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098:白亜紀の守護者 #1

白亜紀のめぐり会い編。

ターボ君とトウヤたちのファースト・コンタクト。



 098:白亜紀の守護者 #1


 白亜紀は、第四紀いまに比べればかなり暖かかった。

 といっても、恐竜オレたちは温度計を発明していないので、オレたちなりの主観だけど。

 どれくらい暖かかったかというと、あまりの暑さにしょっちゅう海中生物の大量死が起きていたほどなんだ。

 温暖化のせいで海の魚が食えなくなった時代があったんだ。覚えておいてよ、ニンゲンさんたち。


 三日月爪デイノニクス一門のオレが暮らしていた当時の北アメリカも暖かく、冬でも霜が降りることはほとんどなかった。


 この時期、オレはよく大暴牙(だいぼうが/ティラノサウルス・レックス)一門たちに食い扶持をたかられるんで辟易している。

 渡りのせいで獲物が減るからだ。


 で、撃退する方法も色々考えた。

 今回作ったのは、第四紀になると人間たちから『ボーラ』と呼ばれるようになる、捕獲用に特化した狩猟具だ。

 よくなめしたツタを編み合せ、両端に石を結びつけた、投げ縄の一種。

 勢いよく振り回して獲物の脚に向けて投げると、ロープが脚に絡まり思うように動けなくなる。

 力押しで獲物を倒さなくていいので、蓄えておいた体力は獲物にトドメを刺すことだけに使える。

 前に、藪漕ぎの最中にツタに絡まって、身動きとれなくなった時に考え付いたんだ。


 この日、オレは新開発の武器で角嘴パラサウロロフスだか何だかを首尾よく仕留めることができて上機嫌だった。


「おいしいね、オジさん」

 姪のミハルはようやく3歳になった所で、体は大きくなったが、言葉はまだ蓮っ葉なままだ。

 相も変わらず獲物にトドメを刺す所まで行かないが、よくやってくれている。

 可愛い盛りを過ぎ、若竜として日に日に精悍さが増してきている。


 実際、獲物は旨かった。

 脂が抜け始め身が締まり出すこの時期は、肉の旨味が増すんだ。


 そして、オレが姪っ子と食事をしている時だった。


 見掛けない大物デカブツがやって来た。


 ティラノのようにアゴ筋が張り出してなく、オレたち大爪のようなスマートな顔つきをしている。

 何より、ティラノより足取りが軽い。

 一本立ちしてそろそろ自分のナワバリを探す旅に出た、そんな年頃に見える。


 出方を窺うまでもなく、相手はまっすぐにやってくる。

 食い終わったら少しは分けてやるのに、コイツらときたらいつもながら礼節というモノを知らん。


 オレはボーラを用意した。

 このクラスの略奪者スカベンジャーを撃退するのがコイツを作った本来の目的なんで、丁度いい最終テストになる。


 だが、デカブツは少し離れた所で歩みを止め、首を下げてきた。

 オレたち獣脚類にほんあし流の礼儀で、『食餌の邪魔はしない』という意思表示だ。


「あの、喰い残りでいいんで、分けてもらえないッスか?」


 頭から腰ぐらいまで羽毛を生やし、赤みの強いタテガミが印象的だ。

 しかし、よく見ればそいつは、シッポの付け根が痩せ細り、アバラがうっすらと浮いていた。


「どこから来た?」

「ずっと東の方…」

「何しに来た」

「…ずっと住処を探してるんス」

「前にメシ食ってからどれくらいになる」

「…2ヶ月くらい」

 なんだかワケありな様子だ。

 フツーこの手のデカブツは、こんなコンディションになる前に、なり振り構わなくなるもんなんだが。

「分かった。喰い終わったら残りはやる。喰ったら出て行ってくれ」

「ありがとうございます!」


 そいつはそう言うと、その場にうずくまった。

 飢えで力が入らないのか膝が震えているが、その動きは優雅だった。

 だが、うなじを始め体中にかなり深い噛み傷があり、臭いからすると化膿している様子だ。


 ティラノはたまに中型種と群れを作る場合がある。

 群れの中で諍いが起きると、当然ながらバトルロイヤルになるので、その時に負った大ケガが原因でくたばるヤツが少なくない。

 コイツは見たことがない一門だが、起居振舞からすると、悪さをして群れから追い出された訳ではなさそうだ。

 または、群れのカシラに逆らって追放されたか。


「なあ、家族はどうしたんだ?」

「…大暴牙の流れ者の群れに戮された…」


 ん~~っ!。予想の斜め上来やがったよ。


「オレ、まだ狩りがヘタで」

「お前の親は狩りをしていたのか?」

「ええ。2~3回一緒に行きましたから」


 なる程。確かに、そろそろ狩りの群れに加わってもいい年頃だものな。


「お前の一門は今まで見たことがない。どの辺りに棲んでいたんだ?」

「ずっと東、周りを山に囲まれた平原ッス」


 あ~、ひょっとして、旅の途中で越えるのがムリぽだったんで、登るの断念したあの山脈(アパラチア造山運動の産物)かな?


「大嵐で峠が崩れて、道が広がって。それで大暴牙の賊が入り込んじまったんス。

 ヤツらと戦ったんスけど、悪賢い手でオレたち次々と潰されてって。

 オヤジとオフクロが、オレともう一頭のヤツの盾になって逃がしてくれたんス。

 けど、ヤツらに追ってこられて…」


 あ、コレはヤバいヤマだ。断ろう。


「ふ~ん。賊の数は?」


 悪いクセで訊いちまった。


「8頭。スンマセン。ソレ喰ったら、すぐ出てきます」

「そいつらは、お前のことを追ってきてるんだな?」

「はい」

「オレは、大暴牙一門がキライなんだよ。

 ゆっくりしていけ。

 食い終わったらケガを診てやる」

「オレ、ターボ。大灼牙(おおやけきば/トルヴォサウルス)の一門。オジさんは?」

「トウヤ。

 コイツはミハル」


 オレは、ミハルにデカブツ君の面倒を任せると、薬草取りに出かけることにした。


「オジさん、いつもの泉で待ってる」


 そういやそうだ。喰ったら水も欲しいモンな。


「分かった、案内してやってくれ。あと、脂身を残しといて一緒に持って来てくれ」

「キュィ!(うん!)」


 ちょっと不安だ。

 ミハルはまだ仔供だし、ターボ君も若い上にハラを空かせている。ミハルを喰っちまわないといいが。


 オレが住んでいる地方は、冬になると下生えが枯れるため、森が若干歩きやすくなる。

 探しに来たのは、比較的日当たりのいい竜道けものみちの脇に生えてる草と湿気の多い茂みの中に生えてる草の球根、そして、よく見掛ける黄色っぽいカビの生えかけた木の皮。

 第四紀いまで言う止血剤と抗炎症剤と抗生剤になる。

 どれも親から教わったり旅の途中で伝授してもらったモノだ。

 デカブツ君用に大量に必要なので、ちょっと大きめのソテツの葉っぱを編み併せてカゴを作り、放り込んで行く。

 ついでに、ちょっとカエルを何匹か捕まえていく。


 泉に行くと、満足したらしいターボ君が伏せ、ミハルが葉っぱのカップを片手に傷口を洗っている所だった。


「あ、お帰りなさい。ゴチんなりました」


 ナニ涙浮かべてるんだか。


「アブラミ、持ってきてある」


 オレは、ミハルに傷口の洗浄を続けるように指示し、傷薬の調合を始める。

 と言っても平らな岩の上で、採取してきた薬草を片っ端からすりつぶしてはガラを取り除く作業を延々と続けるだけ。ソレが終わると脂身をすりつぶしてこねくり回し、ネトネトした部分だけすくい取る作業を陽が傾くまで続ける。

 ようやくできたペーストに薬剤を適量混ぜて、三日月爪特製白亜紀流軟膏が出来上がる。


 ターボ君の傷口はかなり化膿していたが、ミハルが徹底的に『洗浄』してくれていたおかげできれいになっていた。

 この場合の洗浄というのは、きれいな水で傷口を洗う他、傷んだ組織を白亜紀風に切除、平たく言えば食いちぎる作業も含まれる。

 ターボ君の目に涙がにじんでいたのはミハルの荒療治のせいもあったようだ。

 もう陽も暮れかかっているので、オレはミハルと手分けして、手早く傷口に薬を塗り付けてゆく。


 安全に寝られそうな場所にターボ君を連れて行くと、彼は死んだようにコトンと眠りに落ちた。


「すごかったよ。あれだけの獲物パラサウロロフス、ほとんど食べちゃった」

「ハラ空いてたんだろうな。ムリもない」

「ケガもヒドかったよ」

「そっちはすぐ治るだろう。さ、帰ろう」


 その後、毎日様子を見に行くが、ターボ君はコンコンと眠り続けた。

 そして、4日後の朝、泉に水を飲みに行くと彼も水を飲みに来ていた。


「ケガはどうだ?」

「すっかりよくなったッス。あんなに治んなかったのに」


 診てみると、傷口はすっかり塞がり、皮膚もほとんど再生していた。

 薬がよく効いたようだ。

 オレたち肉食竜同士のケンカ傷は治りづらく、オレはヒトリコロバシ(ソロ・ハンター)ということもあり、病気やケガを早く治さないと狩りに出られなくなる。

 オレが薬草に詳しくなったのは必然からだ。


「ありがとうございます。

 これなら、ヤツらに一牙くれてやれそうッス」

「何言ってる?

 オマエもガタイはあるが、大暴牙8頭相手じゃ、ムザムザ殺されに行くようなもんだ」

「…肉、旨かったッス」


 若いトルヴォは、妙に清々しい微笑みを浮かべた。


 おい…


「ヤツらは、オレを殺すまで追って来るのを絶対やめないッス」


 やめろ


「カラダもよくなってきたッス。

 一族はオレが最後だし、親やいとこの仇もあるし。

 体調がいい今なら、ヤツらに反撃できる最後のチャンスなんス」


 そういうののためにケガ治してやったんじゃねぇっつーの!


 後7000万年ばかり経つと、ほぬー類がそういうの劇やらエーガやらやるようになるけど、当事者からすりゃゴメンなんだぜ?


「…勝ちに行くつもり、なんだろうな?」

「え…」

「今ぶつかって、『生きて帰ってこれるのか?』と訊いている」


 若いトルヴォは目を伏せて口ごもる。


 ギュァァァッ!!(このバカ野郎!!)


 我知らず、この世間知らずな巨竜の鼻先に、ドロップキックを繰り出していた。

 ターボ君は尻餅を付き、身震いして正気を取り戻すと、目を丸くして呆然とオレを見下ろす。


 ティラノクラスの相手は、オレくらいの相手に喰い付いてくる時や話をする時、首をまっすぐ延ばしてくるものなんだ。ちょうど、この首から腰までまっすぐになっているタイミングで、鼻先の一点を全力でブチかますと、相手はなぜか固まってしまい、運がよければ今のターボ君のようにシリを付くか、さもなくばしばらくの間硬直したままになる。


「やることが半年遅いぜ」タメ息が漏れる。

「君の一族が揃っているウチにやっときゃ、まだなんとかなったかも、だ。

 けど、チャンス逃したなら、作るしかない。

 君は狩りの経験はあるんだよな?」

「はい…」

「伏せ役の経験は?」

「付き添いだけなんで、仕留め役はまだ」

「やれるか?」

「そんなに大きくなければ、イケます」

「分かった。手伝ってくれ。

 代わりに、ヤツらの斃し方を伝授してやる。

 どうだ?」

「ハイッ!」


 オレは、ミハルと打ち合わせしていた猟場候補の一つに、ターボ君も連れて行った。

 オレたちデイノニクスにとってそれなりに食い出のある獲物は、どれも狩るのが大変だ。

 オレは色々と工夫して、以前からソロで仕留めていた。

 あちこちで見聞きした技法を元に。

 ミハルが手伝ってくれるようになっただけでも、狩りの成功率は大幅に向上した。

 それが見習いとは言え、伏せ役が出来るバイト君がパートで加わってくれる。

 さて、楽しみだね。


 オレは狩りに掛かる前に、ターボ君の動きを見させてもらう。

 彼はティラノより一回り小さいが、キバのサイズはティラノとほぼ同じ、装甲はティラノ以上、若いせいか見かけと裏腹にティラノよりフットワークがいい。

 ってことは、8頭倒すには、それなりの手際を付けて流れを作れば、出来ないことじゃない。


 実際、巻き狩りでのターボ君はパなかった。

 オレたちが伏せ場に追い込んだパラサウロロフスに喰い付くと、一撃で獲物の首をへし折ってくれた。

 オレたちは獲物を追い込むだけだったので、ラクなモノだった。


 それに、ターボ君は獲物のハラをさっさと割ってくれたので、すぐにタフタフの旨いレバーやモツにありつけた。

 なんか、いいヤツだ。


 それにしても、このトルヴォサウルスは、育ちがいいのかおっとりしていて、確かにイマドキの狩猟界じゃやっていくのが難しそうだ。

 しかし、攻撃力が高く、その上協調性もあるので、基本をしっかりマスターすれば、どこでも引き合いが来そうな逸材だ。

 コイツが1頭でもやっていけることを視野に入れて、対ティラノの訓練を始めておいた方がいいだろうな。


リモ   :へぇ、このコ、本当に恐竜だったのね。

ジョージ :しかし、トルヴォサウルスがなんで白亜紀まで生き残ってたんだ?

ジョンソン:あり得ないことではない。シーラカンスよろしく、巧く生き残れた土地があったのだろう。

ターボ  :オレ、そんな珍しいんスか?

ジョージ :まあトウヤもそうだけど、化石が出ていない、ってだけで、生息していなかったという証明も出来ないしね。

トウヤ  :平和な楽園エデンみたいな所に住んでたんだろうね。行っておけばよかったな。


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