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異世界の乙女たちは、社長と一緒に笑っていたい  作者: まあく
第一章 黒い瞳と黒い髪
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再会

 次の日の午後、ミナセはマークと共に問屋を訪れ、売掛金を弁償し、改めて謝罪をした。主人にはまた嫌みを言われたが、昨日ほどの怒りはなかったようで、思ったよりも短い時間で解放された。

 

 問屋を出た二人は、入り口に向かって一礼してから歩き始める。並んで歩き始めたはずなのに、気が付けば、ミナセはマークの後ろを歩いていた。

 今日は金曜日だ。そのせいか、道行く人たちの表情が何となく楽しげに見える。自分だけがみんなと違う顔をしているような気がして、ミナセはうつむいた。

 そんなミナセに、前を行くマークが言った。


「ミナセさん、今日はこれで帰っていいですよ。この後仕事もありませんし」


 立ち止まってミナセを振り返る。


「俺も今日は早めに帰ります。お互い土日でリフレッシュして、月曜日からまた元気に頑張りましょう!」


 マークが笑う。

 その顔を正面から見ることができずに、小さく顔を上げただけで、ミナセが答えた。


「すみません。では、お言葉に甘えて失礼します」


 少し大げさなくらいに頭を下げて、ミナセはマークと別れた。

 去っていく自分をマークが見つめている。その視線を背中に感じる。

 それを振り切るように、足を早めてミナセはその場を離れていった。


 宿に向かうでもなく、漠然とミナセは歩く。


「まあ、いつか話せるようになったら、話してください」


 自然と胸に浮かんでくるマークの言葉。マークの、少し寂しそうな微笑み。

 その声と表情が、ずっと頭から離れない。


 どうしてマークに相談できないのか


 ミナセは自分に問う。


 どうしてマークに相談する必要があるのか


 自分がミナセに問う。


「それを一人で抱え込んではいかん」


 何度も甦るご隠居の言葉。

 だが、マークに話したところでいったい何になるのか。


 自分が強くなれる訳でもない。

 旅の目的が果たされる訳でもない。


 私は、いずれ旅に出る。

 自分の過去に、マークを巻き込む必要などない。


 そう思う。

 そう思うのに、なぜ私はこんなにも……。


 ミナセは歩く。

 ミナセは考える。


 放り込まれた迷路の中を、ミナセは彷徨っていた。出口も、自分のいる場所さえも分からなくなって、ミナセは空に向かって叫び出しそうになる。

 その時。


「お前、どっから来たんだ?」

「臭いぞお前!」


 突然、子供たちの声が飛び込んできた。


「こいつ、なんか気持ち悪い!」


 現実に引き戻されたミナセが、声の方向を見る。


 イジメか?


 何となく気になって、ミナセはその方向に足を向けた。

 人混みをかき分け、辿り着いてみると。


「あの子!」


 そこには、国境近くで出会った少女がいた。

 あの時と同じく、顔も手足も汚れている。そして、あの時着ていた服は、もうボロボロだ。

 少女は、街の少年たちに囲まれて怯えていた。


「何とか言ってみろよ!」


 少年の一人が少女の肩を小突く。それでも少女は、何も言わずにただ体を震わせているだけだ。


 一瞬のためらい。

 直後。


「ちょっと待て、その子は私の連れだ!」


 ミナセが、少女に駆け寄っていった。

 突然現れたミナセに、少女は目を見開いている。


「さあ行くぞ」


 そう言って、ミナセは少女の手を握った。


「!」


 咄嗟に、ミナセは手を放そうとしてしまう。

 だが、それをミナセは気持ちで抑え込んだ。


「ちぇっ、何だよ!」


 文句を言う少年たちを無視し、小さな手を握り直して、ミナセは足早に歩き始めた。


 繁華街を抜け、小さな公園にやって来たミナセは、そこでようやく少女の手を放した。そして、少女に向き直って話し掛ける。


「私のことを、覚えているか?」


 少女は答えない。見れば、まだその肩は小さく震えている。

 その様子を見て、ミナセは気が付いた。


「すまなかった」


 そう言うと、少女の前にしゃがみ込む。

 少女と同じ目線になって、今度は、優しい声で静かに言った。


「もう大丈夫、安心しなさい。私は、お前の味方だよ」


 ミナセが笑う。

 少女に向かって、ミナセはにっこりと笑った。


 少女の震えが、止まった。


「私はミナセ。はじめてお前と会った時は旅の途中だったけど、今は、この町の何でも屋で働いている」

「……何でも屋さん?」


 少女が反応した。

 内心の驚きを隠して、ミナセは自然に続ける。


「そうだ。悪い奴らからお店を守ったり、お惣菜を売ったりするんだ」

「……お惣菜って?」

「コロッケとかサラダみたいな、まあ言ってみれば、おかずだな」

「……私、コロッケ、好き」

「そうか。私も好きだぞ」


 ミナセが、またにっこりと笑う。

 そんなミナセを見て、少女もにっこりと笑った。

 青白いその顔はひどく汚れていたが、その笑顔は、びっくりするくらい可愛らしかった。


「名前は?」


 ミナセの問いに、少女が答えた。


「クレア」


 可愛らしい笑顔で、はっきりと、少女は自分の名前を言った。


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