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エンド・オブ・ライフ  作者: Motom
5/14

第4話 ADA

## 2013.6.27


 翌日、学校で晴夫は友達の山野と太田に話しかけた。

 これまでも話掛ける事はあったが気を使い合って

 ゲームの話は避けてきた。


「最近、UFOやってる?」と晴夫。

「おぅ」

「Lv30まで行ったよ」

「俺はまだLv28だけどな」

「すげー」

「晴夫、お前最近インしないよなー」

「久しぶりにやろうぜ」


 晴夫が"UFO"にログインしない事はゲーム内で

 "MARUO"のプロフィールを見れば解る。

 最終ログインから現在までの日付と時間が表示される。

 兄、秋雄が亡くなった前日から

 現在までの時刻が表示されている筈だ。


「実は、兄貴のパソコン借りて始めたんだよ」

「まじか?」

「うん」

「サーバーは同じか?」

「うん、オグンだよ」

「今日帰ったら久々に3人でやるか?」

「いいねー」


 山野が乗ってきた。

 晴夫は頷き次の質問をした。


「あのさ、聞きたい事があるんだ」

「何?」

「キャラが消されてるのにランキングに名前があるんだ」

「は?意味解かんね」

「それは無い。有るとしたらバグ」

「そっか・・・やっぱりバグか」

「どうかしたか?」

「誰が消されたんだ?」

「いや例え話、なんでもない」


 友達の誘いをはぐらかし帰宅したその日の夕方。

 晴夫は兄のパソコンの立ち上げ"UFO"の公式サイトを見る。

 PC版は公式ホームページにも同時にログインしている仕組み。

 公式ホームページとゲームランチャーのソフトは連動している。

 なので公式ホームページは常にログインしている状態だ。


 ようこそ"akiy"様と書かれていた。

 ここからゲームログインのボタンを押しても

 自動でゲームランチャーが立ち上がる。

 ゲームシステムチェックが自動で走る。

 再びパスワード入力を求めてくる。

 パスワードを入力しもう一度ログインボタンを押す。

 これでやっとゲームがスタートされる。

 何重にもセキュリティが張られている様だ。


 友達の山野が言った言葉を思い出す。

 "バグ"とはプログラムの故障だ。

 キャラクターを消せばゲーム内からそのキャラクターは消える。

 過去のログデータさえ消えてしまう。

 公式ホームページにその様なバクの報告も修正した情報もない。

 "ODIN"が消えていないと考えると兄とは別人だと判断できる。


 晴夫が"UFO"にログインするとロビーエリアに降り立った。

 "MARU2"はインフォメーションカウンターへ向かう。

 頭の上に"!"の付いたNPCがいた。

 マウスポインターを合わせてクリックする。


「"MARU2上等兵"お手紙が届いております」


 いつもの笑顔で青い制服を着た美少女がほほ笑む。

 チャットとは別に不在の人にはメッセージを送る事ができる。

 "ADA"からのメッセージだった。


「インしたらすぐ連絡いれろ」


 と書いてある。

 昨日の回答が出たのだろうか。

 晴夫はメッセージに返信してみた。


「何か解ったのですか?」


 電子メールの要領で簡単に返信できる。

 しばらく待つとチャットウインドウに水色の文字が表示される。

 水色の文字は"wis"直接チャット。

 "wis"whisper:ささやくと言う意味の言葉。

 2人きり直接チャットで話そうと言う意味だ。


 ・・チャットウインドウ・・


 ADA:おー来たか

 MARU2:こんにちわ

 ADA:挨拶はいい、解ったぞ

 MARU2:え?

 ADA:それ2垢だ

 MARU2:2垢って?

 ADA:アカウントだよ

 ADA:廃人だもんな2垢3垢当たり前だろ

 MARU2:そうなんですか

 ADA:そうだ。昨日うちの奴らに聞いてみた

 ADA:オデンは8垢はあるだろうてよ

 ADA:どっかその辺にメモあんじゃね?探してみろ

 ADA:解ったら直ぐに教えろ

 ADA:じゃあな

 MARU2:はい


 と"ADA"は一方的に捲し立てるとチャットを終えた。

 つまりこう言う事だ"ODIN"のアカウントは消されていない。

 いや消されたアカウントがあるかも知れないが氷山の一角。

 晴夫が今ログインしているアカウントとは違うアカウントがある。

 

 規定では1アカウントは1人で使う事と定められている。

 1つのアカウントを複数人で使う事は禁止である。

 複数人で使う事を防止する為にログイン情報などを

 ゲームプログラムは常に収集し違反すれば運営が対処する。


 1人で複数のパソコンからログインする事は考えられる。

 だから違反しても直ぐに罰せらせる事は無い。

 不正をしたり迷惑行為をしないか目を付けられバレた場合は

 ログイン情報と照らし合わせて罰せられる。

 逆に1人が複数のアカウントを使っても何の問題も無い。


 もし複数のログインIDとパスワードが存在するなら

 きっと覚書として必ずどこかにメモを残していると思われた。

 晴夫はハッと思い出しで兄の学習机の上を見た。

 あれだ。

 ピンク色のB5判ノート"Campus"と書かれた普通のノートだ。


 表紙には何も書かれていなかった。

 秋雄がいつも使うノートなら一々仕舞う筈はない。

 晴夫はノートを手に取りパラパラとページを捲る。

 社会や理科の要点が綺麗にまとめられていた。

 字も綺麗だ。


 誰かが試験勉強の為に授業を内容を纏めたのだろう。

 内容から受験ではなく期末試験の範囲を記した物に感じられた。

 ノートの前半1/3位で白紙になった。

 中間の帳合いを過ぎた辺りからまた書き込みが見られた。


「あった!」


 晴夫はつぶやいた。


 アカウント1

 ID:akio

 PASS:19970511

 ODIN


 アカウント2

 ID:akio2

 PASS:19970511

 VALII


 アカウント3

 ID:akio3

 PASS:19970511

 +EIRU+


 なぶり書きの様な汚い字だ。

 これは明らかに兄の字だと晴夫は思った。

 そして"ODIN"と書いてあった。

 兄が"ODIN"で間違いない様だ。

 後はサーバーがオグンであったら完全に特定できるのだが。


 秋雄がオグンサーバーだとしても

 晴夫まで同じオグンサーバーになる筈がない。

 12機もあるサーバーの内の7機が日本語サーバーだとして

 7分の1そんな偶然は無いのでは。

 晴夫は思い出した。


 今年の4月以前はあいうえお順で

 オグンが一番上に表示されていたのだ。

 4月に"アグゥエ"と"エリュズリ"の2つのサーバーが追加

 されて順番的にオグンの上に設置させた。

 オグンはオープンベータ時代からある一番古いサーバーだ。

 それだけ人も多いし最古参の桁違いに強いプレーヤーが多い。

 そてもどうしようもない不正プレイヤーも多いのだ。

 オープンβからやっていればオグンサーバーである確立は高い。


 晴夫はノートのページを捲る。

 その後のページにもUFOの拡張パーツや機体の種類など

 走り書きのメモ程度の内容が何ページにも渡り書かれていた。

 プレイ中のメモとして使っていたのだろうか。


 晴夫はログインしっぱなしになっている

 "MARU2"を操作しようと画面をみた。

 "MARU2"はロビーフロアにぼーと突っ立っていた。

 その周りには同じくぼーと突っ立ているキャラが沢山いた。

 30分もすると自動的にログアウトする。


 ログインだけして仲間とチャットを楽しんでいるか

 ロングインして放置したまま席を立っているのか。

 他のキャラ達が慌ただしく走り回る中

 このログインポイントだけは棒立ちのキャラが多い。


 晴夫はあらためて変な世界だなと思った。

 チャットウインドウの横のボタンを押して直接チャットを選択。

 "ADA"を選んでキーボードを打った。


 MARU2:ADAさん、アカウントありました


 水色の文字で表示された。

 返事をしばらく待つ。


 ADA:な、合ったろ思った通りだ

 ADA:解決だなそっちでログインし直せ

 ADA:じゃあな

 MARU2 :ありがとうございました

 ADA:おう


 と言ってチャットを終了した。

 晴夫は早速、ログアウトすると

 アカウント1でログインを試みた。

 ID:akio

 PASS:19970511


「パスワードが違います」


 もう一度ノートを良く見ながら打ちなおした。


「パスワードが違います」


 同じだ。

 このパスワードは違うみたいだ。

 次にアカウント2にログインをしてみる事にした。

 ID:akio2

 PASS:19970511


「パスワードが違います」


 こちらもダメだ。

 最後にアカウント3を試した。

 ID:akio3

 PASS:19970511


「パスワードが違います」


 ノートに書かれたアカウントは全て使えなかった。


 再度、"akiy"でログインし直した。

 こちらには"MARU2"が表示される。

 晴夫が今使っているアカウントであった。

 少なくとも4つのアカウントは存在した。


 ・・チャットウインドウ・・


 MARU2 :ADAさん、すみません


 水色の文字で表示された。

 返事をしばらく待つ。


 ・・チャットウインドウ・・


 ADA:どうした

 MARU2 :ログインできませんでした

 ADA:なんだと!

 MARU2 :なぜですか?

 ADA:パスワード変えたんだろうな

 MARU2 :え

 ADA:メール見てみろ

 ADA:パス変えたら運営からメールが来る

 MARU2 :はい、解りました。


 エイダはアカウントがある事を言い当て次の指示をだす。

 晴夫はWindowsのスタートボタンからメールソフトを探した。

 メールソフトは入っていない。

 最近のWindowsにはメールソフトは標準で付いていない。


 左右のパソコンの電源を入れる。

 3台のパソコンがあればどれか一つにだけ入れている可能がある。

 思った通り右のパソコンにはメールソフトが入っていた。

 マイクロソフトの一般的なメールソフトを立ち上げた。


 兄が死んだ日以降のメールがダウンロードされてきた。

 ほとんどがダイレクトメールを装ったフィッシング詐欺メールだ。

 次に多いのがゲーム会社からのPRのメール。

 課金アイテムの購入を勧める広告記事ばかりだ。


 晴夫が題名を上から見て行く

 それらしき気になる題名を見つけた。


 メールアドレスが変更されました


 既読になっていた。

 クリックすると中身が下に表示される。

 晴夫は大事なところだけを斜め読む。


 アルティメット・フォース・オンラインについて

 ☆重要お知らせ☆ 2013/6/5


 akio様へ

 貴方様のメールアドレスが変更されました事をお知らせします。

 このメールは新旧どちらのアドレスにも送信されています。


 UFO運営NEXT株式会社


 晴夫はエイダに報告する。


 ・・チャットウインドウ・・

 

 MARU2 :ADAさん、すみません


 水色の文字で表示された。

 しかしいくら待っても返事はなかった。

 時計を見ると時間が18時を過ぎていた。

 晴夫は仕方が無くこの日は諦めた。

 ログアウトしてパソコンを切った。



## 2013.6.28


 翌日、学校へ行くと教室で太田が話しかけてきた。


「晴夫、お前昨日ずっと突っ立てただろ」

「え」

「ロービーに突っ立ってただろ」

「あ、うん」

「話掛けたんだけど」

「ホント? ごめん気付かなかった」


 会話の多い場所だ。

 他人の会話でチャット欄が埋め尽くされる

 彼からのチャットは流れてしまった様だ。


「ごめん」と晴夫はもう一度謝った。

「まぁ良いけど、何してたんだよ」

「うんちょっと」

「言えないのか」

「うーん、TV見てたんだ」


 晴夫はまだこの事実を話すのは不味い様な気がした。

 だから今はまだ内緒にしておく事にした。

 兄、秋雄がODINであった事。

 複数あるアカウントの内の一つについて

 2週間前に兄がメールアドレスを変更していた。

 その後の新メールアドレスは解らない。

 今解っている事実はこれだけだ。


 その日の帰宅すると直ぐにゲームにログインした。

 "ADA"からメッセージは届いていた。


「ごめん。バトルやってた。どうだった?」


 返信するのを止め直ぐに連絡を取る事にした。

 直接チャットで"ADA"に話かけて返事をまった。


 ・・チャットウインドウ・・


 MARU2 :ADAさん、返事ください。


 晴夫はしばらく待つ


 ・・チャットウインドウ・・


 ADA:おう、どうだった

 MARU2 :メールアドレスが変えられてました


 沈黙が流れる


 ・・チャットウインドウ・・


 ADA:うーん、それさ

 MARU2 :はい

 ADA:垢ハックじゃねえかな

 MARU2 :え

 ADA:ハッキングだよ

 MARU2 :どうゆう事ですか

 ADA:誰かにアカウントを乗っ取られてる

 MARU2 :誰ですか

 ADA:知らねーよ

 ADA:まぁ誰かに譲渡した事も考えられる

 MARU2 :どういう意味ですか

 ADA:誰かにあげたか売ったか

 ADA:まぁ、売らないか命より大事なキャラだし

 ADA:しかも鯖で最強、いやUFO最強だしな

 ADA:盗られたと思った方がいい

 MARU2 :どうすれば

 ADA:心当たりは無いか

 MARU2 :無いです

 ADA:じゃぁ運営にメールしておけ

 MARU2 :何て書けば

 ADA:そのままだよ、垢が取られたかも知れませんって

 MARU2 :はい

 ADA:おっとバトルの誘いだ。またな

 MARU2 :ありがとうございました

 ADA:おう


 チャットを終了した。

 晴夫は「誰がパスワードを知っているのか」

 「メールアドレスを書き換えたのは誰なのか」

 もう一度、ノートを見てみた。

 前半は丁寧に要点を纏められている綺麗な字だ。

 これは兄、秋雄の字じゃなかった。


 兄はこのノートを誰かに渡したのかも知れない。

 そして受け取った人が怪しい。

 勉強が先かゲームが先か。

 晴夫はそれが誰か直ぐに思い出した。


 このノートは兄が学校を休んでいる間に

 誰かが授業中に黒板を書き写すなどした物だろう。

 ノートの持ち主に心当たりがある。

 晴夫はよく知っていた。

 それは近所に住んでいる幼馴染。

 田所美雪だ。

 晴夫も子供の頃よく彼女に遊んで貰っていた。

 彼女の家族とうちの家族も仲が良い。

 特に兄、秋雄と彼女は同じ塾に通い同じ中学を受験した。


 中学3年の頃は付き合っていると晴夫は思っていた。

 そして高等学部に進学し夏頃から兄が引き籠りを開始した。

 そうだこのノートを持って来たのは彼女で間違いない。

 この春、秋雄が2年になってからは来ていない様な。


「違う」


 晴夫は独り言を呟き自らの考えを否定した。

 彼女は両親に付き添い秋雄のお通夜に来ていた。

 その時に母に渡した可能性もある。

 そして学習机の上に揃えて置いたのは晴夫の母だ。

 つまり彼女が最近までこのノートを手にしていたんだ。

 IDとパスワードを知っているのは彼女だ。

 晴夫は明日の放課後、田所美雪に会いに行くしかないと決めた。

 晴夫がパスワードを知る人物を突き止めた。


 その頃、


 エイダは"コンバット"対戦ルームでバトル中であった。

 彼の率いる部隊による精鋭5人が一緒だった。

 エイダはジャンプユニットを付け空を飛びながら攻める。

 タンカー役ができる様に軽量化されたライオットシールドを

 左腕に装備していた。

 中盤にアタッカーが2名、後方支援に2名の無難な布陣で挑む。


 今回の相手は悪名高い敵軍最強部隊"ブラックレイン"

 エイダとは因縁の多い部隊だった。

 しかも相手の中に"SR"スペシャルレアなマシンが1機。


 "Crustacea EX"を駆る"YUKIUSAGI"がいた。


 その機体は戦場とは思えない悪趣味なピンク色に塗られていた。

 物理の法則もゲーム内秩序も完全に無視した。

 ロケットランチャーと言う反則武器を使う。

 ロケットハンマーとも呼ばれる。

 大きな鉄塊を打ち込んでくる。

 一発食らえば即"DES"、つまり破壊:destructionだ。


 UFOには"DIE"(死)は無い。

 ディス"DES"(破壊:destruction)がそれにあたる。

 また"DAM"(破損:damage)"が蓄積すると"DES"になる。

 RPGで言う"LIFE"や"HP"に当たるのは

 "STATE"バーと呼ばれるグラフで

 自機を含む小隊5機のグラフが画面左上に表示されている。

 小隊内の機体のダメージ状態を把握できる。


 また戦闘中にダメージを回復する機能はない。

 RPGの様なポーションやリペアーが無いのだ。

 "DES"すればミッションやコンバットの時間内なら

 リスタートポイントで同機体に再び乗り再スタートできる。


 現隊長"BRUISER"ブルーザー少佐が率いる敵軍

 ブラックレインの小隊の強さは異常だった。

 エイダもジャンプで回避を続けたが

 ロケットパンチを食らい破壊された。

 翻弄され体制を立て直す前に基地を破壊された。

 5機中3機は繰り返し落としたが

 最後まで"Crustacea EX"を落とす事は出来なかった。

 完敗だった。


 オーディン無き後も

 ブラックレイン隊の勢いは止まらなかった。


挿絵(By みてみん)

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