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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第十一章 受け継ぐ者と、声を聞く者
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撤収

 ブラックドラゴンを倒した翌日、七人は、丸一日を休息に充てた。ただ、フェリシアとリリアだけは、もう一度ダンジョンに行って隠し通路の様子を確認してきている。

 亀裂の宝石は復活していなかった。リリアのペンダントも反応はなく、隠し通路も閉じたまま。

 報告を聞いたマークは、二人をねぎらった後、隠し通路については他言無用と全員に念を押した。


 一日ゆっくりと休んだ一行は、翌朝から帰り支度を始める。

 寝泊まりのために作った小屋は、そのままにしておくことにした。だが、みんなが毎日使っていたあの小屋だけは、慎重に解体されて、丁寧にフェリシアのマジックポーチに収められた。

 ポーチの中は時間が止まる訳ではない。金属が錆びないように、木材が痛まないように、魔法を駆使してすべての部材を乾燥させ、細心の注意を払って保管されている。


「事務所に戻ったら、まず最初にこれを組み立てます。みなさん、その際にはご協力をお願いします」

「もちろんだ」

「任せて」

「やる」


 ミアの言葉に、女性たちは大きく頷く。

 呆れるマークの目の前で、六人は完全なる団結力を示していた。


 撤収を終えたのは、お昼を過ぎた頃。中途半端なその時刻にみんなは出発した。高原から村へと続く緩やかな下り坂を、一行はのんびりと歩き出す。

 リリアが、布でくるんで背負っている大剣を気にしながら、隣のシンシアに話し掛けた。


「ミアさんはご褒美って言ってくれたけど、今回一番頑張ったのは、シンシアだよね。シンシアが使える武器とかアイテムがあればよかったのに」


 ちょっと申し訳なさそうな顔で、シンシアをチラリと見る。

 そのリリアをやっぱりチラリと見て、シンシアが言った。


「私、ちゃんともらったから、いい」

「えっ?」


 びっくりしたリリアが、今度はまともにシンシアを見た。


「何をもらったの?」


 聞かれたシンシアは、小さく微笑みながら言った。


「内緒」

「えー、教えてよ」

「いや」


 シンシアは、微笑むだけで答えない。


「シンシアァ」


 肩を揺すったり手を握ったりと、リリアがシンシアに食い下がる。その度に、背中の大剣が揺れていた。

 それを後ろから眺めながら、ミナセとヒューリが話している。


「手で持たなくても、あいつにはリリアが分かるってことだよな?」

「正確には、ペンダントをしたリリアのことが分かる、だな」

「不思議だ」


 フェリシアの話だと、アイテムが持ち主を選ぶということは、稀にあるらしい。ただあの剣のように、特定の人物とペンダントの組み合わせが必要なものは聞いたことがないという。


「それにしても、あれ、剣の形をしてる意味ないだろ。メイスでいいんじゃないのか?」

「いや、意味はあるだろう。あの重量が、より小さな面積に集中するんだ。間違いなく威力は上がるさ」

「うーん、確かに」


 二人の前で、大剣が跳ねる。リリアに合わせて、とんでもなく重いはずのその剣が跳ね回っていた。

 

「あの剣、頑丈そうだよな」

「そうだろうな。あの剣がリリアの剣速で振り抜かれたらと思うと、私はぞっとするよ」

「そりゃあ、ぞっとするな」


 ヒューリが体を奮わせた。

 剣の速さで言えば、ヒューリやシンシアのほうが上だ。だが、リリアの剣は、鋭かった。

 最短の軌道で敵に迫り、敵を斬る。死角から敵に迫り、受けることも避けることもさせずに斬る。

 先読みを駆使したリリアの剣は、ミナセかヒューリでもなければ対処ができない。それほど、その剣は鋭かった。


「だが、リリアはこれから苦労するだろう」

「だな。あの剣を使うなら、戦い方を変えなきゃならない」


 リリアは、戦士としては小柄だ。そして腕力もない。ゆえに、その剣は”斬る”ために動く。刃を叩き付けるのではなく、刃を滑らせて斬る。

 しかし、あの大剣ではそうはいかないだろう。


「ミアが使えたら、ちょうどよかったのにな」


 ヒューリの言葉にミナセは答えない。

 かわりにミナセは、小さく微笑んだ。


 あの剣は、たぶんリリアに合っているよ


 不思議そうな顔をしているヒューリの隣で、微笑みながら、ミナセはリリアの背中を見つめていた。



 麓の村まであと少しというところで、マークがみんなに声を掛ける。


「この辺りがフェリシアとの合流地点だ。早ければそろそろ……」


 そう言って立ち止まった直後。


 バサバサッ!


 右手の林の中から、フェリシアが飛び出してきた。


「うわっ、びっくりさせないでください!」

「あら、ごめんね」


 ミアに謝るフェリシアは、地上一メートルくらいの高さでフワフワと浮いている。


「早かったな」

「フライなら、村まで大して掛かりませんので」


 マークに声を掛けられて、フェリシアは音もなく地面に降り立った。


「で、どうだった?」

「はい。村に変わった様子はありませんでした。周囲も探ってみましたが、怪しい人影や罠らしきものもありません」

「そうか、よかった」


 マークが安心したように笑う。


「助かったよ、ありがとう。フェリシアは少し休んでくれ」

「いいえ、全然平気です!」


 マークの気遣いを、フェリシアは笑顔で断った。そして小さくつぶやく。


「私にできることなら何だって……」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ、何でもありません!」


 首を傾げるマークの前で、くるりと向きを変え、フェリシアはミアの手を取った。


「さあ、野営の準備をするわよ」

「あ、はい」


 動き出した二人に合わせてみんなも動き出す。ここで夜まで待って、改めて出発することになっていた。


 フェリシアの索敵魔法では、村人とそうでない者の区別をつけることができない。怪しい反応にいち早く対処するため、そして村に迷惑を掛けないために、人がいない時間帯に村を抜ける予定だ。


 道から外れた林の中で、一行は夜を待つ。陽が沈み、月が昇り、村人が寝静まった頃を見計らって、七人は山を下りた。

 無言のまま、足早に七人は歩く。途中鍛冶屋に寄って、扉の隙間から手紙を投げ入れた。主人への礼と、挨拶なしで帰ってしまう詫びの言葉が書いてあった。隠し通路のことには、当然触れていない。

 静かな村の道を無言で進む一行は、ほどなく村の出口に着いた。そこでマークが立ち止まり、くるりと向きを変えて一礼する。みんなも倣って礼をした。

 同じく頭を下げていたリリアの目が、小さな樽を見付けた。あのおばあちゃんが座っていた樽だ。

 

「お嬢ちゃんは、オーネスの生まれかい?」


 突然そんなことを聞かれた。

 真っ白く染まった髪と優しい顔立ち。穏やかに笑う、茶色の瞳。


 おばあちゃんを思い出すと、どうしてもニーナのことを考えてしまう。


 あの人、どこに行ったんだろう?


 ニーナとその仲間に殺され掛けたというのに、リリアはどうしてもニーナのことを恨む気になれなかった。

 自分と同じ栗色の髪。自分と同じ、茶色の瞳。

 寂しげで悲しげで、虚ろで、だけど気になって仕方がない。


「ニーナさん……」


 月を横切る雲を見上げ、小さく小さくつぶやいて、リリアはみんなと一緒に村をあとにした。


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