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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第八章 怖いもの知らず
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強くなりたい

「ミア! ミア!」


 耳元で響く大きな声で、ミアは意識を取り戻した。

 ゆっくりと、目を開く。


「大丈夫?」


 目の前にマギの顔がある。心配そうにミアを覗き込んでいた。


「……敵は?」

「ファルサとかいう奴以外は、みんな倒したわ。うちのメンバーは無事よ」

「そう、ですか。よかった」


 両腕に力を込めて、ミアが体を起こす。目の焦点は、まだ少し合っていなかった。


「飲んで」


 マギが水筒を差し出す。


「ありがとうございます」


 それを受け取ろうと手を伸ばしたミアは、そこで動きを止めた。手の甲が、赤茶色に染まっている。

 その様子を見たマギが、静かに言った。


「とりあえず、手と顔を洗った方がよさそうね」



 マギの話では、エイダの戦線復帰で一気に形勢が逆転したらしい。

 意識を取り戻したエイダが、風の魔法ジャンプで落とし穴から脱出。ファイヤーボルトを連射して、ならず者たちを瞬く間に倒していった。

 マシューと睨み合いをしていたファルサは、それを見て即座に撤退。ガロンとシーズも無事救出された。

 話を終えたマギが、膝を抱えたまま地面を見つめるミアに聞く。


「あんた、人と戦ったの、初めて?」

「……」


 返事はなかったが、マギには分かったようだ。

 マギが、ミアの手をそっと握る。普段はきつく見えるその目が、今はとても優しかった。

 その二人を横目に見ながら、マシューたちが話をしている。


「雑魚は全滅させた。隠密野郎は逃したが、敵の戦力はだいぶ減ったはずだ。勝ち目は十分あるとは思うが……」

「さっきはドジッちまったが、今度はやってやるぜ!」

「俺も大丈夫だ」


 マシューの話に、男二人はやる気を見せている。しかし、エイダは黙ってミアを見つめていた。

 マシューもミアを見る。

 思い詰めたように動かないミアを、じっと見る。


 やがてマシューが、少し強い口調で言った。


「今回は、一旦引こう」


 ガロンとシーズは一瞬眉をひそめたが、それでも、その決定に異を唱えることはしなかった。


 無理はしても、無茶はしない


 自分たちが貫いてきたポリシーの一つだ。

 アウァールスのアジトは目の前。敵の戦力低下は確実。

 それでも、今は引く。


 エイダにも見付けられない敵と、統制の取れた防衛体制。

 想定外がまた起きる可能性は高い。それらを突破するには、同じく想定外の働きを見せた、ミアの力が必要だ。

 そのミアが、戦えない。


 マシューは決断した。


「ミア、立てるか? もし大丈夫なら……」

「待ってください!」


 突然、ミアが叫んだ。

 マギが、驚いて目を丸くする。


「マギさん、ありがとうございました」


 自分の手を握るマギの手をそっと外して、少しふらつきながらも、ミアは自力で立ち上がった。


「私、今の会社に入る時に、何でもやるって決めたんです。やり抜くって決めたんです」


 それまでとは別人の顔で話し始める。


「うちの社員は、みんな、私なんかには想像もつかないくらい大変な経験をしてきました。それに比べたら、私なんて……」


 拳を握り締めて語る。


「私は強くなりたい! だから、私はこんなところでへこたれてる場合じゃないんです!」


 ミアが、強い意志を示した。


「私、戦います!」


 しっかりとした声で宣言した。


 身を守るためには、相手の命を奪うことになってもやむを得ない。

 この世界の常識が、ミアの背中を押す要因ではあっただろう。

 だが、そんなことよりも、ミアは思ったのだ。


 みんな乗り越えてきたんだ


 強く思ったのだ。


 私はエム商会の社員なんだ!


 だから思った。


 私は、強くならなきゃダメなんだ!


「私、戦います!」


 ミアは言った。

 覚悟を決め、腹を据えて、力強くミアは叫んだ。


 沈黙の後。


「ほんとに想定外だな」


 マシューが笑った。


「ミアちゃん、惚れたぜ!」


 ガロンが吠えた。


「俺が、守ってやる」


 シーズがつぶやいた。


「後で窒息させる」


 エイダがシーズを睨んだ。

 そしてマギは。


「気に入ったよ」


 立ち上がって、ミアの肩をポンと叩いた。


「よし! やつらのアジトはすぐそこだ。みんな、気合いを入れろ!」

「おぉっ!」


 敵の拠点の近くだというのに、パーティー全員が大きな声で叫んでいた。


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