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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第六章 ブロンドの問題児
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最強!?

 ワイバーンが残していった魔石を拾い、短い休憩を取った後、四人はロロの実の収穫を始めた。

 ミアが指し示す実を、三人が丁寧に摘んでいく。間違ってはいけないからと、ミナセは選別に加わっていない。

 三時間ほど掛けて、麻袋いっぱいのロロの実を採ることができた。


「これだけあれば、しばらく薬作りに困ることはないと思います」


 ミアが嬉しそうに言う。

 しばらく振りの収穫だ。教会のみんなの喜ぶ顔が目に浮かんだ。


「皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」


 麻袋を抱き締めながら、ミアが頭を下げた。


「いやいや、これが私たちの仕事ですから」

「うふふ」


 おどけるヒューリをフェリシアが笑う。

 そんな二人に、ミナセが言った。


「ヒューリ、フェリシア。休みなしで悪いけど、すぐ調査に向かってくれ。暗くなるとやっかいだからな」

「調査?」


 ミアが首を傾げる。


「実は社長から、ちょっと調べてくるように言われてることがあってね。院長先生には断ってあったらしいんだけど、ミアには伝わってなかったかな。すまない」

「いえ、それは構わないんですけど」


 自分が知らなかったことなど、特に気にはならない。


 それより、調査って?


「とりあえず行ってくる。日が沈む前には戻るよ」

「じゃあね、ミア」


 そう言いながら、ヒューリとフェリシアが歩き出した。


「あ、あの!」


 ミアが、不安いっぱいという顔で二人を見る。


 私はここに残るの?

 ミナセさんと二人だけなの?

 ヒューリさんとフェリシアさんがいない時に魔物が来たら……。


 そんなミアの気持ちを察したのか、ヒューリが笑いながら言った。


「心配すんな。ミナセがいれば大丈夫だよ」


 フェリシアも笑顔で言う。


「そうよ。だってミナセは、うちの中で最強だもの」

「えっ?」


 手を振りながら去っていく二人を、ミアが固まったまま見送っていた。



 蜂蜜を溶かした甘いお茶が、疲れた身体に染み込んでいく。

 ミナセとミアは、ロロの木の群生地から少し離れた草地で、焚き火を挟んで向かい合っていた。


「あの……」


 ミアが、ミナセに声を掛ける。


「何?」


 ミナセが穏やかに返事をした。


「その……いろいろと、ごめんなさい」

「?」


 ミアの言葉の意味を取りかねて、ミナセが首を傾げる。


 ミアは、大いなる勘違いをしていた。


 ヒューリとフェリシアの入社までの経緯を聞き、その強さを目の当たりにして、ミアは、あの二人がエム商会のツートップだと思い込んでしまった。

 ミナセからは、強い魔力を感じない。剣を携え、スラリと立つその姿は確かに凛々しい剣士そのものだが、常に冷静で穏やかな人柄は、強いというよりも、きれいで頼れるお姉さまという印象だった。


 それが、最強?

 あの二人よりも強いってこと?


 ミアが、さりげなくポケットの中身を確かめる。


 このハンカチ、真剣に洗わなきゃ


「ところで、ミナセさんはどうしてエム商会に入ったんですか?」


 会話のきっかけになればと、ミアはミナセに話し掛けた。きっかけと言いながら、しかしミアは、ミナセの答えに結構期待をしている。

 果たしてミナセからは、どんなドラマティックな話が聞けるのか。


「私はね、町を歩いてたら、社長にスカウトされたんだ」

「へぇ、そうなんですか。それで?」

「それだけだよ」

「それだけ?」

「そう、それだけ」

「……」


 あれ、もっと感動的なお話は?

 悲劇を乗り越えて今に至るとか、考えられないような人生を送ってきたとか、そういうのは、ないのかな?


 ミアは、露骨に残念な顔をしそうになり、慌てて反省した。


 ダメダメ、この人は最強


 そんなミアを知ってか知らずか、ミナセが話し始める。


「でも、リリアやシンシアは、入社までに大変な思いをしてきたんだ。リリアは四年以上過酷な環境に耐えてきたし、シンシアは、一時声を失うくらい悲しい出来事を経験してきた」


 ミナセが、リリアとシンシアの入社までの経緯を語った。



「うっ、うっ……」


 ミアが泣いている。一生懸命我慢しているが、やっぱり涙が溢れ出してくる。

 ミアは、ポケットからハンカチを取り出して、乱暴に涙を拭った。


「これ、ちゃんと洗って返しますから」

「あげるから、持ってていいよ」

「いいえ! そんな訳にはいきません!」


 妙なところで頑固さを発揮するミアに、ミナセが苦笑する。


「エム商会の皆さんって、本当に凄いんですね」


 少し落ち着いたミアが、尊敬を込めて言った。


 フェリシアが育った孤児院とは比較にならないくらい、アルミナ教会の孤児院はいい環境にある。

 お腹いっぱい食べられるとか、きれいな服を着られるということはなかったものの、平和なこの国で、シスターたちの愛情に包まれて育ったこともあって、ミアは自分が不幸だと思うことはあまりなかった。

 前の院長が亡くなった時はとても悲しかったが、それ以外は平穏な人生だったと言える。


 みんなに比べて、私は……


「私って、やっぱり甘いですね」


 何度目かの言葉を、ミアはしみじみと吐き出した。


 本当にイヤになる。

 自立もしていないし、目標もない。

 何となく孤児院にいて、何となく生きている。

 何とかしなくちゃって、毎日思ってる。

 毎日思って……。


「ハッ!」


 ミアは突然思い出した。

 フローラの顔と、その約束。


 そうだ。私、落ち込んでる場合じゃなかったんだ。フェリシアさんに話さなきゃ!

 でも、フェリシアさんは今いない。やっぱり今夜?

 いやいや、だめだめ。昨日もそう思ってて、言うのを忘れてしまった。

 どうしよう……。


 目の前で、ミアの身体がくねくね動いている。

 その姿を見ながら、ミナセはどうしたものかと考えていたが、いちおう声を掛けてみることにした。


「ミア、どうかしたのか?」


 声を掛けられたミアは、しばらくミナセの顔を見つめていたが、やがて決意したように話を始めた。


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