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恐竜日和 ウォーク・アバウト  作者: ニジヘビ
ベース・セッション編
94/138

094:ダイナソー・フッド #3-7

晴れ舞台に立つ君に、幸せあれ。



 094:ダイナソー・フッド #3-7


 横田基地内のコンサート会場。

 草を刈っただけの仮設ステージは、いい風が吹き抜けて行く場所だった。


 私たちがステージに立って辺りを見回していると、BBQ会場の方から賑わいがどっと押し寄せてくる。

 いろんな人種、いろんな恐竜が一気に。


 そこへ、空軍さんのトラックとフォークリフトがやって来た。

 整備班のカーチス軍曹たちだ。

 彼らは巨大なスピーカーをフォークリフトで降ろし、ステージのセッティングを始めた。


 一方で、私たち恐竜コーラスチームの方へは、海兵隊の方たちがやって来て、私たちに首輪チョーカーを付けて行く。

「軍で使っている無線用のネック・マイクなんです。人間用のものを、あなたたちに合うよう、サイズを直しました。キツくありませんか?」

 そうか、私たちのこの前肢じゃマイク持てないものね。

「ええ、大丈夫です。

 今朝のボディ・アーマー作るのもあったのに、大変だったでしょう?

 ありがとうございます」

「あなたたちの服を作れるならハッピーよ。

 それに、優秀なアドバイザーが手伝ってくれたから。ほら」

 お針子さん(?)が指す先には、ドロマエオサウルスのトシさんがいた。

「楽しみにしてるわ!」

 お針子さんは陽気に手を振ると、他のメンバーのセッティングへ行った。


 私は、ケラトサウルスのカイさんからさっき聞いた話を思い出す。

 これから歌う歌、We are The Worldのエピソードを。

 私が人間に産まれる10年以上前、内戦が続いているアフリカのエチオピアを干魃が襲い、飢饉が起きた。

 この歌は、エチオピアの救済チャリティのために作られた。

 チャリティは世界的な成功を収めたそうだ。


 けれど、飢餓はなくならなかった。


 以前から続いていた内戦は、第三国からの武器輸出に後押しされてその後も終わらず、慢性的な食糧難が続いたという。


 畑を作っても内戦で焼かれる。

 ウシやヤギを育てても、戦闘のとばっちりで殺されてしまう。


 そんな中で、また大干魃が襲ってきた。

 食べるもの所か、水までなくなった。


 果てしない暴力の連鎖と、いつまでも続く飢えだけが残った。

 家を焼かれ干からびて死ぬか、撃ち殺されて死ぬだけ。


 未来に何の希望も持てず、命に何の価値もない世界。


 どうしようもない、地獄だ。


 白亜紀はどうだったんだろう?

 狩猟恐竜が草食恐竜を食べるために襲うことはあっただろうことは、私の人間としての知識の範囲で知っている。

 けれど、飢饉の中で殺し合うような真似はしなかったんじゃないだろうか?


 だって、おかしいじゃない?

 水も食べ物もない所で、戦争を続けるなんて。


 私たち白亜紀の恐竜が現代にやって来たのは、宇宙人の侵略から逃げるためだそうだ。

 デイノニクスのトウヤさんやケラトサウルスのカイさんが言うには、地球に攻めてきた宇宙人が、巨大隕石を落としたせいで地球が寒冷化してしまい、恐竜が暮らして行けなくなったのだそうだ。

 そして、トウヤさんがタイムマシンを造り、恐竜たちみんなでこの時代に疎開してきたのだ。


 そして、私たちは図らずも、この世界を壊してしまった。


 私たちは、混乱の中で人間たちと戦うこともあった。

 けれどその中で、争いを選ばなかった恐竜たちに、人間たちは手を差し伸べてくれた。

 恐竜たちも、人間たちと手を結び、人間たちを護った。


 私は、なんとなく争いと戦いの違いが見えてきた。


「どうしたね、嬢ちゃん」ファシャグナトゥスの和尚さんが、声を掛けてきた。「もうすぐ始まるけど、準備はいいかい?」

「"戦い"と"争い"の違いをね、考えてました」

「ほう?それで、答えは出たかい?」

「戦いは、江戸川での、私とティラノサウルスとの対戦、みたいなもの。

 争いは、橋の上で繰り広げられていた恐竜と人間との殺し合いとか、そういうのなんじゃないかな?」

「中々好い答えだ。もう少し掘り下げれば、社会学のレポートで最低でもBはもらえるだろう」

「からかわないで下さいよぉ」

「いいや、これは私の本職の立場からの評価だ。

 何に寄らず、平和をつかむためのアクションというものは、すべからく戦いなのだよ。

 対して衣食住の範囲を超える欲望を満たすためのアクションは、争いになる。

 競争、係争、抗争、戦争。

 人間たちの作った社会は、生きるための戦いから、死を極力取り除いてきた素晴らしいシステムなのだよ。

 もちろん、歪みや欠点はあちこちにあるから、まだまだ手直しして行く必要はあるがね」

「和尚さんが役所の所長さんやってたのも、それが理由?」

「そうとも。

 困っている知らない人を、法律で助ける最前線。それが役所なんだ。

 "お役所仕事"なんてバカにはされるが、私も私なりに正義は持っている。

 私はトウヤさんやカイさんのように戦うことは出来ないがね」


 平和な世界を目指して戦うヒーローって、日本じゃ時代後れな感じがあるな。それになんかダサいし。

 でも、今なら分かる。

 平和な世界を目指したヒーローたちの、心の中に映る世界が。

 そして、和尚さんがやっていた仕事が。カイさんがアフリカでやろうとしたことが。


「私たち日本人ってううん、日本に来れた恐竜ってラッキーだったんだね」

「そうとも。…しかし、藪から棒だな」

「カイさんから、これから歌う歌のバックグラウンドを聞いてね」

「そうか…」和尚さんも知っているらしい。年代的にリアルでファースト・リリースを聴いた世代だものね。

「生きていくのは大変だけどな。生きていると色々思いも掛けない楽しいことに行き会う。

 私もこの年になって痛感するよ。

 役所仕事で色々難のある住民にも会うが、本当に困っている方の助けになった時は、生きがいを感じる。

 恐竜に戻って途方に暮れていた所で、嬢ちゃんに会えたし、海兵隊さんに助けてもらえたしな」


 私は今までと違った視点で、会場に集まっている観客を見回した。

 私を助けてくれて支えてくれている、アメリカ海兵隊やアメリカ空軍の人たちとそのご家族。

 そして、白亜紀から一緒に来た頼もしい恐竜たち。


 この人たちに楽しんでもらうために、私は精一杯歌おう。

 それが夢だとしても構わない。

 少なくとも、ほんの一時でも、肉食恐竜と草食恐竜が、人間と一緒に同じ時間の中で歌を歌っている。


 私たちは生きていく。

 どんな形であれ、いつか来る別れの、その時まで。


 私たち恐竜コーラスチームがステージに並ぶと、会場は次第に静まる。


 -ザァ カムサ タィム…


 かすかな風音の中、カイさんが深みのある声で歌い始める。

 声は入れ替り立ち替り、歌の中に入ってきては、去って行く。


 それは、私の前に現れ、去って行く人たちを思い起こさせる。

 私をかばって身代わりに死んだヴェロキラプトルのおばさん。

 一緒に歌っている仲間たち。

 テリジノサウルスのお百姓さん。

 コンビニで用心棒をやっているティラノサウルス。

 気さくで物知りなデイノニクス。

 何でも直してしまうドロマエオサウルス。

 女流弁護士のトロオドン。

 みんなそれぞれの道を見付けて、歩き始めている。


 私は声の限り歌った。

 あのティラノに立ち向かった時のように。

 この時間を、人間たちを、恐竜たちを、大切に思うこの気持ちを。


 カイさんは、会場の煽り方も巧く、観客たちの声は湧き上がりを見せる。

 そこへ、ステージ慣れしているオロロティタンのシユさんがダイナミックなボーカルで盛り上げる。

 私たちのコーラスラインに観客たちのコーラスが響き、空を揺るがせた。

 パーティーは、もうフェスティバルと呼べる規模にスケールアップし、それこそいろんな人間や恐竜が続々やってくる。


 コンサートは大盛況に終わった。


 私は歌い尽くして、もう空っぽだ。

 空っぽなのに、なんだか満ち足りている。


 気持ちいいクタクタ感の中、簡易ステージから少し離れた場所で陽に当たりながら、このたくさんの集まりをぼんやり眺めている。

 和尚さんの他、小型の二本脚も私の周りでおしゃべりしながらくつろいでいる。


 遠くから飛行機の爆音が近付いて来る。

 隊長さんが乗っていったオスプレイが降りてきた。


 私はここ数日、人間と恐竜が話し合っている姿を見る度、いつも思う。

 ヒトとコミュニケーションを取る能力って言うのは、これも、天からの授かり物なんじゃないかな。

 だから、その能力を活かそうとしないヒト、というか恐竜は、人間語会話が回復しないままなんじゃないだろうか。

 私と一緒に保護された中でも一人、人間語会話が回復しないままのコがいる。


 アロサウルスの、中崎なかざき 梨音りおん


 私みたいなおデブなハドロサウルスじゃなく、スマートなアロサウルスになれただけでもうらやましいのに、ずっとふさぎこんでいる。


 肉の塊を食べないとならないのがイヤだ。

 手が使えなくなったのがイヤだ。

 体が大きくなったのがイヤだ。

 着る服がないのがイヤだ。


 人と接する度、自分で何かやろうとする度、一々ヒステリーを起こす。

 私と同じくらいのサイズとは言え、さすがに肉食恐竜でヒステリックな相手なので、最近じゃ誰も近寄らなくなっている。

 私も怖いしね。

 今朝も和尚さんと一緒にクビナガ回収の話をしに行った時、「なんで私が…」とかキレる始末。

 自分が食べる分を取りに行くのにダダをこねるというのは始末に負えない。


 その中崎梨音は、私たちがぼんやり眺めていたオスプレイに向かって、凄い勢いで走って行く。

「クォォゥゥゥ~~!(もう、こんなのイヤァ~~ッ!)」

 中崎梨音はいつも通りに様子がおかしい。

 その中崎さんが走って行く先のオスプレイは、まだプロペラが回っていて…。


「おい、待て!そっちは!」異変に気が付いたカイさんが、叫びながら走って行く。

「ダメよ!中崎さん!!」私も彼女を止めに、全力で走り出した。


 私は草食竜のせいなのか、今まで出会った狩猟竜より若干脚が速いようだ。

 オスプレイのパイロットも、近付いてくるアロサウルスに気が付いたようで、緊急離陸しようとプロペラを上に向け始めた。


 私たちの方が、カイさんよりオスプレイに近いけれど、それでも間に合わない。


カイ  :なんだか長引くな?

和尚  :長引きますナ?

マナミ :イベント次々立ち上げてるのカイさんじゃないですか?

トシ  :遠征まだ~?

トウヤ :なんか作者のヤツ、引っ越しと令和改修で忙しいらしいよ?

ミハル :レーワってなんです?

ジェシー:ん~今から3年後に起きることみたいよ?

ジョージ:疑問じゃないセリフはどれなんだ?


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