第9話 秋雄
## 2012.4
<回想>
秋雄は高校へ入学した。
中高一貫校なので受験は無い。
最寄り駅からは徒歩だ。
これまで通っていた中等部の正門前はくぐらず
やや右手に進んだ奥に高等部の正門があった。
秋雄は勉強が好きで中学まで非常に成績が良かった。
勉強は苦痛では無く単純な作業の繰り返しだと思えた。
逆に運動は苦手な方で余り活発な性格では無かった。
中学時代から口数は少なく友達もほとんどいなかった。
部活に所属する訳でもなく放課後はただ帰宅する。
母親が進めた進学塾に週3回通っていた。
秋雄はある日父親に賭を申し出た。
模試の結果が総合評価がAなら買って欲しい物がある。
最新型のゲーミングパソコンを買って欲しいと頼んだ。
父親もそれ位の成績を取る程がんばるなら
パソコンなど安い物だと承知した。
ゲーミングパソコンとは他の一般的なパソコンと比べて
特別な何か凄い装置が付いている訳では無い。
最低限の機能で無駄なソフトは入れずゲームプレイ
に特化した装置構成になっている。
クーラーと呼ばれるCPUが発する熱を逃がし冷やす大型の
ファンや画像処理専門のグラフィックボード(グラボ)を搭載。
グラボのグレードを抑えれば価格は安く済む。
## 2012.6
秋雄の全国模試の結果はもちろん良かった。
全国で800位以内に入る程だった。
志望校の合格判定はA。
校内での順位は1位だった。
秋雄はお目当てのゲーミングパソコンを手に入れた。
期末の3者面談で担任から成績の事を聞かされる。
母親は喜び進路相談にもより熱が入った。
その時の秋雄は既に上の空だ。
そんな事よりも早く帰宅しパソコンをセッティングしたい。
先週末に注文した商品が今日届く予定になっていた。
昼過ぎに帰宅、しばらくするとパソコンは届いた。
まずモニターを箱から出し勉強机の上にを置いた。
本体はミドルタワータイプなので机の上には置けなかった。
既に注文通り組み立てが完了しているショップモデルだ。
初心者が行きなり自作を初めるよりはパーツ単位で好みの
カスタム化ができるショップで組み立てして貰った商品を
購入する方がリスクが低いからだ。
コンセントに電源ゲーブルを差込んで電源ボタンを押した。
ブォーっとファンが回る音が聞こえた。
OSが立ち上がる頃には騒音も落ち着き静かな回転音になる。
画面には見慣れたウィンドウズのロゴとスタートのボタン。
秋雄は何よりも先にインターネットブラウザを開いて
オンラインゲームのホームページにアクセスした。
サービス開始から約1年が経過してはいるものの
今でもそこそこ人気のあるMMORPGの一つ。
国内のゲームメーカー"Dream Campus"が製作から運営を行う
ファンタジー系MMORPG「Mythology IV ~神々の戦い~」だ。
同シリーズは前作まで家庭用ゲーム機でオフラインのゲーム
として発売されそこそこの人気があった。
もちろん秋雄もプレイした事があった。
通称"ミソガミ"と省略して呼ばれており以降は
"ミソ2"、"ミソ3"と呼ばれ連続してそこそこ人気がある。
その続編で第4弾にあたる"ミソ4"はオンライン版となった。
世界感はそのままに複数同時接続によるパーティープレイ機能
を追加し「新たなる神々の伝説が幕を開ける」と謳われていた。
秋雄は迷わずダウンロードボタンをクリックした。
ゲーミングパソコンの購入前からこのゲームをプレイする事は
決めており下調べも済ませていた。
画面にはメールアドレスの登録を促すメッセージが表示された
自身のメールアドレスを入力し会員登録手続きに進んだ。
両親共にパソコン関係の仕事をしている為ネット環境はよい。
基本プレイ無料なのは確認済みだ。
その代わりアイテム課金と言う事は言うまでも無い。
新ためてアプリケーションのダウンロードが開始された。
1時間程でダウンロードは完了した。
今度はゲームクライアントのアップデートが始まり
中々ゲームのプレイには至らなかった。
秋雄はパソコンはそのままで夕食を取る為に1階へ向かう。
既に食事を済ませた父親と弟の晴夫が居間でテレビを観ていた。
母親は秋雄が来た事に気が付きご飯をよそう。
秋雄の父親は町工場の工場長をしていた。
工場長と言っても従業員は10名に満たない
そのほとんどが高齢者と外国人だった。
以前は秋雄の父親が設計した部品を製造していた。
社長とは古い付き合いで二人三脚で何とかやってきた。
今は大手メーカーの依頼で電力系の部品を作っていた。
***
工業高校を卒業して初めて勤めた会社だった。
社長の親父親に当たる先代社長に任されて製図を書いた。
秋雄が生まれる少し前にバブル景気は過ぎてはいたものの
家庭向けパソコンは普及期で父親の工場の経営状態は良かった。
その頃、私立大学を卒業し出版社に勤めていた母親が
父親が勤める工場に取材に何度か訪れた。
何も知らない駆け出し編集者の母親が父親に声を掛けた。
「今度、私もパソコン買おうと思うのですが」
「そうですか」
「どこのメーカーが良いですか?」
まだ自宅でパソコンを弄る理工系趣味の人はいても
会社で1人1台配られるほど普及していない時代だ。
母親も会社ではワープロを使用していた。
「NOCが良いですよ」
「やっぱりそうなんですね」
「うちの工場でもNOCの部品を製造しています」
この時代パソコンメーカーは数社しかなく1強だった。
そこからインターネットに繋ぐ為の説明が必要になり
何度か情報交換を続ける事になった。
それが縁で恋愛に至り結婚した。
結婚を期に出版社は退職したが概ね子育てを終えた
今は再び派遣として別の出版社で働いていた。
母親が再び働き出した理由は父親の収入に関係していた。
近年パソコンの低価格化に伴い格安の海外製品が市場を締める。
高額な国産部品を搭載する市販品は少なかった。
***
工場の従業員を解雇したところで社長と2人で続けられない。
後が無い工場が倒産したら職を失う。
父親もやがて50歳になる手に職が有るとは言え再就職は難しい。
「秋雄、お前は心配するなちゃんと希望の大学へ通わせてやる」
と強がって見せた。
もちろん晴夫にも同じ事を言っているだろう。
そんな優しいだけが取り柄の父親。
秋雄は一生懸命な父親が大好きだった。
秋雄が食事を終え自分の部屋に戻る。
クライアントのアップデートは完了していた。
ゲームランチャーと呼ばれるスタート画面。
既にボタンが押せる状態を示す緑色へと変化していた。
早速、ゲームをスタートさせた。
先ずはお決まりのサーバー選択からだ。
混雑や通常の文字が並んでいた。
混雑とはログインしているユーザーが多い状態を示す。
通常のサーバーを選べば空いていて快適だが
ここはオンラインゲームそれが良い事とは言い切れない。
オンラインゲームは複数人数で攻略するコンテンツがある。
空いてるが故に人が集まらない事態も想定できた。
秋雄はちょっと考え一番に表示された混雑サーバーを選択。
サーバーは迷わず1番上を選ぶのが鉄則だ。
キャラクター作成へと進む。
予め決められたアバターの中からヒューマンの男性を選ぶ。
"ミソガミ"や"ミソ2"までは北欧神話を元にしていた。
"ミソ3"からはギリシャ神話も加えた神々の戦争が勃発。
それに巻き込まれた人類の壮大な物語だった。
プレイヤーは人間を操って神々に戦いを挑んだ。
"ミソ4"は更に日本神話とインド神話の神々が新たに加わる。
プレイヤーは人族に加えて魔族や獣族も選択が可能になった。
秋雄の選んだ"人族"は、ずば抜けて攻撃力が高い訳では無いが
早期に防御力も魔力もそこそこ上がる標準的なスキル設定だ。
魔力に特化したければ"魔族"、攻撃力に特化したければ"獣族"
を選べと説明書きに書かれていた。
次は職業を決めるのがファンタジー系のMMORPGのお決まりだ。
秋雄はここは迷う事無く「剣士」を選択した。
将来的にはジョブチェンジして「騎士」か「戦士」へ成長する。
初期装備はもちろん短剣だった。
数々のオフラインRPGをプレイした経験から
序盤から攻撃力も防御力も高い剣士を選ぶのは無難な選択だ。
キャラクターネームはいくつかの候補を試した。
その中で唯一空いていた片仮名で"エイル"にした。
秋雄は遂に念願のオンラインゲームの世界へログインした。
ファンタジー系RPGはなぜか小さな街からスタートする。
"MOB"を狩ってレベルを上げる事から始めるのがセオリー。
"MOB"は色々な意味で使われるがこの場合は、
"Moving OBject"だろう、つまりモンスターなどの敵NPCだ。
秋雄がこれまでにプレイした数々のRPGも全てそうだ。
ファンタジー協定が結ばれているのだろう。
秋雄に取って今までと勝手が違うと言えば、
慣れないキーボードとマウスの操作でプレイする事だ。
USBのパソコン用ゲームパットと併用できるかも知れないが
チャットなど操作にはこの方が有効なので慣れるしか無い。
目の前に現れる小動物系モンスターを狩り経験値を上げる。
街にいるNPCに話かけクエストを受けた。
クエストもお決まりの「MOBを何匹狩って来てくれ」か
「これを何処そこの誰に渡してくれ」と言うお使いクエだ。
軽快にクエストをクリアしレベルを上げた。
次の街もその次の街も有人プレイヤーに出会わなかった。
オープンから1年以上が過ぎたオンラインゲームだけに
仕方がなかった。
しばらくして大き目の街へと辿り着いた。
クエストに従いNPCの村長に手紙を渡す。
軽快な音楽と共にレベルアップを知らせるメッセージが現れた。
この街には序盤では上位の武器屋や道具屋が有った。
これまでの狩りでドロップしたアイテムを売却し金に換える。
その金を元手にこの街での上位の装備を買い求めた。
しばらく街の商店街らしき通りを彷徨っているとやっと
他の有人プレイヤーに出会う事ができた。
有人"PC"と"NPC"の違いは頭上のネームタグが違う。
秋雄はチャットで話しかけるべきか迷いドキドキした。
結局は話しかける勇気が無かった。
その内にそのプレイヤーは駆け足で掛けて行ってしまった。
おそらくクエストの途中なんだろう
「邪魔しては悪いな」と思う事にした。
秋雄は話しかける勇気は無いものの、
話掛けられる事も無かった事に少し寂しく思った。
街を回り道具屋で回復薬を買い込んだ。
また追加でクエストを幾つか受けるとその中に
「首都へ向かい鍛冶屋のゲン会いこの手紙を渡せ」
と言ういわゆるメインクエストを受ける事ができた。
これで首都への入場が許される筈だ。
首都で鍛冶屋のクエストを受けてそれをクリアすれば、
やっとまともな剣を手に入れる事が出来るのだ。
既に夜の0時を回っていたが
もう学校はテスト明けの休みに入っていた。
このまま剣を手に入れ首都の見習い兵へ志願するまで
メインクエストを進めたいと思った。
"Wiki"有志で作られているインターネット上の攻略ページを
画面の裏に開いて読みながら効率良くお使いクエストを
クリアしつつ首都へとキャラクターを走らせた。
"ミソ4"はオープンから既に1年が経っていた
他のMMORPG同様にイージーモードへと移行していた。
新規参入者が古参者に簡単に追い付ける様にの配慮だ。
レベルは直ぐに追い付くもののやり込みが必要な物は別だ。
高レベル装備集めやその強化まで同等にするのは不可だ。
Wikiによると廃人で1月、通常で半年ほどかかる。
レベルカンストも今では2週間程度。
上級者のアシストが有れば1週間で可能。
それくらい手軽になったと書かれていた。
秋雄は3時間後の深夜3時過ぎにやっと首都に辿り着いた。
首都を走り回りクエストで得られる武器の素材を取得する。
他にも必要な素材の在り処となる鉱山の場所を聞き出した。
鉱山へ向かう途中で、遂に秋雄は力尽きた。
マウスを握り締めなが寝落ちしてしまった様だ。
20分程でキャラクターも自然にログアウトしていた。
オンラインゲームは常時保存されるので問題ない。
次回ログインした時はその場所からのスタートできる。
秋雄はしばらくして肌寒く感じ目を覚ました。
ログアウトされているの気が付くと
パソコンの電源を切ってベットに潜り込んだ。
翌日は昼過ぎに起き秋雄はゲームを続けた。
学校は休みだが平日なので両親は仕事だ。
弟の晴夫は学校だろうか物音一つしなかった。
昨日の続きの場所から鉱山に向かった。
ここには1人用"ID"インスタントダンジョンがあった。
"インスタント"とは簡単な迷宮の事であった。
1人で難なくクリアし目的の鉱物を手に入れた。
街に戻って鍛冶屋に渡しクエスト完了。
報酬として武器を選べる。
秋雄は剣士なので片手剣アイアンソード戒を選択した。
通常の"アイアンソード"と比べてもステイタスが高い。
苦労した甲斐があった。
武器を装備しレベルも20を超えていた。
お使いクエストをクリアしつつメインクエストを進める。
そいて次の山場となるインスタントダンジョンへ向かった。
途中にいるMOBはアイアンソード戒で軽く倒して行った。
入場口とされる石碑を発見しマウスポインター合せる。
ここもインスタントダンジョンである筈だが
エラーメッセージが表示された。
「2人~5人パーティで入場して下さい」と書かれてあった。
確かにチャットを見ると流れている事がある。
「ダンジョン参加メンバーの募集」の文。
このダンジョンは仲間がいないと参加できない。
メンバーを募集しなければならないのだ。
秋雄はしばらくチャットを眺めていたが、
レベル20~のダンジョンの募集は一つも無かった。
これからどうすれば良いのかと、
ダンジョンの入り口にしばらく佇んでいた。
その時、チャットに白い文字が流れた。
・・チャットウインドウ・・
ベル:どうかしたの?
秋雄はしばらく考えた。
「これって僕に掛けられた言葉なのだろうか」辺りを見渡す。
2人のキャラクターが秋雄の前に立っていた。
いつの間に現れたのだろうか。
「転移魔法を使ったのかもしれないな」と思った。
ここには3人しか居ない以上、
秋雄に掛けられた言葉に違いが無かった。
秋雄は慌ててそして初めて返事を打ち込んだ。
・・チャットウインドウ・・
エイル:募集待ちなんです
モナカ:あ、
ベル:ここの募集はほぼ無いよ
モナカ:新規くん?
ベル:セカンドならギルドで入るしな
エイル:はい、そうですか
ベル:入る?
エイル:え、
ベル:甘味は無いけどクエはクリアできるしょ
エイル:はい、お願いします
2人の内レベル20の人族の剣士が名前は"ベル"で
魔族で魔法使いの方が"モナカ"だ。
2人は同じレベル20の筈だが圧倒的に強かった。
秋雄はレベル21だが敵からガッツりとダメージを食らう。
レベルが低い筈の彼らはちょっぴりしか減らない。
しかも継続回復魔法が掛けられているのか直ぐに元に戻った。
・・チャットウインドウ・・
エイル:お2人は強いですね
ベル:自作装備なんで
エイル:そんなに違いますか?
ベル:このレベルだと最強かと
ベル:俺らでMOB倒してくからアイテム拾って
そう言われてドロップしたアイテムを拾う。
倒したモンスターの屍骸をクリックしながら進んだ。
そうしている内にボスのいる部屋へと辿り着いた。
ボスは"ファーブニル"と言う名のドラゴンだった。
すぐ直後に戦闘は開始された。
「え、もう」
秋雄は心の準備が出来ていなかった。
次の瞬間、見慣れたウインドウが開いた。
「YOU DIED」
秋雄のキャラが死んだ事を示す表示だ。
瞬殺だった。
・・チャットウインドウ・・
エイル:ごめんなさい
返事は無い。
仕方が無いまだレベルが足らなかったんだな。
街に戻るかと思った瞬間。
ほのかに光が差し蘇生魔法が掛けられた。
小さなウインドウが出たのですかさず"YES"を押した。
エイルが立ち上がると同時にドラゴンの断末魔が聞こえた。
またレベルアップを知らせるファンファーレが流れた。
・・チャットウインドウ・・
ベル:おつ
モナカ:おつかれー
エイル:おつかれさまです
エイル:ありがとうございました
ベル:首都へ報告に行くけど一緒にどう?
モナカの転移魔法で3人は一瞬で首都に帰り報告を済ませた。
秋雄は報酬で貰った装備を確認した。
要らないドロップアイテムをお店で売る。
・・チャットウインドウ・・
ベル:エイルさん、まだ時間ある?
ベル:狩り行くけど一緒にどう?
エイル:お邪魔じゃないですか?
ベル:ぜんぜん
ベル:他にも友達来るけどよい?
エイル:はい
ベル:よしじゃぁ呼ぶからちょい待ってね
ベル:あ、その装備じゃまずいな
ベル:装備渡すよ
そう言うとトレードウインドウが開いた。
自作と思われる装備一式が渡された。
レベルは20用ではあるがステータスがとんでもなく高い。
いつの間にか横にレベル50の防具屋が立っていた。
彼が製作者なんだろうと考えた。
そして秋雄は慌ててチャットを打ち込んだ。
・・チャットウインドウ・・
エイル:いくらですか?
ベル:ただで良いよ
装備をくれたキャラクターはベルのサブキャラらしい。
"ベルリン"と言う名のレベル50の防具屋だ。
秋雄はベルが2キャラ同時に接続できると言う事を知った。
パソコンは2台持ちなんだろうかと思った。
・・チャットウインドウ・・
ベル:エイルさん何日目?
エイル:2日目です
ベル:早いねー社会人?
エイル:学生です
ベル:もしかして夏休み?
エイル:はいもうすぐ夏休みです
その日出会ったベルとモナカとそして秋雄のキャラ
"エイル"の3人は狩りを続けた。
次の日も待ち合わせしてクエストを進めたり
レベリングに行ったりした。
ベルのメインキャラは"ベルク"と言う名の魔族で
レベル50の「騎士」だった。
モナカのメインキャラはアズキで「聖者」だった。
魔法使いはこのゲームではジョブチェンジで「呪術者」か
または「聖者」のどちらかになれる。
攻撃魔法を専門とする「呪術者」と
治癒魔法を専門とする「聖者」。
もちろん少なからず双方で共通の魔法も存在した。
秋雄のエイルは直ぐにレベル30となり「剣士」から
「戦士」へとジョブチェンジできた。
ベルも同じく「戦士」となり2トップのダブルアタッカーで
攻撃力は倍増のパーティへと成長していた。
・・チャットウインドウ・・
ベル:エイルさんそろそろうちのギルドに入りませんか?
ベル:アズキさんも喜ぶし
モナカ:どうして私が
ベル:若い子好きじゃん
エイル:はい、お願いします
モナカ:若過ぎるし
ベル:ダンナが怒る?
モナカ:バレる訳ないし
ベル:ww
エイル:w
モナカ=アズキは主婦だった。
ベル=ベルクと夫婦ではない様だ。
彼らはこのゲームで知合った仲間でギルドのメンバーだった。
夏休みに入った頃
秋雄のキャラクター"エイル"もレベル50にカンストしていた。
メインクエストの最後の敵は神話の荒ぶる神"オーディン"討伐。
他の神々が何しているかはさて置き
"オーディン"はラスボスに相応しい名前の神だ。
確かこのゲームはシリーズ通してラスボスはオーディンだ。
討伐パーティの5人は集められる限り最強の装備を揃えた。
もちろん過去のシリーズと違いこれはオンラインゲーム。
ラスボスを倒してゲームクリアで終わりではない。
1つのメインクエストが終わるだけだ。
やがて次の敵が現れるだろう。
次のアップデート情報で発表されるだろう。
そう言う物だ。
秋雄以外は何度も"オーディン"討伐の経験があった。
それでもちょとした判断ミスで全滅し近隣の街へ帰る事がある。
エイルは背中に大剣クレイモアを装備した。
プレーヤー製造の武器の中ではまずまずのレベルだ。
最強の武器は運が良ければオーディンからドロップするはずだ。
"グラム"の名を冠する各種武器が出る確率は相当低いらしい。
皆の参加目的はこの最後の最強武器の様だった。
30回討伐して手に入らない者もいれば1回で手に入る者もいた。
もちろん課金アイテムには同等レベルの装備があり"ガチャ"と
呼ばれるくじ引きを購入し当たれば手に入れる事ができた。
ここでも現実世界のお金が重要なのであった。
最強武器を手に入れたとしても
最強の鎧はまだこれからだし
更にそこへ最強の強化を施すまで終わらないのだ。
1年以上プレイしている者でも無理だ終わってないらしい。
いつかそこに到達しこの世界に名を残すのがプレイヤーの夢だ。
リアル世界では何の価値も無いゲーム内だけの栄光。
しかしこの世界では知らない者はいない程、
誰もが敬い憧れるプレイヤーになれるのだ。
その日のオーディン討伐は叶った。
当然ながらお目当ての武器のドロップは無かった。
代わりに高額で売却できそうな呪術者用装備がドロップした。
メンバーは取得を遠慮してエイルにそれを譲る。
換金でもすれば良いだろう言われそれを受け取った。
そこで画面が切り替わり5人はある場所に転送された。
いったんここでストーリーはエンディングを迎える。
もちろんそれで終わりではなく次なる展開がある筈だ。
秋雄がゲーム内で盛り上がっている頃、
1階の居間から夫婦喧嘩の声が聞こえた。
普段大人しい父親も声を荒げていた。
父親の会社も不景気で収入が減っていた。
最近の喧嘩の内容は家のローン返済の事が多い。
秋雄を良い大学に入れてやりたいと思う余り
父親の収入の事で喧嘩は起こっていた。
父親を責めた所で転職する訳にはいかない。
その上、秋雄の受験勉強とは関係のない
ゲーミングパソコンを買い与えた事を怒っていた。




