美しいままで
だらしなく両足が開かれ、腕はただぶら下がっている。髪の毛は乱れており、そこから覗く目は虚空を見つめていた。制服からして、自分と同じ学校の生徒らしい。なぜこんなところにいるのか、声をかけたが、反応はない。すぐにわかる。彼女は死んでいた。その身体に血はついてなく、しかし、抵抗したような跡があることから、首を絞められた可能性があるかもしれない。と、なぜか妙に落ち着いて、観察している自分がいた。スカートからすらりと伸びた白い脚は綺麗で、見惚れる。手先も細く、美しかった。顔は若干、髪で隠れているが、整っている。目線を合わせても、彼女はもうこっちを見る気もなさそうだった。警察に電話しようと、遅すぎる行動をとろうとして、携帯を落としてしまった。手が震えている。やはり動揺していたのか、と今さらになってこの異常な状況が現実的になってきた。死んでるの?と、声に出す。うん。という返事は聞こえない。痛かった?何も聞こえない。怖かった?何も聞こえない。ふと、彼女の足元に置いてあった鞄に、フクロウのキーホルダーが付いているのが目に入った。小さくてかわいらしいフクロウ。アニメか何かのキャラクターだろうか。フクロウの表情は硬く、彼も死んでいるみたいだ。落とした携帯を拾う際、顔を上げると、スカートの中が見えてしまった。反射的に顔を逸らす。彼女は死んでいるというのに、とても罪悪感が生まれてしまった。しかしなぜか、もう一度顔をそちらに向ける。なぜか顔が熱い。火照っているというよりも燃えている感じがする。指紋を検知されたら終わりである。なんとなくそんなことを思った。警察にばれたら自分が疑われるかもしれない。ただの発見者から容疑者に格上げされてしまう。だが、そもそも、この状況で警察に連絡したら、まず疑われるのは自分なのではないか?犯人自ら警察に電話するとは思えないが、それでも、尋問されたらやってないものも、やっていると言ってしまいそうになる。そんな事を逡巡しているうちに、言い訳を考えてる自分がいた。慌てて触ってしまったと言えば逃れられるかもしれない。疑われても嘘発見器などで、無実と分かるかもしれない。今の自分にはまともな思考能力がないことは重々承知していた。だけど、それ以上に、人生で二度と起きそうもない、この状況に酷く興奮していたのだ。手が伸びる。ゆっくりと。彼女は動かない。そのだらしなく開かれた脚に手が触れた。冷たい。死んでいるのだ。当り前のことが、直接身体に伝わる。しかし、思ったより硬くなかった。死後硬直というのがあるのは知っていたが、なら彼女はまだそれほど長い間、ここにいたわけではなかったのだろうか。手が脚の付け根の方に這っていく。撫でるように。舐めるように。それでも彼女は動かない。嫌がる素振りも見せない。もしかして、自分の事を気に入ってくれてるのではないだろうか。もっと触ってほしいのではないのだろうか。笑ってるような気がする。彼女がこっちを見て微笑んでるような気がする。うれしい?うん。もっと触ってほしい?うん。そんな声が聞こえる。いや、そう彼女は言っているんだ。確信した。彼女は死んでなんかないのだ。自分がここに来るのを待っていたんだ。そうに違いない。きっとそ
ブー・ブー・ブー
ひどく驚いて声を上げてしまった。気付けば、いつの間にかポケットに入れてた携帯がバイブしている。開くと、そこにはメールで、いつ帰ってくるの?と、母からのメールが来ていた。
バケツの水をかぶったような衝撃と、勢いよく何かが萎える感覚に襲われる。携帯の画面から目を離すと、一瞬、景色が真っ暗になった。公衆トイレの窓から差す、夕陽は弱弱しくなっており、辺りは暗くなっていた。何時間ここにいたのだろう。目の前にはただの死体があった。
目の光ってるフクロウがこちらを睨んでいた。