね。

「でも、その制服、キミに似合ってるよ、ほんと、可愛い」

「あ、ども」

 あたしはあっさり返事返す。あたしが可愛いなんて、そんな褒められても嬉しくない! そこは違うでしょ! もっとあたしをいびることを言ってくれないと! ちゃんとあたしを喜ばしてよね!

 あたしは段々腹が立って、ぷくっと頬をふぐのように膨らました。

 大王さまはちょっと慌てたようにおろおろする。

「嘘だと思った? 本当だって! その制服着てるキミは可愛いよ! 」

 だから、違うってば! それも、これも一緒のプレイ!? あたしがあえて望んでないことを言って、あたしを喜ばせようとしてる!?

 やっぱり大王さま、ドSだあ……大好き!

 あたしはようやく好意全開の笑みを大王さまに向けた。それで大王さまは安心したみたいだった。

「じゃあ、1時間後、お風呂場で待ってるよ」

 大王さまは背中を向ける。そしてフルフルと手を背中越しに振って、去っていった。


 あたしはメイド服を脱ぎ捨て、バスタオルを身体に巻きつける。

 お風呂場からは勿論、人の気配がしている。

 あたしは覚悟を決めて扉を開けた。

「お背中、流しにきました」

「……!?」

 中から声にならない声がする。

 そしてぱしゃーん、と慌ててその小柄な身体を湯船に付けて、あたしから裸体を隠した。

 少し見えちゃった……。

「きゃっ、お、王さま……?」

 中にいたのは大王さまでなく、王さまだった。

 王さまは驚いた顔で聞いてくる。

「何でササミがお風呂に……?」

「あたしは大王さまに、お背中流すように言われて、ここに来たのですけど……?」

「嵌めたな、にぃさま……」

 王さまは低く呟く。

「嵌めた??」

「にぃさまが俺さまに、早くお風呂に入るように、って……」

 ああ、なるほど。背中流すって、王さまの背中だったんだ。何だ、あたし、期待して、損した。てっきりお風呂場で、大王さまにあれやこれや色々いじめられて気持ちいい思いをするんだとばかり、思ってた。

「そうなんですか? 分かりました。でしたら、あたしが王さまの背中、お流ししますね」

「って、そこ、順応すんなよ!? 俺さまだって、一応、男なんだから……」

「知ってますよ、じゃあ、早く身体洗いましょう。何なら、隅々まで洗ってあげますよ」

「遠慮する!」

 王さまは顔を赤くして、あたしに背中を向ける。

 どうしたんだろ、変なの……?

 まあ、この年の男の子は色々微妙な年齢だからなあ。

「大丈夫だよ、ほら」

 あたしの声に王さまが振り返ったのを確認して、あたしはバスタオルを下に落とす。

 バスタオルがお風呂の床に着く前に、王さまは慌てて、目を隠す。

「そ、そんな、駄目だぞ、ササミだって、女の子なんだから、そんなっ!?」

「だから、大丈夫ですってば。下、水着着てますし」

「何だ……」

 王さまはほっとした顔をした。

 それからまた何かに気づいたように、首をプルプル振る。

「だから、そういう問題じゃなーい!」

「じゃあ、何が問題なんです?」

「水着着てても、それはそれで男のお風呂入ってる場所に一人で入ってくるのは……」

「王さまなら、平気ですよ」

「そうなのか……?」

「はい!」

 あたしはにこやかに笑顔で言った。

「大王さまだと思って緊張してましたけど、王さま相手なら、緊張しなくて、平気ですし。あたしも一緒にお風呂、入っていいですか?」

 王さまは子供だしね。子供相手なら、遠慮せず、あたしもお風呂、のんびり堪能しよ。

 王さまの背中は勿論流すけど、これだけ広いお風呂なら、あたしも一緒に入ってもいいよね。

「俺さまならいいって、やっぱりササミ、俺さまのこと……好きなんだな!」

「はい、好きですよ、王さまのこと」

「よし、一緒にお風呂入ろ! 責任なら、俺さまが取る!」

「ありがとうございます」

 あたしは王さまの隣に行って湯船に浸かった。ふぅ、気持ちいいなー。

 でも、王さまはまだ何か、あたしから見える顔を赤くしたまま、あたしから背中を向けて座り込んでいる。

 王さま、どうしたんだろ? もうのぼせたのかな、もしかして?

「大丈夫ですか? 王さま……?」

「大丈夫なのだ。ただ、ササミがい、い、い、いろっぽ……」

「いろっぽ……?」

「何でもないのだ! ササミはのんびりお風呂を堪能してるがいい。俺さまはもう出る!」

「それなら、あたしも出ますよ! ご主人さまを差し置いて、あたしだけお風呂、堪能してるわけには行かないですって!」

 あたしは慌てて湯船を立ち上がった。

 王さまはなんだか、口まで湯船に浸かりぶくぶく泡を立てている。そしてふらっとよろめいた。

「王さま!?」

 あたしは王さまを支える。うん、やっぱり間違いない、のぼせてる!

 あたしは王さまを必死で抱き上げると、湯船から洗い場まで運び出した。

 王さま、子供のようでも、意外と重い。筋肉ついてる。ちっこいけど、男の子なんだなあ、とつくづく思った。

「あたし一人じゃ、これ以上運ぶのは無理かも! 王さま、人呼んできますから、待っててくださいね!」

「一生の不覚……」

 王さまはうわ言のようにそんな言葉を呟いていたが、あたしはとりあえず、タオルで王さまの頭を冷やしてから、人を呼びに行った。

 何故、水着で王さまとお風呂に入っていたのか聞かれたので、あたしは正直に、大王さまに背中を流すように言われたからお風呂場に行ったら王さまがいた、と告げたところ、何故か理緒や他のメイド仲間から呆れられたような顔をされた。

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