ペンダント
リリアは、大きな買い物かごを重たそうに両手で持ちながら、尾長鶏亭へと向かっていた。
大量に使う食材は、肉屋なり八百屋なりが店まで持って来てくれるのだが、少量の食材や小さな備品などは、リリアが買い出しに行くのが常だった。
今日も、買い出しを終えて慣れた道を辿る。そしていつも通り、少しだけ寄り道をすることにした。
尾長鶏亭の手前を右に曲がり、しばらく歩けばその店に着く。
店の前にかごを置き、道に面しているショーウィンドウにリリアは張り付いた。
「よかった! 今日もまだあった」
リリアが見つめる先には、一つのペンダントが飾られていた。
細めのゴールドチェーンの先に、透明感のある小振りのイエローサファイアが輝いている。明るく華やいだ雰囲気のそのペンダントは、リリアによく似合いそうだ。
値段を見ると、それほど高価なものではない。とは言え、今のリリアにはとても手が出る金額ではなかった。
「でも、もう少し」
リリアは、最後にもう一度ペンダントを見つめた後、かごを持って歩き出した。
「何やってたんだい!」
店に帰るなり、金切り声がリリアを襲う。
「まったくグズだね。さっさと仕込みの手伝いに入りな!」
ヒステリックに叫んでいるのは、この店の女将、リリアの義理の伯母である。
「すみません! 手を洗ったらすぐやります」
寄り道をしたとは言え、あの大きなかごにいっぱいの荷物を運んできたのだ。そこまで怒鳴られるほど遅くなった訳ではない。
だが、リリアは文句も言わずに店の厨房へと向かう。
厨房では、この店の主人、リリアの伯父がじゃがいもの皮を剥いていた。
「遅いぞ、とっとと代われ! まったく、手が痛くなっちまった」
そう言いながら、主人は剥き掛けのジャガイモと包丁を投げ出して、別の作業へと移っていった。
「それが終わったら、店のイスとテーブルを拭くんだよ!」
次々と女将が用事を言いつける。
どんなにきつい言葉を浴びせられても、リリアは黙々と仕事をこなしていった。
イスとテーブルを拭き終わり、汚れた水の入ったバケツを持って店の奥に行こうとした時、リリアは、ちょうど出てきた女将とぶつかりそうになってしまった。
バケツの水が少しこぼれて、それが女将の足に掛かる。
「何すんだい、この役立たずが!」
そう叫ぶなり、女将は持っていた箒の柄でリリアを容赦なく打ち始めた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
リリアは、箒で叩かれながら必死に謝った。
肩に、腕に、背中に、容赦なく箒が打ち下ろされていく。
リリアは、背中を丸め、頭を手で庇いながら叩かれるがままになっていた。
逆らえば、余計ひどい目に遭うことが分かっているからだ。
半袖から見えている腕に痣が浮かび上がる。
服で見えない背中も肩も痣だらけになっているに違いない。
その光景を、主人が冷めた目で見ていた。
今日は伯母さんの機嫌が悪いらしい
収まるまで我慢しないと
痛みに耐えながら、リリアは嵐が過ぎるのをじっと待っていた。
 




