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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第六章 ブロンドの問題児
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光と闇の魔法

 その日の打ち合わせで、マークは、ロダン公爵の長男ロイの件を社員のみんなに話した。

 もちろん、他言無用と断った上である。


「もしロイ様にセルセタの花を煎じて飲ませることができれば、教会の件で、ロダン公爵の協力を得ることもできるだろう。教会は政治的に中立だから、ジュドー伯爵に圧力を掛けてもらうなんていう、間接的な方法になるとは思うが」


 説明を終えたマークが、その狙いを伝える。


「グレートウィルムは漆黒の獣に任せるとして、問題はロイ様の移動だ。そこでフェリシア、何かいいアイデアはないか?」


 話を振られたフェリシアが、黙り込んだ。何を聞いても即答するフェリシアにしては珍しい。

 それほどこの話は難しいとも言えた。

 しばらく考えていたフェリシアが、慎重に話し始める。


「私がロイ様を抱えてフライで飛んだとしても、それなりに日数は掛かります。その間ロイ様の命を保つためには、もう一人、強力なヒーラーの同行が必要です」

「まあ、そうなるだろうな」

「はい。そんなヒーラーを、私は一人しか思い付きません」

「いるのか!?」

「います」


 フェリシアの答えに全員が驚いた。

 フェリシアが全員を見つめ返す。そして言った。


「アルミナ教会の、ミアです」

「ミアさんか……」


 つぶやいて、マークが腕を組む。

 フェリシアが続けた。


「私が、ミアとロイ様をフライで運びつつ、ミアが治癒魔法と医療魔法を一定の時間ごとに掛け続けるという方法が、一番現実的だと思います。ただ、問題がいくつか」

「問題?」

「はい。一つは、私のフライが未完成だということです。ミアとだけ、あるいはロイ様とだけなら一緒に飛ぶこともできますが、二人となると、飛行速度や距離はかなり落ちてしまいます」

「フェリシア、フライの研究してたんだ」

「いちおうね」


 フェリシアが、ヒューリに答えた。そして、リリアとシンシアを見ながら微笑む。

 フェリシアの研究に付き合っていた二人が、微笑みを返した。


「二つ目は、たとえ三人で飛べたとしても、途中で何度か完全な休憩をしないといけないことです。私にもミアにも、山賊や魔物を一切警戒することなく、落ち着いて休憩できる場所が必要です」

「なるほど」

「そして三つ目。これが一番心配なことなのですが」


 全員を見渡しながら、フェリシアが言う。


「治癒魔法や医療魔法は、光の魔法に属します。光と、そして闇の魔法も同じなのですが、この系統の魔法は、限界を超えて発動します」

「限界を超えて?」

「はい。その魔法を発動できるだけの魔力が残っていなくても、本人の生命力を代償にして、発動します」

「発動した後は、どうなるんだ?」

「高い確率で、本人が死にます」


 淡々とフェリシアが答えた。

 マークの目が広がった。みんなが息を呑んだ。


 光と闇の魔法。魔術師の誰もが修得を目指す、高度な魔法が存在する属性だ。

 しかし、その魔法には危険が伴っていた。


 限界を超えて肉体を酷使し続けた時、それが死に結びつくことがあるのと同じように、魔法も、限界を超えて使えば死を招くことがある。

 火、水、風、地の魔法は、本人の魔力量以上の魔法は発動しない。限界まで魔法を使ったとしても、気を失って倒れるだけで、時間が経てば回復する。

 だが、光と闇の魔法は違った。術者に魔力が残っていなくても発動してしまう。

 リリアも、たしかに覚えていた。治癒魔法を習う時に、母からきつく言われたこと。


「いい、リリア。この魔法は、自分が元気な時に使うのよ。病気だったり、すごく疲れている時には絶対使っちゃだめ。いいわね?」


 いつも優しい母の目が、あの時は真剣だった。


「ミアは、まだ魔力をうまくコントロールできません。だから、最後まで魔力が持つかどうかが不安なんです。もし土壇場で魔力が足りなくなったら、あの子は限界を超えてでも魔法を使ってしまうかもしれません。あの子、優しいから」


 フェリシアが、話を終えた。

 部屋の中が静まり返る。


 死ぬかもしれない


 戦いに身を置く者であれば、そんなことは常に思っている。ミナセもヒューリもフェリシアも、死を考えたことは当然ある。

 だがミアは……。


「当然、ミアさんもそれは知ってることだよね?」


 沈黙を破ってマークが聞いた。


「知っているはずです。確認はしますけど」


 フェリシアが答えた。


「分かった。この話をミアさんや教会の方々にするかどうかは、俺が判断する。みんなはしばらく黙っていてくれ」

「分かりました」


 全員がしっかりと頷く。


「ところでフェリシア。もう一つ、相談があるんだけど」


 マークは、フェリシアに別の話をした。

 それにフェリシアは、にっこり笑って答える。


「そういうことなら、お任せください」



 エム商会で打ち合わせが行われていた頃と、同時刻。


「まったく貴様は、役立たずだな」


 辛辣な言葉を受けて、コクト興業の社長が頭を下げる。


「申し訳ありません。まさか、教会があんな奴らを味方につけるなんて思ってもみなかったもので」

「で、そのエム商会というのは、社長を含めても六人しかいない会社で、どこかの貴族が支援をしている様子はないと言うんだな?」

「はい、その通りです」


 社長を目の前に立たせ、頬杖をつきながら気だるそうに確認するのは、ジュドー伯爵。小太りのコクト興業の社長をさらに一回り大きくしたような、でっぷりとした男だ。


「ならば、そんな奴らは無視してよい」

「はい……」


 何か言いたげだった社長は、しかし伯爵の言葉に逆らうことはしなかった。反論すれば、あっという間に機嫌が悪くなるのが分かっていたからだ。


「前にも言ったが、ロロの実の群生地に魔物を呼び寄せるのは、わしとて簡単なことではない。教会に収入を得る方法ができてしまった今、やることは一つだろう」

「と、おっしゃいますと?」

「我らに逆らうと痛い目に遭うことを、直接教会に教えてやるのだ」

「じつは、その方法は一度失敗しておりまして……」

「ふん。使えないチンピラなんぞに任せるからそうなるのだ。わしの部下を何人か貸してやる。早々に実行しろ」

「早々にというのは、その、なかなか……」

「いいからやれっ! わしをいつまで待たせる気だ!」

「はい!」


 やはり伯爵の機嫌は悪くなった。


「わしはな」


 伯爵の目がギロリと動く。


「一日も早くシスターを手に入れたいのだよ」


 そう言う口元が、不気味ににやける。


「あの、普通の女じゃダメなんで?」

「普通の女など、もう飽きたわ」


 伯爵の屋敷にはメイドが数人いるが、いずれも美人揃いだ。しかも、昔から仕えているメイド長以外は、二、三年ごとに入れ替わっている。飽きっぽい伯爵が、次々とクビにして、次々と雇い入れているからだ。

 美人ばかりをどうやって集めてきているのか、社長はその裏事情を知っていたが、そんなことにはもちろん口を出さない。


「よいか。わしは本物のシスターが欲しいのだ。教会の危機を救うために、意を決してやってくるシスターがな」


 にやけた表情が、口元から顔全体に広がっていく。


「気の強い女ほどよい。憎悪と嫌悪に満ちた目でわしを睨み、力の限り拒絶してくる。それを、何日も何日も掛けて落としていくのだ。そして最後は、穢れを知らぬその身を、自分の意志でわしに捧げるよう仕向ける。神ではなく、わしに忠誠を誓うよう仕向けるのだ。どうだ、最高に楽しいゲームだとは思わんか?」


 涎を垂らさんばかりのにやけ振りだ。


 この変態が!


 悪党を自認する社長でさえも、伯爵の悪趣味にはついていけなかった。


「私は、もっと手軽に女を抱きたい方でして……」

「ふん、つまらん男だ」


 興醒めした伯爵が、冷たい表情で言う。


「土地はお前の好きにしろ。わしは、シスターさえ手に入ればそれでよい。さっさと行け!」

「はっ!」


 コクト興業の社長は、一礼すると足早に部屋を出ていった。


 そして伯爵の指令は、数日後、実行された。


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