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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第十一章 受け継ぐ者と、声を聞く者
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秘宝

「みんな、よくやってくれた」


 マークに言われて、みんなは嬉しそうだ。どうにか立ち上がったミナセも、ぎりぎり笑っている。


「では、お宝を確認するか」

「お宝! お宝!」


 興奮するミアをみんなが笑った。


「さてと、どこにあるのかな?」


 動き出したヒューリに続いて、みんなもドラゴンが倒れていた辺りを探し始めた。


「きっと、ピッカピカのキラッキラなお宝ですよね!」


 楽しそうなミアに、フェリシアが言う。


「あれだけの魔物だったんだもの。ビックリするようなアイテムに違いないわ」


 期待いっぱいの眼差しで地面に目を這わせる。マークを含めた七人は、高揚した気持ちでお宝を探していた。

 だが。


「もしかして……」

「これが……」

「お宝、ですか?」


 ヒューリとフェリシアとミアが、地面を見つめた。


「これは、最初から落ちてたんじゃないか?」


 ミナセが言う。


「地味」


 シンシアが、ぼそっとつぶやいた。


 七人に囲まれた中心に、それはあった。

 地面の色と同化している、くすんだ灰色の、ぜんぜん光ってもいない剣。

 鍔も柄もこれまた地味な色の、鞘にも入っていない抜き身の両手剣。

 見た目で分かる重量感。質実剛健という言葉がぴったりの、飾り気などまるでない大剣。

 魔力は感じなかった。魅力も、感じなかった。


「これ、刃が潰れてるぞ。完全に丸まってる」


 ヒューリが指で刃を撫でている。普通の剣なら、間違いなく指が落ちていることだろう。


「まあ、とりあえず」


 気を取り直して、ヒューリが剣を持ち上げようとした。

 ところが。


「うっ!」


 膝を付き、地面に横たわる剣の柄を握ったまま、ヒューリは動かない。


「何やってるんだ?」


 ミナセが声を掛けるが、ヒューリは答えなかった。

 答えるかわりに、なぜかヒューリは身体強化魔法を発動する。


「ぬおおおぉっ!」


 ヒューリが両手で剣を持った。


「うおおおぉっ!」


 全身に力を込めて立ち上がる。

 剣が浮いた。本当にちょっとだけ浮いた。

 しかし。


「ダメだー!」


 叫びながら、ヒューリが剣を手放す。


 ドゴッ!


 地面に落ちた剣が、驚くほど重たい音を立てた。


「……」


 六人は無言。ヒューリはゼェゼェ言っている。

 よろよろと下がっていくヒューリにかわって、ミナセが剣を持ち上げようとした。


「……なるほど」


 続けてミアが、剣を跨いで両手で柄を持ち、全力でそれを引き上げようとする。

 だが。


「どうして!?」


 以下、フェリシアもシンシアも、マークまでもが挑戦してみたが、結果は同じだった。


「これは、重たいな」


 そう。その剣は重かった。とんでもなく重かった。わずかながらでもヒューリが持ち上げたことから、地面に貼り付いている訳ではないことは分かる。


「ある意味レアね」


 呆れたようにつぶやくフェリシアの後ろで、リリアがうつむいた。


「せっかくドラゴンを倒したのに、意味がなかったですね。すみませんでした」


 その声を聞いたフェリシアが、突然くるりとリリアを振り返る。


「ミア、明かりを落として」

「えっ? あ、はい」


 ミアが魔力を絞っていった。

 すると。


「あっ!」


 フェリシアの視線に気が付いたリリアが、胸元を見て声を上げる。


「リリア、持ってみて」

「……はい」


 フェリシアに言われて、リリアが進み出た。


「いきなり力を入れるなよ。腰を痛めるぞ」

「ヒューリ、お年寄り?」

「ふがあっ!」


 賑やかな二人に、緊張していたリリアも思わず笑う。

 体の力が抜けたリリアが、ゆっくりと剣に手を掛けた。


「じゃあ、持ち上げてみます……わっ!」

「……えっ?」


 リリアが驚いて声を上げた。

 みんなも驚いて声を上げた。


 リリアの右手には、あの両手剣。誰も持ち上げられなかった、あの両手剣。

 それをリリアは、右手一本で、しかも恐ろしく軽々と持っていた。


「木刀より軽いです」

「うそ……」


 ヒューリの目がまん丸くなる。

 ミアの目が点になる。


「リリア、ゆっくりとそれを置いてみてくれ」

「はい」


 今度はマークがリリアに声を掛けた。リリアが素直に剣を置く。

 マークが、それを持ってみた。


「……だめだな。リリア、今度はペンダントを外して持ってみてくれないか?」

「はい」


 首からペンダントを外して、リリアはそれをシンシアに預けた。


「じゃあ持ちます」


 剣に手を掛ける。

 ところが。


「あれ?」


 今度は持ち上げることができなかった。


「これは意外だな」


 マークがちょっと驚いている。

 ほかのみんなも、不思議そうにリリアと剣を眺めていた。


「リリア。そのペンダント、シンシアに使ってもらってもいいか?」

「はい、どうぞ」

「じゃあシンシア。そのペンダントを首に掛けて、剣を持ってみてくれ」

「……はい」


 マークを見て、リリアを見て、少し不安そうに、シンシアはペンダントを首から下げた。

 シンシアが、恐る恐る剣を両手で持つ。

 そして。


「……だめ」

「なるほどね」


 マークが頷いた。


「リリアだけでもだめ、ペンダントだけでもだめ、ということか」

「私もやってみます!」


 ミアが、シンシアからペンダントを受け取って首に掛け、剣の柄を持つ。

 だが、やっぱり持ち上げることはできない。


「だめだぁ! 私は何の血も引いていなかった!」


 それにはみんなも笑った。残念そうに、ミアが肩を落とす。

 笑ってミアを見ていたマークが、またリリアを見る。


「もう少し確かめたいことがある。何度もすまないが、リリア、剣を持ってくれ」

「分かりました」


 ミアからペンダントを受け取って、リリアが首からそれを下げる。

 そして剣を、やはり軽々と持ち上げた。


「フェリシア、剣を一本出してくれ。折れても惜しくないやつがいい」

「はい」


 フェリシアが、マジックポーチから何本か剣を取り出した。


「これでいいかしら?」

「そうだな。それならどうなってもいい」


 ミナセに確認して、取り出したうちの一本をマークに手渡す。


「ありがとう。じゃあリリア、その剣を、両手で握って真っ直ぐ前に差し出してくれ。今から、この剣でそれを叩いてみるから」

「分かりました」


 言われた通りに、リリアは剣を真っ直ぐ前に差し出した。


「軽く叩くけど、衝撃を感じたら無理に握ってなくてもいいからな」

「はい」


 リリアの剣は、震えることも揺らぐこともない。自分の身長よりも少し短いだけの、信じられないほど重たい両手剣を、まるで小さなナイフを持っているかのように真っ直ぐ正面に向けている。


「いくぞ」

「どうぞ」


 リリアに声を掛けてから、マークは剣を振り上げて、それを大剣に向かって軽く振り下ろした。

 すると。


 ガキン!


 マークの剣は、堅い岩でも叩いたかのような音を立てて、がっちりと受け止められていた。


「衝撃はあるか?」

「いえ、ほとんどありません」

「そうか」


 リリアの剣は、ほとんど動くことがなかった。その言葉通り、リリアは衝撃など感じていないようだ。

 冷静なマークの近くで、ミナセとヒューリが目を見開いている。


「次は、そいつでこの剣を叩いてみてくれ。軽くでいいから」

「分かりました」


 今度は、マークが両手で剣を持って、真っ直ぐそれを前に差し出した。


「いきます」

「いいぞ」


 リリアが剣を振りかぶる。

 そして。


 ブオンッ!

 パキーンッ!


「うわっ!」


 両手剣が唸りを上げた。

 マークの剣が砕け散った。

 体のバランスを崩して、マークが驚きの声を上げた。


「社長!」


 ミナセが慌ててマークに駆け寄るが、マークはそれを手で制した。


「大丈夫だ。大丈夫だが……凄い衝撃だったな」


 ミナセに答えながら、手に残った剣の残骸を、マークがじっと見つめている。

 間近でミナセもそれを見つめ、やはり目を見開いていた。


「木刀よりも軽い剣が、金属でできた剣を、こんなに簡単に砕くことなんてできるはずがない。その剣は、間違いなく重いんだ。とてつもなく重い。その重さを、リリアは感じることなく使うことができる。そういうことなんだろうな」


 マークの話を、みんなは黙って聞いていた。


「その剣の由来も、ペンダントの意味も分からない。だけど、リリアがその剣を持つ資格を持っていることだけは、間違いないと思うよ」

「私が、資格を?」


 リリアは驚くことしかできない。右手の剣を見つめながら、左手でペンダントを握り締める。

 リリアに視線を向けながら、ヒューリがミナセに言った。


「もしかしてあの剣、無敵なんじゃないか?」

「そうかもな。私の太刀でも、あれは斬れないような気がする」


 ドラゴンの首を落とせなかったミナセが、弱気に答える。


「まあ、ミナセの剣は別として」


 ミナセの肩に手を置いて、ヒューリが続けた。


「斧だろうがメイスだろうが、あの剣なら楽勝で受け止められるし、相手の盾とか鎧とかも、あの剣の前じゃあ意味がない。当たった瞬間砕け散るか、そうじゃなくても、衝撃で相手は吹っ飛ぶだろう。あれは、完全に反則だ」

「たしかにな」


 剣士である二人には、その凄さが実感できた。リリアの剣は、攻守双方に絶大な威力を発揮するだろう。

 まさに無敵。まさに反則級の剣。


 二人の会話が途絶えると、不思議な静寂が訪れた。

 神秘的なものへの畏れ。人ではない何かへの畏れ。

 みんなは黙ってリリアを見つめる。”血を引くもの”であるリリアを、みんなは黙って見つめていた。

 

 突然。


「リリアって、特別な血を引く者だったんだね!」


 声が聞こえた。


「凄い凄い凄い!」


 興奮した声が聞こえた。


「リリアって凄い! リリア、よかったね!」


 ミアがリリアに抱き付いた。


「超お宝だよ! 超秘宝だよ!」


 その顔には満面の笑み。

 楽しそうに、嬉しそうに、ミアがリリアを抱き締める。


「あ、ありがとうございます」


 リリアは戸惑った。嬉しそうなミアに抱き締められて、どうしていいのか分からない。

 だけど。


「凄いよリリア!」


 ミアが興奮する。


「頑張ったご褒美だよ!」


 ミアが嬉しそうに笑う。

 リリアも笑った。何だか嬉しくなって、リリアも笑った。


「やっぱり私、ミアのこと好きだわぁ」


 フェリシアも、何だか嬉しそうだ。


 ミアに頬ずりされながら、リリアが笑う。それを見て、みんなも笑う。


「よし! 秘宝も手に入れたことだし、戻ろうか」

「はい!」


 マークの声に、六人は揃って大きな声で返事をした。

 出口に向かって歩きながら、話が盛り上がる。


「とんでもない剣だな、これは」

「重さはどれくらいあるんだろ?」

「リリアのご先祖様ってどんな人なのかしら?」


 囲まれているリリアは、何だか恥ずかしそう。


「シンシア、冒険って楽しいね!」

「冒険じゃなくて、訓練」


 弾むミアに、シンシアが冷静に答える。

 にこやかなマークと楽しげな六人は、ワイワイ話をしながら大空洞を出た。

 全員が空洞を出ると、ミナセとヒューリがきっちり扉を閉める。


「この扉自体には、何の細工もないんだな」


 見た目の割には普通だったその扉を振り返り、みんなに続いて二人も通路を登る。登り切れば、そこはダンジョンの最深部だった場所だ。時間が経っていたせいで、すでに魔物が復活している。

 メイスを構えて前に出るミアを、フェリシアが手で制した。

 そして。


「えいっ!」


 やけに軽い掛け声と共に、魔法を放つ。

 一撃で、すべての魔物が焼き払われた。


「フェリシアさん、ずるい!」


 ミアが頬を膨らませる。

 その隣で、リリアが振り向きながら言った。


「この通路って、このままなんでしょうか?」


 と、その瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴッ!


 重い音が響いたかと思うと、岩壁が横に動いて、通路をきれいに隠してしまった。


「びっくりしたあ!」

「誰か見てるのか?」


 ミアが驚き、ヒューリが辺りを見渡す。


「すごいな。見事なまでに分からない」


 ミナセが、閉じた岩壁を冷静に確認していた。

 その時、フェリシアがふわりと浮いた。そのまま上昇していき、亀裂の奥を覗き込む。


「どうだ?」

「石版は残っていますが、宝石はなくなったままです」


 マークに答えて、フェリシアはストンと地面に降り立った。


「ほとんどの場合、ボスと呼ばれる魔物は、一定期間を過ぎると復活します。それが数日のこともあれば、数ヶ月を要するものまで様々です」

「じゃあいずれは……」

「そうですね。ただ、あのドラゴンの場合は、数年か、場合によっては二度と復活しない可能性もあると思います。確かめるのは難しそうですけど」


 フェリシアの話を聞いたマークは、少しの間考えていたが、やがてみんなに言った。


「隠し通路も閉じたし、とりあえず宝石もない。差し当たり、ここは以前のような初心者向けのダンジョンに戻った訳だ」


 そして、にこっと笑う。


「戻って夕食にしようか」

「はい!」


 ミアが元気に先頭を歩く。リリアが剣を抱えて歩く。

 足取りの軽い一行は、お腹が空いたと笑いながら、意外な秘密を隠し持っていたダンジョンをあとにした。


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