096:銃を磨いてダベりましょ 遠征前夜 #1
お祭り騒ぎも一段落付いたので、トウヤが家から持って来たガラクタで、何か始めます。
096:銃を磨いてダベりましょ 遠征前夜 #1
明日から遠征。
人間たちはいざ知らず、恐竜の身のオレは、特に用意することはない。
で、明日に備えてちょっとオモチャを作ろうと思う。
格納庫で相談したら、整備班のマケイン・バーンズ軍曹が付き合ってくれるというのでお願いした。
「ムチャやらなきゃある程度好きにしていい」とのことで、軍曹はファシャグナトゥスの和尚さんと、ハンガーの隅で将棋を指し始める。
先日の買い出しの時、和尚さんがコンビニの雑貨コーナーでポケット・ゲーム盤を見ていたので、プレゼントしたんだ。そうしたところ、ハンドラーのバーンズ軍曹がチェス好きで、ヒマを見ては二人で勝負を楽しんでいるようだった。
オレは生憎と、将棋やチェスの定石を知らないので、てんで弱いんだ。多分、ルールを覚えたばかりのバーンズ軍曹にも負けるだろう。
定石覚えればいいんだろうけど、他のコトに忙しいんで、そちらに割ける時間がないんだ。
例えば、今みたいに作りたいモノがあったりね。
なので、隣の勝負は置いておいて、とりあえず明日のために作るゼ。
さて用意したのは、廃棄予定のヨレヨレになったガバのマガジンが3本。
ピアノ線を6mばかり。
廃材のスチール薄板。
厚さ9mm×幅20mmほどの鉄板。
まずは鉄板を七輪とドライヤーで焙って焼き鈍しし、ジグソーで丸く切り出してドラムを作る。
壊れたマガジンを継ぎ足し溶接してちょっとストレッチを付ける。
マガジンの方を、ドラムの端の方に合うように、サンダー(ディスク・グラインダー)で切り落として溶接。
次に鉄板にピアノ線をグルグル巻いて行き、テンション・スプリングを作る。
「なんか面白そうなことやってますね」音を聞き付けたのか、ドロマエオサウルスのトシさんが顔を出した。
「あ、丁度いいトコに!」
オレは、トシさんに作っているモノを説明して、アドバイスを伺った。
その結果、スプリングの可変バネレートの度合いを計算してもらい、スプリングの巻き加減をちょっと換えた。
巻き上がったテンション・スプリングは七輪で焙りながら形を整え、オイルパンに突っ込んで焼き入れして完成した。
次にスプリングにはめるブレット・テンショナーをサンダーでガーッと削り出して、テンション・スプリングにはまるよう、チョイチョイ微調整。お腹にワイヤーを通す小さなリングを溶接して出来上がり。
ドラムの中にテキトーに渦巻き状に鉄板を溶接して、デンデン虫にしてやる。
次に、鉄の丸棒を切り出して、テンション・プラーを作る。切り出した丸棒は、ジグソーで二股に切り込みを深めに入れ、ピアノ線を咬ませる。ピアノ線の両脇をワッシャーではさみ、グルグル巻いていってゼンマイを作る。
出来上がったゼンマイは例によって七輪で焙って焼き入れ。
最後にドラムの縁に、適当にボルトを溶接して、ボルト位置に合うようにドラムの蓋にネジ留め用に穴を開ける。
とりあえず仮組みで、動きにシビアな所がないか見てから、マガジンを七輪で焙って、オイル焼き入れ。
焼き入れを済ませたアッセーのオイルを洗浄し、最後の表面処理工程に入る。
キッチンからもらってきたレモンで、バケツ一杯のホットレモネードを作り、その中にパーツを放り込んで表面処理。
水でよく洗浄してから、軽く火であぶって乾かし、荒れた表面をサンダーでバフ掛けして軽くならす。
そして最後にサビ止め用に軽くオイル灼きしてから、組み付け。
ガバ用ドラマガ出来ちっち。
「あり合わせで見事なもんですね」トシさんがうなる。
「助かりましたよ。テンション・スプリングの張度なんて知らないから、この辺適当になると思ってたんで」
実際、ドラム・マガジンというモノは、昔から装弾不良を起こしやすい。
オレは構造こそ知っているモノの、テンション・スプリングの張度などは知らないんだ。強過ぎればスライドが動かなくなり、弱過ぎれば途中から給弾されなくなる。
トシさんは、ハワイやアメリカで実銃に携わった経験がある。彼のアドバイスのおかげで、なかなか好い出来になった。
バーンズ軍曹が試しに弾を込めてくれたところ、特に動きの悪い所はないようだ。
そこへケラトサウルスのカイさんが、M2を抱えてやって来た。ハンドラーのタカシマ中尉も一緒だった。
「銃の手入れか?」
「ドラム・マガジン作ってるんですよ。オレ、ハンドガンしか供与されてないんで」
「オマエなら、それで十分だろう?マシンガンやアサルトライフルじゃ、銃がもたない。実際、一度ダメにしたんだろう?」
「腰上が熱で溶けてましたしね。ガバメントがあんな壊れ方するなんて始めて聞きましたよ」トシさんが苦笑いする。
「ちょっと(ガトリングガン並みに)連射早めにやっただけなんですけどねぇ。ジェシーに泣かれちゃいましたよ」
「ふふ、女泣かせめ。さて、私もテッポウの手入れの仲間に入れてくれ」
「喜んで。それにしても巧いカスタマイズですね。それにM2腰だめで撃つなんてイカしてます」
「褒めても何も出んぞ」
「.50calの援護があるだけで御の字です」
「そうだ、トウヤさん。ガングリップの削り出しはできますか?昨日カイさんにリクもらったんですけど、工具がなくて」
「部材があればね」
「頼めるか?もう少し角度が緩いと、手首が楽なんだ」
「反動の押さえ込みのこともあるから、実際に撃っている所を見せてもらってからにしたいな。
持った感じが悪くても、実際にリコイルが来た時に逃げのために敢えてヘンな角度に作っているってのもあるし。大口径のリボルバーとか」
「M2(コレ)でか?」
「とは言え、作っておく分には構いません。遠征中に問題があったら、付け替えればいいだけですし」
「これでやってみろ」話を聞いていたバーンズ軍曹が、廃棄予定の排気マニホールド・パイプをくれた。
ニッケル基の合金なんで溶接が出来ない素材ではあるものの、グリップ作るには申し分ない強度のある鋼材だ。
七輪で焙りながら火造りを始める。
鉄というものは、熱処理や温度帯一つで硬度や靭性が色々と変わる。
黄色くなっている今は石けんくらいの堅さなので、ハンマーでゴンゴンと変形させられる。ただし、一定の温度帯を下回らせた状態で成形すると力を掛けた所からクラックが走ってしまうので、ここだけは外さないように注意が必要だ。
鉄にまつわる技術というのも、白亜紀にはなかったものだ。
日本という国は、古くから独自の製鉄技術を持っていた希有な土地柄で、その分、鉄に関する研究も深く幅広い。
ただし、それらが一般に公開されることはなく、あくまでも一部の匠たちが自らの工房の中でだけ伝えてきたことだ。
オレは人間だった時代に、この技術を伝授してもらうのに、これまた長いエピソードがあり、かなり苦労したもんだ。
おかげで今のオレは刀鍛冶の技術力を持つデイノニクスになっている。
この技術が白亜紀にあったら、またちょっと戦局を変えられたかもしれないんだが、それも今は昔の物語だ。
などなど、形になったガングリップをカイさんに持ってもらい、握り心地を見てもらう。
「好い出来だ。相変わらず大したものだ」
次に銃本体にガングリップを取り付けるベースを作るが、こちらは単純にサンダーで切り出した鉄板を溶接してでっち上げる。
ボルト穴の位置決めだけはしっかりとやり、最後に実際にM2を持ってもらって取り付け角度を決めた。
う~ん。
何というか、銃身切詰ショットガンのような、無骨な凄みが増したよ、M2。
タカシマ中尉とバーンズ軍曹も、外見が凶悪化した得物にうめきを漏らした。
元々、銃架に取り付けての運用しか想定されていなかった重機関銃を、力に任せて手持ちしてしまえるヤツが現れ、そいつのリクエストに応じてカスタマイズしてしまえるヤツが運良く寄り集まった結果だ。
「試し撃ち、見てみたいな」
「今日はもう遅い。明日以降だな」
そこへノシノシとトルヴォサウルスのターボ君がやって来た。
リモさんとジェシーとミハルも一緒だ。
「診察、どうだった?」
「結局、原因不明よ」ジェシーは肩を竦める。
やっぱダメか。
「センセ(ジョンソン少佐)は何て言ってた?」
「"これが通常のトルヴォサウルスの食餌間隔なのかも知れん。またはトウヤたちと関係があるのかもな"だって」
「う~ん…ブレサリアンにでもなったのかしらね?」リモさんが頬に手を当てながら、考えあぐねたようにつぶやく。
「オバちゃん何それ?」トルヴォサウルスは首をかしげる。
「ベジタリアンは分かる?」
「菜食主義だろ?」
「じゃフルータリアンは?」
「?」
「果物だけ食べる人ね。
そして、ブレサリアンは何も食べず、息を吸うだけで生きてる人のこと」
やはり、話を聞いていた面々は、オレを除いて眉をひそめた。
「正確には水は飲むけれど、それ以外に食べなくても腹が減らないんだ。
中国では古くから壁穀と呼ばれてるよ」
ちょっとリモさんに補足する。
リモさんはちょっと驚いたようにオレをチラ見する。
「そんな無茶な」タカシマ中尉が言わずもがなの反論を上げ、ジェシーもうなずく。
「それがそうでもないんだ。
大多数は取材料や話題目当てのニセモノだけど、本物も一部いるよ。
一旦"繋がった"後、その精神状態を維持するのが難しいだけなんだ」
リモさんはかすかにうなずき、面々の方へ向き直る。
「トウヤさんは経験あるんスか?」ターボ君は半信半疑といった面持ちだ。
「ああ。
人間社会の中で仕事してる限り、持続させるのはまずムリだけど。
オレはせいぜい持って1週間が限度だった」
「何でダメんなるんスか?」
「精神的にネガティブな場に長居すると、状態を維持出来なくなるんだ。
エンジニアという職業的な限界だな」
「そうなのよね。
私もダイエットを兼ねて挑戦したことがあるんだけど、やっぱりダメ。
仕事で人と関わると、すぐに解けてしまうのよ」
うんうん。
「どんな感じなんスか?ブレサリアンになっている時って?」
「そうだね、爽快感…とも違う、な…。単純に気が軽いって状態がずっと続く。なんとなく周りも明るく見えるね。
体もダルさとかそういったのまるで感じないし、水を少し飲む程度で、ハラはまるで空かない。
…竜巻…いや違うな…こう…波一つ立てず整然と流れる水の中にいるような、そんな感覚なんだ。
それに、その状態が解けた後も、急に飢餓感が来るようなこともない」
リモさんもうなずく。
「じゃ二人とも、もし人間と関わらずに済む場所に居られたら、ずっとブレサリアンを続けていられるんスか?」
「多分ね(×2)」ふたりでハモる。
「へぇ…、なんか分かる気も…」
「何か薬を使うなんてこともないのかね?」カイさんが訊いてくる。
「せいぜい気持ちを落ち着かせるためにお香を焚く程度ね。それも最初の内くらいかしら」
「まるで仙人ですな」和尚さんがうなる。
「科学的にムリでしょう?呼吸をするって事は、ATP代謝してるって事よ?老廃物を再生する器官でもないと、説明が付かないわ」
ジェシーの言にタカシマ中尉もうなずく。
ジェシーは獣医さん。そしてタカシマ中尉は疫学や細菌学のオーソリティー。生物学の学識として正しいことを言っている。
それは分かる。
しかし…。
「科学的な正しさを挙げても仕方あるまい。
体をそう言う状態に出来てしまった実例がここにふたりいるのだ。
コイツは白亜紀でもおっとりしたヤツだったからな。ハラが空く感覚を忘れたのかもしれん」カイさんは、話を聞きながら、クルルル…と愉しげなうなりを喉から漏らし始める。
「え~と…、まさか、カイさん?」
「いかにも。元気なようで何よりだ」
「お久しぶりです!」ターボ君は、カイさんにグルーミングしながらシッポの先を小刻みに振る。
よっぽど嬉しかったようだな。
「カイさんも明日から一緒だよ」
「じゃあ、チーム復活ですね!」
「昔のお知り合いなの?」ターボ君の叔母にしてアーチェリーの名手である、ハンドラーのリモさんが話に入ってくる。
「この人、カイさんって言って…う~ん…白亜紀でプロモーターみたいな事やってたんです。トウヤさんの知り合いで、いつも一緒に狩りでお世話になってた、腕のいいハンターなんですよ」
「白亜紀…?」話に混ざっていたバーンズ軍曹がいぶかしげな顔で…。
和尚さんは『やめさせろ』と、冠羽を逆立てながら青い顔で前肢を振ってくる。
やっちゃったか…。
オレは、そっと目でジェシーにご意見伺いをする。
ジェシーはオレを見下ろすと、『しょうがないか』と肩を竦める。
「トウヤ、ジョージ呼んでおいて。
タカシマ中尉、バーンズ軍曹」
「イエス」
「こちらの失態ではありますが、あなたがたはカイさんと和尚さんのハンドラーですので、この際、真相を知っておいてもらいます。
レナード大尉に同席してもらいますので、このまましばらく待機をお願いします」
オレは、ジェシーの話の裏で、ジョージに直電を掛けた。
『ライズ・コードD(コードD発生)』
『すぐ行く』ジョージはすぐにデンワを切ると、カニンガム隊長と一緒に大急ぎでハンガーへやって来た。
「なに、またバラしちゃったのかい?」ジョージはムッとした顔でオレをニラんでくる。
「今度もオレじゃありません」
ナンでオレのせいになる?
きっかけ作ったのは、また例によって、そこでシレッとマシンガン手入れしてるケラトサウルスだし、本格的にバラしちゃったのは、狩り仲間のトルヴォサウルスなんですけど…。
「いやその、場のメンツが将棋差したりして馴染んでるし、白亜紀ネタが出てくるんで、てっきり『そう』なんだとばかり。
それに自衛隊さんの方だと、一部のリーダー層やハンドラー限定で、真相が告知されているんで…」ターボ君は済まなそうに弁明する。
「まあ、タイミングは悪いが仕方ない」隊長はそう言うと、ハンガーのシャッターを閉めるようオレに指示した。
オレはミハルとトシさんに周囲を見張ってもらい、シャッターのスイッチを入れる。
オレたちが戻ると、隊長がタカシマ中尉とバーンズ軍曹に恐竜化シンドロームの真相を説明している所だった。
「…薄々、感付いてはいました。ヤマモト少尉にせよカイ少尉にせよ、昨日のあの戦闘は、あまりにも手慣れていましたから」バーンズ軍曹は合点が入った様子だった。
昨日の野盗クビナガ相手の狩り。
やっぱ、見ていたのが人間でも、プロ目線じゃすぐバレるわな。
「失礼ですがカニンガム大尉。空軍にもこの情報は連携されているのでしょうか?」
「それはまだだ。
先日、ハワイからVIPがいらしたのは、この件に関しての今後の方針を話し合うためだったのだ。
今はハワイからの対応待ちの状況なのだ」
「自衛隊の方は、周知が行き届いているとの話ですが?」
ターボ君が前肢を挙げる。「何でしたら大隈(三佐)さん呼んで、話を聞いてみたらどうでしょう?」
隊長が少しの間固まる。
実情知りたいトコではあるんだけど、相手が自衛隊さんなんで、そんなことお願いに行ったら問題になるんじゃ、とか色々葛藤を捌いているんだろう。
「諸君、済まないがこのまま待機していてくれ。
トウヤ、一緒に来てくれ。
ジョージ、後を頼む」
「ROG(了解)」
「少佐殿と大隈三佐と一緒に、ジョージとディプロドクスのステーキ・ディナーを楽しんでいた所でな。話を持って行くには早い」
隊長はハンガーから出ると、歩きながら話し始めた。
「それは…すみませんでした」
「カイ少尉には、後でしっかり言っておこう。悪いがその時には立ち会ってくれ。
もっとも、あの場にはタカシマ中尉たちもいたことだし、お前も注意しておくべきだったのだ。
ジョージのヤツは、今日の幕張の一件をうまく片付けてきたお前の手腕に感心していてな。その上、今日のお祭り騒ぎで浮かれていて、白亜紀恐竜たちとの距離が近付き過ぎた。
それでアイツも、お前にもっと注意しておいて欲しかったから、さっきはあんな言い方になったのだと思う」
「彼らしいですね」思わずファースト・ハンドラーに笑いが漏れる。
「従軍牧師時代からの付き合いだが、珍しいことだ。大目に見てやってくれ」
「気にしてませんよ。
それで、ステーキの方はどうでした?」
「ああ、味はアフリカで食べた何かの肉に似た感じだな。しかし、独特の臭みがあるな」
「でしょうね。倒してから時間が経つと、独特のメタン臭がしはじめるんですよ。ん~、チリパウダーとかエスニック・フレーバーにするとなかなかイケると思いますよ」
「白亜紀ネタか…。
故郷のガンボスープとBBQソースが懐かしいよ」
「隊長、大隈さんたちは白亜紀のことまで知ってるんでしょうか?」
「可能性はある。ディナーの場で、それを探ろうとしていたんだ」
「いっそ開けっぴろげに訊いてみます?」
「私も面倒になってきた。明日からの合同遠征もあるしな…」
そしてオレたちは会食用の部屋へとやってきた。
先生と大隈さんは、食後の珈琲を楽しんでいる所だった。
トウヤ :『何かの肉』ってナンですか?
ターク :明言すると問題になるので、それ以上訊くな。
トウヤ :あの~『野火』なんて映画は…。
ジョージ:それは聖書に誓って断言できるから心配しなくていいよ。
ジェシー:『ジャングル大帝』オチらしいわよ。
トウヤ :人間ってどんな味するんだろうね?
海兵隊ズ:ヲイ!(×3)




