第1話 UFO
## 2013.6.12
「マルオ、お前ユーフォーのレベルいくつまで行った?」
「まだ19だよ」
「おせーなーソロ狩りやってる?」
"マルオ"とは丸岡晴夫のあだ名だ。
都内の中学校に通っている今年で3年生になった。
公立中学あれば受験戦争まっただ中
なのだが幸い中高一貫校であるため受験の心配はない。
その分、既に高校で習う範囲に授業は進んでいるのだが
身が入らず中だるみしている生徒も多い。
晴夫の成績は学年で中の上といったところだ。
晴夫は何かに付けて普通が似合う男だった。
身長も165cm位だ。
高校生になれば少しは伸びると思うが
高校2年の兄も165センチ位なので余り期待はできなかった。
体型は太っては居ない。
運動部に所属をする訳でもなく筋肉らしいものは無い。
趣味といえばゲームと漫画くらいで他に取り得も無かった。
その日も休み時間になると
教室で友人達とゲームの話題で盛り上がっていた。
晴夫と友達の2人は小学生の時からの仲の良い。
3人はユーフォーの話をしている様だ。
ユーフォーとは"U.F.O"未確認飛行物体ではなく
昨年、夏に発売された人気ゲームソフト
「アルティミット・フォース・オンライン」の略称である。
※発売より1年経った未だに人気なのは不思議な事ではなく
オンラインゲームなのでパッチと呼ばれるアップデートが
掛かる事でゲーム自体が一新されたりシナリオが追加され
新たなプレイヤーを呼込んで再ブレイクする事はよくある。
それをプレイヤーは"ユーフォー"と呼んでいた。
ネットなどでは"UFO"や"U4"と書く事多い。
近未来ロボット兵器対戦オンラインゲームである。
所謂"MO"に分類されるゲームシステムを使用していた。
"MO"とは"マルチプレイヤーオンライン"の略で
複数人参加型オンラインゲームの1つである。
※このジャンルで有名なゲームと言えば「MHF」や「PSO2」
どちらも日本のゲームメーカーが作ったものだ。
特徴はログインすると先ずは共有スペースに降り立つ、
この共有スペースでチャットをしたりミッションの応募をする。
また装備の購入も行えるのだ。
この共有スペースを拠点に様々なミッションに参加する
システムを取るゲームとなっている。
"UFO"ではその共有スペースを"基地"とか"ベース"と呼ぶ。
ベースには名前がついており其々サーバーの名前が付いている。
サーバーの事を"鯖"と書いたり読んだりするが
オンラインゲームでは一般的な事だ。
例えば、晴夫達がログインして遊んでいる基地の名前は
オグン基地と言った。
そしてオグン鯖とかオグ鯖と呼んでいた。
つまりオグンと言う名前のサーバーの事である。
"UFO"ではサーバーが現在12機用意されていた。
1サーバーにつき1キャラが作成可能とっている。
別のサーバーも含め最大2キャラが作成可能であった。
1度作ったキャラは別のサーバーへ移動する事はできない。
ゲーマーの間では「2キャラしか作れないので少な過ぎる」
との声を良く聞く
一般的なプレイヤーには2キャラで丁度良いと思われていた。
キャラを増やしたければアカウントをもう1個購入すれば良い。
「マルオ、PZ4版なんだよな」
「うん」
「PZ4版かー」
"UFO"にはゲーム機用のPZ4版とパソコン用のPC版がある。
どちらのタイプでもルールやログインできるサーバーは同じ。
PZ4版は操作上の制約から一部の"UI"ユーザーインターフェース
に制限がある。
PC版はマウスで操作するため操作性が良いと言われていた。
「じゃ今日さ俺らと狩り行ってマルオのレベル上げ手伝うよ」
「おお、イイネ。賛成」
「うん、助かるよ」
狩りとはファンタジー系"RPG"ロールプレイングゲームで
よく使われる言葉を流用している。
MMOでは一般的にモンスターや猛獣といった雑魚キャラを
倒し続ける事でポイントを稼ぎ一気にレベルを上げる事を言う。
パーティ狩りとはオンラインゲームにおいて、
複数人でパーティを組んで一緒に狩りをする事で
普段より強い"MOB"を倒せる。
またレベルの高い仲間が盾となる事で高ポイントを
効率良く稼ぐ事を言いい、一般的に行われる行為である。
「ただいま」
返事は無い。
晴夫は授業が終わると直ぐに帰宅した。
友達とゲームをする約束をしたからだ。
いつもより割と元気よく挨拶をして家に上がる。
台所へ行って冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出す。
家には誰も居ない訳ではなかった2階には兄が居るはずだ。
晴夫の兄も同じ学校の高等部に通っている筈だった。
しかし昨年から1年以上も引きこもりが続いていた。
当時の兄の成績は優秀で高校1年の春の学力模試では学年で1位。
全国でも800位に入っていたと母から聞いた。
晴夫も1年生の頃の成績は良い方だったが
受験の心配も無く毎日ぼんやりして過ごすだけで
当時の兄の様に勉強に打ち込む気にはなれなかった。
そんな兄も今はたまに廊下ですれ違うだけで会話も無くなった。
兄が中学の時は、まだ小学生の晴夫とよくゲームをして遊んだ。
引き籠りの兄のいる部屋の前を通る。
母が兄の為に夕飯の配膳を置く木製のワゴンが左に置かれている。
廊下の奥が晴夫の部屋だ。
更に奥にトイレがあって行き止まりとなる。
部屋のドアを開けて中に入った。
学習机にコーラと教科書の入ったスポーツバックを置く。
制服を脱いで部屋着のジャージに着替えた。
そしてSOZYの"PZ4"の電源を入れた。
"PZ4"プレイゾーンフォーと言う家庭用ゲーム機であった。
発売より2年程経ってはいる。
元々がハイスペックパソコン並みの性能がある。
そんなゲーム機が4万5千円程度で購入ができると話題だった。
ハイスペック過ぎる為に一部のゲームマニアは挙って購入した。
ゲームソフトの開発が追いつかず既存ゲームの焼き直しばかり
他社のファミリー向けゲーム機に比べると苦戦していた。
晴夫は勉強机の椅子に座る。
コーラのペットボトルのキャップを捻る。
プシュと炭酸の抜ける爽快な音が聞こえる。
床に置かれた"PZ4"は「ブォー」と冷却ファンの音を上げ始める。
やがて音が収まる
22インチの液晶テレビの画面に大きな"PZ4"のロゴが現れる。
続いて"BDD"ブルーレイディスクドライブが回り
「シュルシュル」と音を立てる。
ドライブには"UFO"の"DVDR"が入れっぱなしだった。
やがて回転は止まり静かになった。
代わりに"HDD"ハードディスクが「カリカリ」と音を立てる。
保存データを読み込み始めた。
電源を入れた時の騒音はやや五月蝿いと思う。
画面が黒くなりゲームメーカー"ebisuya/EBS"のロゴが現れる。
続いてゲーム制作会社や運営会社のロゴが表示された。
徐々に暗いメタリックな背景へと変わり
"Ultimate-Force-Online"
のロゴがやっと表示され鈍く怪しい光を放った。
晴夫はコーラをゴクリと音を鳴らして飲み込み込む。
ヨイショと手を伸ばし黒いコントローラーを右手で握り絞める。
決定の○ボタンを親指で押した。
「キン」
と鋭利な刃物で鉄を叩いた様な金属音がする。
画面が切り替わった。
画面には晴夫の作ったキャラが右に大きく映し出される。
左は薄明るい空間だ。
もう1キャラ作成するとそこに表示されるのだ。
晴夫のキャラの上には"LEVEL19 MARUO"と書かれてあった。
その下には"オグン基地"と書かれていた。
つまり"オグン"と言う名のサーバー上に作られてる
キャラクターだという事を表していた。
キャラの下を見る
"Ultimate Weapon:Judge-Tr CS"
と書かれていた。
初期に無料で配給されるトレーニング用の機体名の表示である。
ゲーム内で使用するロボットの名称だ。
"CS"とは強化パーツでカスタマイズされている事を表す。
他にも"SP"スペシャルと言うレアな強化パーツ。
"EX"と言う高額な強化パーツを使って強化する。
それぞれ同じように表示される。
晴夫はこれまでノーマルの強化パーツしか手に入れた事が無い。
もう一度、決定ボタンを押すとゲームの世界にログインできた。
そこはロビーエリアと呼ばれる基地の中だ。
その1階のフロアに降り立っているのは
先ほどの画面で見た晴夫のアバター"MARUO"マルオだ。
金髪の欧米人の若者、美少年だ。
背も高く軍人らしい良い体格をしていた。
実際の晴夫とは似てはいない。
実際の晴夫は背が低く運動はほとんどしない標準的な体格だ。
右手親指でコントローラーのレバーを前に倒す
キャラクターは前進を開始する。
1階フロアを一周する
メッセージカウンターに"!"の印が見える。
マルオ宛にメールが届いている事を示していた。
今度は左手で十字のカーソルキーの右を数回押す。
キャラの動作中は右のレバーでのカーソル移動はできないからだ。
PC版で言えばtabキーを押してカーソルを移動させる様なもの。
カーソルを青い制服を着た受付の女性に合わせる。
女性が少し光りに包まれる。
右の親指で決定ボタンを押すと女性はにっこりと微笑んだ。
「MARUO軍曹、お手紙が届いております」
と告げる。
もう一度、決定ボタンを押す。
メッセージ一覧ウインドウが小さく開く。
今度はレバーで未開封のメッセージに合わせ決定ボタンを押した。
メッセージウインドウがもう一つ上に開くと本文が読める。
パソコンのメールソフトと全く同じ仕組みだ。
送り主は"ELL"エルだった。
狩りの約束をした友達の1人である山野和夫だ。
なぜエルなのか聞いた事があるが
昔読んだ漫画のキャラクターなんだとか答えた。
本当は"ERU"にしたかったが
既に他の誰かに使われていたので仕方なく"ELL"としたそうだ。
メールには「ミッションルームで待ってる」と書かれてあった。
晴夫はメッセージウインドウを全て閉じる。
基地司令の居る最上階への移動を開始した。
最上階である3階へはエレベータを使う。
エレベーターの前に移動し
左手のカーソルキーでエレベータにカーソルを合わせる。
右手の決定ボタンを押す。
小さなウインドウが開いて2階か3階か行き先を聞いてくる。
すかさずレバーを下げ3階を選ぶと決定ボタンを押した。
扉が開き画像が切り替わり一瞬で3階へ到着した。
基地司令はもちろんNPCで大隊長が兼任しており階級は中佐だ。
このゲームに登場する階級で中佐以上は全てNPCになっていた。
つまりプレイヤーの最高位は少佐だ。
基地司令はいかにも戦争映画に出てくる体格の良い黒人男性だ。
美男美女が多いNPCの中で唯一の強面である。
そんな基地司令の前にはいつも長蛇の列が出来ている。
もちろん混雑を緩和する為、
基地指令にわざわざカーソルを合わさなくても
決定ボタンを一度押すだけで
直ぐに"ミッションウインドウ"が表示される様に
簡略化されていた。
"ミッションウインドウ"の右半分がミッション一覧。
縦に複数並んでいる。
そこからお目当てのミッションを1つ選び
"ミッションルーム"を作成する。
作成された"ミッションルーム"は
左半分に一覧表示がされる仕組みだ。
晴夫は既に出来ている"ミッションルーム"の中から
作成者"ELL"を探した。
"ミッション"とは基地指令兼大隊長から
各小隊に命令される任務の事である。
任務は選択した任務が行われる地域
"マップ"で「制限時間以内に敵機を規定数撃破しろ」
だとか「敵軍の隊長機や基地を破壊しろ」
だとか「強化装備や予備弾、燃料を強奪又は搬送しろ」
などと決まったパターンがあった。
1人でミッションを行う場合は1人用ミッションを作成する。
それを"ソロ"ミッションと呼んだ。
2人~3人用を"エレメント"ミッション、
4人~5人用を"フォース"ミッションと呼んでいた。
それぞれのミッション実施中は
敵機NPCを倒すだけでも経験値は得られる。
ミッションをクリアすれば、
更にA~Eの5段階評価でボーナスポイントとして
経験値や賞金、新たな装備や強化パーツなど
をランダムで得る事ができる。
経験値を上げればレベルが上がり
レベルに応じた新たな無料機体の配給が行われる。
晴夫の分身である"MARUO"は現在レベル19だ。
後1つ上がればレベル20となり新たな無料機体が手に入るのだ。
逆に有料機体と言うモノがあった。
それは"アイテム課金"と言われる
電子マネーで購入できるアイテムの1つで
リアルマネーさえあれば難なく強力な機体や武器、パーツを
手に入れる事が可能。
結局はバーチャルの世界も金次第という事だった。
Lv1~Lv10までのミッション
「敵機を殲滅せよ!」
「敵基地を破壊せよ!」
複数人用ミッションをプレイする時は
代表者がミッション一覧の中から参加人数と
代表者のレベルに適したミッションを1つ選択する。
1人でプレイする時もここまでは同じだ。
複数人の場合ここでパスワードを掛けるか
フリーにするかを選択する。
パスワードにすればパスワードを伝えた者のみ参加が可能だ。
パスワード無しの場合はミッションスタート前であれば
誰でも参加が可能である。
ミッションスタート前とは"待機中"であり
"参加者募集中"でもある。
ミッションルームを作り
そこに友人やフリープレイヤーを招き入れ
2人~3人、又は4人~5人での同時プレイが可能となる。
ミッションの作成者が作ったミッションレベルと
参加者メンバーのレベル差が高すぎた場合は
経験値は下方(1番低い人と同じ)レベルへと補正される。
効率の良いNPC狩りをする事はオンラインならではの楽しみである。
機体が破壊されても何度でも15秒後にリスタートできる。
制限時間以内であれば何度全滅しようとも作戦は続行される。
晴夫はレバーを左に1回倒しミッション一覧にカーソルを動かす。
次に下方へ数回倒す。
"ELL"が作ったミッションルームを見つけて
それにカーソルを合わせた。
"敵機を殲滅せよ!"だ。
出てくる敵を規定数倒すだけと言う基本的な任務の一つだ。
既に参加者が2/3になっていた。
慌てて右手の決定ボタンを押した。
「キン」と金属を叩く音が聞こえる。
作戦を説明するウインドウが開く。
"地形"マップが表示される。
敵と味方の位置情報やリスタートポイントが表示される。
マップは"都市"となっていた。
いわゆる市街地戦だ。
隠れる所も多く初心者でも攻撃を受け難い
比較的簡単なマップだ。
Lv1~Lv10までのマップ
「荒野エリアA」
「森林エリアA」
「都市エリアA」
パーティメンバーの1番は"ELL"中尉、
2番目の"KIRIRIN165"少尉は
もう一人の友達である太田圭之だと思われた。
"KIRIRIN"は好きなアニメキャラらしいのだが、
彼もそのネームが取れなくて仕方なく
後ろに165という意味不明の数字を入れている。
オンラインゲームの名前では良くある事だ。
しかしゲーム内で同じ名前キャラに出会った時
何と呼び合うのだろうと心配になる。
3番目に"MARUO"が加入した。
直ぐにカウントダウンが始まった。
後10秒を切っている。
このドキドキ感がたまらない。
オペレーターのかわいい声優の声が聞こえた。
「間もなく作戦を開始します・・・ご武運を!」
画面に大きくカウントダウンが表示された。
"03・02・01・00"
ミッションは開始された。
3人で示し合わせてのミッションは初めてだった。
エルとキリリンの2人はPC版である。
パソコンのキーボードからチャットを打ち始めた。
画面の左下側に小さなチャットウインドウがある。
PC版ならヴォイスチャットも可能であるがマルオに合わせている。
・・チャットウインドウ・・
ELL :よろしく
KIRIRIN165 :よろ
挨拶のコメントが下から上に流れる。
オンラインゲームでのパーティプレイを始める時の
最初の挨拶は「よろしく」と決まっている。
略して「よろ」でも良い。
晴夫はPZ4版なのでキーボードは無い。
別途、オプションを買えば良いのだが今のところ予定にない。
左手のカーソルボタンを動かしチャットに合わせて決定を押す。
定型文一覧が表示されたので右手レバーを下にさげる。
「よろしくお願いします」があったのでもう一度決定を押した。
・・チャットウインドウ・・
MARUO :よろしくお願いします
ELL :マルオは俺らのチャット読んで行動してよ
KIRIRIN165 :だね
晴夫はコントローラーなのでチャットをしてないで
読み専門になって彼らのチャットの指示を読んで行動しろ
という事だろうと理解した。
・・チャットウインドウ・・
ELL :まー敵が来たら俺らが撃つから適当に遊んでてよ
KIRIRIN165 :だね
キリリンは面倒なのか「だね」を繰り返し使う。
彼ら2人が2TOPで敵を迎え撃つ事になるので、
マルオは機体を彼らより数歩後方に配置した。
巨大な高層ビルが立ち並ぶ市街地戦だ。
だがここは仮想世界で人は住んでいない。
いくら破壊してもペナルティは無い。
ビルは防御壁と考えれば良い。
晴夫は左手のレバーを後方つまり自分方向に倒す。
機体は「ガシャガシャ」と足音をたて後ろ歩きで下がりだした。
右手のレバーを前方に倒すとモニターの視界が上方向へ動き
ビルの谷間から曇り空が見える。
左レバーが機体の操作、右レバーが視界モニターの操作だ。
後方が見たい時は右レバー操作で反転する必要があった。
エルはレベル26
キリリンはレベル23
マルオはレベル19
レベル差は明らかだ。
エルの機体は上位の無料機体を課金アイテムで強化した
"VoyagerII EX"で機体色も緑に塗装を変えてある。
キリリンも同じ"VoyagerII CS"で機体色は黒に塗装してあった。
"VoyagerII"は一番使用者が多い標準機体だ。
みんなこの機体をカスタマイズしてオリジナリティを加えるのだ。
僅かにスリムな体型で推進力もアップされ取り回しが良い。
装備も盾からマシンガン、バズーカなど非常に多い。
高レアなジャンプユニットや飛行ユニットまで装備可能だ。
初期の機体色は灰色をしている。
マルオの"Judge-Tr"は"VoyagerII"と比べると若干太って見えた。
実際に動作は遅く鈍い。
せめて上位機体の"Judge"かJudgeII"をリアルマネーで買えば
もう少し上手く動けるのかと晴夫は思うが
まだ中学生なので我慢していた。
2人は右手に大型の盾を持たせ左手に標準のマシンガンを装備。
2人が左右に分かれると"連携"して次々に現れる敵機を
マジンガンで破壊していった。
連携とは1人で破壊できない少し強い敵を
複数人でターゲットを合わせ破壊して行く事だ。
ターゲットを合わせる"連携"は基本中の基本である。
マルオは中距離キャノンを装備するも仕事は無い。
「遊んでて」
とはそう言う意味だった。
太い脚部を支える為に足首も太い。
足先も2個の爪の様な物で立っている。
爪を「ガシャガシャ」鳴らしながら2人の後方から
中距離キャノン砲を撃って加勢した。
後2分、モニター上部のタイマーが残り時間を知らせる。
15分のミッションも終わりに近付く。
敵機をほぼ撃破し最後の中ボスと呼ばれる
敵隊長機を9割ほど削っていた。
マルオも再び加勢しキャノンを撃ち込んだ。
時間的に余裕だろう。
・・チャットウインドウ・・
ELL :もうちょい
KIRIRIN165 :バズーカ使うわ
ELL :よろ
そんなチャットが流れる。
キリリンのバズーカが効して大きな爆音と共に敵隊長機は爆発。
"ミッションクリア"オペレーションの可愛い声が聞こえる。
「任務が完了しました。帰還せよ!」
すると"スコア"と呼んでいるミッションの結果を表す
プレイヤー一覧スコアが表示される。
・・スコアウインドウ・・
1位 ELL/撃破数21機/ロスト数0/評価S/ボーナス15000pv
2位 KIRIRIN165/撃破数16機/ロスト数0/評価A/ボーナス10000pv
3位 MARUO/撃破数3機/ロスト数0/評価B/ボーナス8000pv
パーティプレイ中に撃破した時に発生する経験値は
均等に各プレイヤーに分配される
ミッションをクリアすると撃破数やロスト数によって評価され
それにより経験値の上乗せが行われるのだ。
それをクリアボーナスという。
次に拡張パーツや装備、武器などのアイテムが支給される。
それらはチャットウインドウに記述されている。
アイテムウインドウを開けば所持しているアイテムが全て見れる。
基地に戻ったら整備兵のNPCに話しかければ、
自身の機体の拡張に使う事ができるのだ。
晴夫達は同じ要領で2回目3回目と同じミッションを申し込んで
クリアを繰り返した。
3回目をクリア時に晴夫の目の前に
"Congratulation!"の文字が大きく表示された。
チャットウィンドウには"MARUOはLEVEL20"になりました。
と書かれていた。
ミッションが終わり画面が切り替わる。
基地のフロアルームに戻され元の人型のアバターに戻っている。
基地指令の部屋では無く自動的に格納庫の前だ。
ミッションが終わった人はここに転送される。
ここに居るキャラはみんな棒立ち状態である。
おそらく上がったレベルや手に入れたアイテムを眺めているので
今は動こうとはしないのだろう。
何分間も棒立ちになる人も多い。
そのままログアウトする人もいるだろう。
ひと通り眺めアイテムの整理が終わったら
また指令室へと駆け込んで次のミッションを登録するだろう。
晴夫も手に入れたアイテムを眺めていた。
すると黒髪の東洋人風の男性キャラと
黄色いストレートヘアをした女の子のキャラが近付いてきた。
頭上のネームタグを見ると"ELL"と"KIRIRIN165"だった。
これまでに学校でなんども"UFO"の話はしていたが
ゲーム内で会ったのは初めてだ。
なんだか照れくさい。
特に太田圭之の女の子キャラだったので気まずい空気になる。
キャラの着る軍隊の制服が体のラインを強調していて胸も大きい。
中の人が男性と解ってはいても脳が女の子と判断し照れてしまう。
太田の大きな胸から視線をそらしチャットウインドウを見た。
・・チャットウインドウ・・
VoyagerIIが格納庫に配備されました。
ミッションルームを退出しました。
ELL :おめでとう
KIRIRIN165 :おめ
ELL :Lv20やったね!
KIRIRIN165 :voyきた?
晴夫は少し考えた。
"voy"とは"VoyagerII"の事だろうか。
晴夫は定型文を使い。
「ありがとう」と告げた。
ふと時計を見るともう18時を過ぎていた。
そろそろ母親が帰ってくる頃だ。
「そろそろ落ちます」を選んで発言した。
・・チャットウインドウ・・
MARUO :ありがとう
ELL :気にすんな
KIRIRIN165 :おぉ、もっかい行くか?
MARUO :そろそろ落ちます
ELL :そっか、了解
KIRIRIN165 :またな
楽しい時間はあっとゆう間に過ぎた。
左手のカーソルキーをおしてログアウトのボタンに合わせる。
右手で決定ボタンを押した。
「ログアウトしますか?」
と聞いてきたのでカーソルキーでOKに合わせボタンを押した。
画面は暗くなり「LEVEL20 MARUO」と表示された
人影の画面の右側に表示されていた。
今度はゲーム終了のボタンを選んで決定する
ゲームが終了しログイン画面へと戻った。
晴夫はPZ4の電源を切った。
PZ4版のUFOのログイン手順
■ゲームアイコボタンを選択し押下
■ログイン画面:
ヴァージョンチェック、ログインID入力省略可⇒ログイン
■サーバー選択画面と
メタリックのロゴとデモ動画が繰り返し表示
■キャラ画面 :最大2キャラが作成できる
ログイン後、30分動きが無いと自動でログアウトされる
しばらくすると母親が帰ってきたので夕飯の支度を手伝った。
母は人材派遣で事務員の仕事をしていた。
結婚前は大手OA機器メーカーで営業の補佐的の仕事をしていた。
エクセルやパワーポイントのスキルは派遣でも活かせると言う。
パートやアルバイトよりも時給が随分と良い。
父親の帰りは遅い、夕飯を作り晴夫と2人で食べた。
4人分の食事を用意すると2人分にはラップを蒔く
その1人分を四角いトレーに載せた。
「これ、秋雄に持っててくれる」
「うん」
兄の夕飯を2階のワゴンに置いてきてと言う事だ。
兄はそれを夜中に食べている様だ。
実際に食べているところは見た事は無いが
朝には空の食器を母親が片付けているのをいつも見ていた。
「最近またごはん食べないのよあの子・・・」
「またぁ?」
兄は夕飯を食べない日が続く事があった。
一晩だけ食べ無いのはざらにある。
酷い時は3日4日間食べないのだ。
両親が仕事に出かけて晴夫も学校に出かけて
誰もいなくなれば部屋から出てきて台所にある食べ物を食べる。
母親はパンやカップメンなど直ぐに食べれる物を常備させていた。
兄の引き籠りは既に1年が経とうとしていた。
始まりこそ騒ぎたてたが学校のカウンセラーに相談してからは
無理に部屋から出る事を強制せず放置しておく方が良い。
自ら出てくる日を待つ方が良いと言うのだ。
引篭もりは学校の問題よりも家庭に問題がある事が多いと言う
母親はその原因に心辺りがあった。
スクールカウンセラーに指摘されてからは気を付けていた。