099:白亜紀の守護者 #2
ターボ君の特訓開始。
普段からティラノを毛嫌いしているトウヤでも、仲のいい相手はいたりする。
099:白亜紀の守護者 #2
腹一杯喰って昼を回った所で、ミハルとターボ君をつれて広い所に出る。
オレはミハルと少し間を開けて並んで立つ。
まあ、こんなモノかな。
「ターボ君、オレに掛かってくるんだ」
「何を始めるんスか?」
「大暴牙を倒す稽古だよ」
オレとミハルの距離は、丁度ティラノのスタンス幅を想定したもの。
ここからティラノの喰い付きをかわせるよう、ターボ君を仕込むつもりだ。
ターボ君は不安気に口ごもる。
サイズこそ違うものの、巣で震えている若竜と変わりない。
イケイケのティラノを8頭相手に渡り合うんだから、尻込みするのも当然だけど…。
「それとも、このまま逃げ続けるか?
一緒に逃げて来た仲間は、どうなった?」
散々な目に遭ってきたヤツの心をえぐるような事は言いたくないんだが、とにかく今は時間がない。
生き残ってもらうことが先だ。
ターボ君は、迷っているようだった。
「オレでもヤツらを倒せるようになりますか?」
「獲物が桁違いに強いだけで、狩りと同じだ。
やってやれないことはない。
生き残りたければ、オレが仕込んでやる」
自信、あり。
今まで何度も実践しようとしたけれど、トドメを刺す前に相手が泣きわめいて逃げ出しちまうもんで。
三日月爪の攻撃力のなさが、ヤツらにとってラッキーだったってコトさ。
「どうする?」
「…昨日ごちそうになったトサカヅノ。あれ、トウヤさんが仕留めたんですよね?」
「ああ。オレは他竜様の食い残しは食わん主義だ」けれどお裾分けやお土産ならハナシは別。
「よろしくお願いします」
どうやら、さっき喰らわせた尻餅が利いているようだ。
「よし。
じゃ、ルール説明な。
オレを咥えることが出来るようになるまで、オレに掛かってくるんだ。
ただし、ミハルには手出しするな。位置決め役なんでな」
ターボ君が進み出てくると、オレは間合いを計り、彼の顔に向けて跳ぶ。
彼はオレを捉えようとするが、スピードが足りず、オレに横面を蹴り飛ばされる。
デイノニクスは、両前肢の風切り羽と腰回りとシッポに尾羽根があるので、空中で変則的にカーブしたりブレーキを掛けることが出来る。
実戦でティラノが繰り出すフェイントを想定して、オレもあらん限りの空中機動を繰り出してやる。
「首だけでオレを狙うな。
脚を使え。半歩身を引いて、オレが跳んで行くその先を狙うんだ」
まだ、ケガが回復しきっていないのは分かっているが、オレは休ませずに続けた。オレも休まずに続けた。
この日は、ターボ君はオレのケリを受けるばかりで、一度も捕まえることが出来ずに終わった。
次の日。
昨日の残りを喰い、また練習。
しかし、何度やっても同じだ。
「やめやめ。ちょっとやり方変えよう」
「スンマセン」ターボ君はさすがにメンタルが削れ出し、シュンとしている。
「気分転換兼ねて、ちょっと出かけよう」
オレは残り物のサウロロフスのモモをターボ君に食いちぎらせ、付いてくるように言った。
「今度はどこへ行くんスか?」
「森の奥に、少し変わった竜のつがいが棲んでいるんだ」
肉食なのに、なぜか甘い実が成る樹が多く生える辺りに棲んでいて、肉や魚を持って行くと、高い所に成っている木の実をいくらでも穫ってくれる。
オレはタマに甘いモノが喰いたくなると、この夫婦竜を訪ねるんだ。
オレの半分よりちょっと体長が長い、スレンダーな竜。
飛躍脚の一門。
余程遠くから流れて来たのか、彼らの種も他に見掛けたことがない。
「いやぁ~、いらっしゃい」
旦那さんがいつものようにホヨホヨした感じで出てくる。
「いらっしゃい、トウヤさん」
奥さんのエミさんと仔竜も一緒に出てくる。
「こんにちわ。
今日は赤い実を分けて下さいな。
後いつもの黄色いのも少し」
「イムね。もう時季外れだから味は落ちてきてるわよ?」
「じゃ、この秋の食べ収めにします」
「ホントに好きなのね。いい所見繕ってきますよ」
オレはターボ君に、持って来た肉を出してもらう。
仔竜たちはトルヴォサウルスの巨体に怯えて母竜の後ろに引っ込み、脚の間からおそるおそるターボ君を覗いている。
「昨日穫ったヤツだから食べ頃だぞ。ほら、持って行きな」
ターボ君は慣れた仕草で、咥えている肉をそっと仔竜たちの前に持って行ってやる。
へぇ…。
かなり意外だった。
このクラスの大型竜が、小型竜のそれも幼竜に思いやりを見せるなんてね。
「ありがと~」
仔竜たちはオド付きながらも肉を受け取ると、住処へ運んで行った。
キョロンとした目が可愛い盛りだ。
このヒョロヒョロのやせっぽちが大きくなって行くんだから不思議なもんだ。
彼らは、別に狩りがヘタという訳じゃない。
実際、鳥や小型の竜をよく狩っている。
しかし、彼らの嗜好なのかそれとも種族的な性質なのか、フルーツが好きで、食べた実の種を植え、樹を増やすのが巧い。
そのおかげで、この辺りは竜知れず旨いフルーツが食えるマル秘スポットになっているんだ。
しかし、樹の高い所に実が成るんで、そうそう口にすることが出来ない。
そこをこの夫婦竜に頼んで、収穫してもらうんだ。
別に黙って穫っても何も言われないんだけど、なんとなくな。
オレたちデイノニクスは体が重い方なんで、跳んでも実がある所まで届かない。
採れそうな所に成っている実が旨いか不味いかも分からない。
エミさんたちのおかげで、毎度旨い実を食えるので大助かりだ。
実を言えば、ターボ君が背伸びすれば木の実はあっさり穫れる。
わざわざエミさんたちにお願いしたのは、近所付き合いということもあるが、ターボ君にオルニトレステス夫婦の華麗なジャンプや身軽に樹を駆け上る様を観察させるのも目的だったんだ。
さて、果物を抱えて稽古に戻り、仕切り直しだ。
ターボ君は、体格がよく装甲も厚いため、攻撃をそのまま受けてしまうマズいクセが付いている。
オレたちデイノニクスは大抵自分より大型の相手をするので、攻撃を受けると一発一発のダメージがかなり重くなる。
それに、竜全体から見れば体が華奢な方だ。
実際デイノニクス同士でもごく簡単に致命傷を与えることができるくらい。
そのため、攻撃は避けるのが当たり前なんだ。
じゃあ、このかわし身をトルヴォサウルスがマスターできたら?
そして手数押しに手を抜かない忍耐を付けることが出来たら?
その上で大型肉食竜本来の攻撃技に磨きを掛けることができたら?
誰にとっても恐ろしい相手になる。
バカな考えだが、オレはそんなモンスターを見てみたくなったんだよ。
仮にそいつがオレに牙を剥くことになるとしても。
オレは、たくさんもらってきた赤いリーの実を、ターボ君にとって受けづらい軌道で投げ、それを巧くキャッチできるよう稽古を始めた。
こっちはすんなり身についたようだ。
そして、もう一度オレの攻撃を避けつつ、オレを咥え取る稽古に戻った。
そうしてターボ君は、ようやく一歩引いて敵の攻撃タイミングをずらしてかわす脚使いの基礎を会得してくれた。
次は、場所を湿地に移して、同じ稽古を続ける。
オレたちにとっては大した影響はないが、重量級の大型竜にとってはコレが最悪の泣き所になる。
その体重のせいですぐに足を滑らせてしまうのだ。
案の定、ターボ君は足を滑らせて転び続けた。
ターボ君くらいの巨体になると、転んだ時に自分の体重がそのまま自分に跳ね返ってくる。自分と同じ体格の竜にノーガードでボディアタックを食らうのと同じくらいのダメージが来るらしい。
転ぶたびにしばらく身動きできず、息を整えてから歯を食いしばって起き上がってくる。
オレは次の日も同じ事を続けさせた。
そろそろ見ているコッチの気の毒になりだした。
3日目はさすがに彼も昼前にネを上げた。
さすがに打ち身だらけにしちまったんで仕方ない。
飛んだり跳ねたり転んだりで泥しぶきが飛び散りまくり、オレも泥まみれでウンザリしてきた。
みんなで体を洗いに行き、さっぱりと気分転換だ。
ターボ君の打ち身は、川の流れに浸からせ、少し冷やしてやる。
今日の残りは、身を伏せた状態から素早く起き上がれるよう、別の基礎的な体捌きをやらせた。
もちろん、彼が喰う分の狩りにも連れ出した上で、だ。
若いトルヴォサウルスは、喰う量も半端なかった。
毎日角嘴級の獲物を半分以上平らげ、オレとミハルは、おいしい所を少しおこぼれに預かる。
毎日稽古が大変だが、代わりに喰うものも喰えるし、何より一族の敵討ちのためという気概が彼を奮い立たせていた。
そうしてターボ君は、ようやくオレが仕込もうとしていた脚使いを覚えてくれた。脚の力だけで体を動かすのではなく、体のバランスを保ったまま、無理なく流れるような体捌きになった。
オレは一度だけ、彼に捕まってやった。
そして、座学。
二本脚の恐竜は、キバを使ってのケンカになると、なぜか喉元を狙いに行かず首筋にキバを立てる。
強ければ強い竜ほど、大きければ大きい竜ほど。
そんな竜に対して有効なのは、首筋を狙いに来た所をスゥエーし、サイドから喉元をすくい上げるように喰らい付いて行く。
そのために、放り投げたフルーツに巧く喰い付けるようにさせ、足場の悪い湿地でバランス感覚を養わせたのさ。
トルヴォサウルスはティラノより一回り小さいが、キバのサイズはティラノとほぼ同じ。装甲もティラノとほぼ同じ。
攻撃力と装甲が同じなら、機動力で勝負をかければ十分に勝機はある。
ターボ君は分かったんだか分かってないんだか。
まあ、若いんだから話聞いただけでもよしとしよう。
その内、身に染みるだろうしな。
とりあえず特訓も済んだので、手土産を仕留め、仕上げに大暴牙の赤帯一族を訪ねる。
お互い一目置いている間柄で、それなりに友好的な関係にある。
オレが尋ねていくと、若い衆が例によって立ち塞がる。
「ボスに話があるだけだ、お邪魔するよ」
ケンカ出入りと勘違いした若い衆が牙を剥いてくる。
手土産持って来てもコレなんだからな。
ターボ君は外に待たせておいた方がよかったかも知れん。
オレは襲いかかってくる相手から少しづつ横滑りして行き、オレを追ってくるアゴ先やハナ先に片っ端から全体重を乗せて流してやる。アンダー狙いでバランスを崩し掛かっている所をムリにターゲットを追った相手は次々とコケて地面に倒れる。
オレを潰すには、まだ年季が足りてないな。
顔見知りの古株は、片頬で笑いながらオレたちを通してくれた。
住処の奥に入って行くと、赤帯ボスはいつものお気に入りの岩場でゴロ寝していた。
オレに気付いたボスは首をもたげる。
目からうなじへ伸びる緋色のストライプは若い衆よりも鮮やかで、異種族のオレから見ても男前だ。
「久しぶりだな。
遊びに来た。ちょっと話もあるし。
これ、土産だ」
「今度はなんだよ」
「外から、お前たちの一門が来る。8頭だ」
「ンだと?」
赤帯一族は縄張り意識が強く、よそ者に厳しい。アラシは生かして返さず、旅竜も早々に追い出す。
「オレのトコに置いてるコイツを仕留めに追ってきているんだ」
「ホウ?」
「相手はコイツにさせる。悪いけど後始末はそっちで付けて欲しい」
「…兄さん、名前は?」
「ターボ…」
「どっから来た?」
「ずっと東の方。2ヶ月くらい歩いた所。…です」
「オレたちを8頭も、お前一つで倒すだと?」
「はい、そのつもりです」
「フン…」
ボスはオレをチラ見する。
顔は不機嫌そうだが、『やった~~!』とか声が聴こえそうな目をしていた。
「いいだろう、相手してやる」
赤帯一族のボスは御年58歳の超大物ティラノだ。
オレは大陸をあちこち旅したが、ボスほど体格のあるティラノは見たことがない。オレの4倍近くあるんだ。
並のティラノでもここまで生きながらえることはまず出来ないというのに、老いてなおその巨体で狩りをするという、あっぱれなお方だ。
その意味でも尊敬を集めている重鎮だ。
実際、ボスの狩りを見物させてもらったことがあるが、その破壊力はすさまじく、クビナガ3頭を瞬殺でクビナシの獲物にしちまった。
で、案の定、脚を捻挫して立てなくなった。
曾々々孫が尋ねてくるというので、ご馳走してやるのにおじいちゃん張り切っちゃったんだな。
オレは、以前からボスの隠れ好々爺振りを聞いていたので、ちょっと気になってたんだ。
で、挨拶がてらシップを調合して持って行ってやったのさ。
赤帯一族は、やらずぶったくりのティラノどもにしては珍しく、自ら狩りに赴きその牙で獲物を仕留めることを誇りとしていた。
仔供もなかなか育たず、一族全体でも20頭ほどしかいない。
そのため、成竜たちは幼竜を大切にしている。
「孫に自慢話聞かせるのに、その脚じゃカッコつかんだろ?」
そう言うオレに、ボスは黙って捻挫の手当をさせた。
そしてオレはその時に、以前からの課題だったティラノの体というヤツを、隅から隅まで調べたのさ。
そして、思いの外多くの弱点を抱えている一門なのだと知った。
なるほどな。
ヤツらは、体が大きくキバも大きいのに獲物の横取りばかりするのは、実は体が重過ぎて思うように動けないからだったんだ。
それに、体が大きい分、ツメやキバが折れると、生え替わってくるまでそれなりに時間が掛かることも分かった。
それにも関わらず日々鍛練を重ね、狩猟竜としてのプライドを守り通しているのは並大抵のガッツじゃない。
オレは当たり障りのない言葉を選んで、ボスになぜそんな生き方をするのか訊いてみた。
「ふん、他竜様が口を付けた獲物なんか喰えるか」
オレの問いに、ボスは平然と言ってのけた。
「喰いたい時に喰いたいものを自分で狩って喰う。
他竜任せの喰い残しばかり盗み喰いしてると、根性さもしくなるんだよ」
そう言うボスの目は、苛烈で穏やかな光に満ちていた。
以来、オレと赤帯のボスは密かに付かず離れずの関係を持つようになった。
たまに威勢のいい若いのをシメるためにオレの所に押し付けておいて、後でニヤニヤしながら「世話になったな」とか手土産咥えて首尾を聞きに来るんだ。
たまったもんじゃないだよ?
まったく。
トウヤ :6700万年前の思い出話、退屈じゃありませんか?
リモ :それより続き聞かせて下さいな。
ターボ :そんなことあったの、ゼンゼン記憶にない。
トウヤ :ボスもこっちに来れてたらな、裏取りも兼ねて
思い出話に混ざってもらえるんだけど。
リモ :そのお方はこちらには見えていらっしゃらないの?
トウヤ :エイリアンとの戦いで壮絶な最期を遂げられました。
リモ :一度お会いしたかったわ。
ジョージ:そうですね。僕もそんなレックスと話をしてみたかったな。




