092:ダイナソー・フッド #3-5
シマちゃんがルンルン気分でユニフォームをもらいに行きます。
もちろんフツーな服を着てもらう気はさらさらありません。
092:ダイナソー・フッド #3-5
フンフンフ~~ン
服だよ~服~、ユニフォーム!
服なんてもう縁のない物だと思っていたのに、ユニフォームが出来たという、嬉しい知らせが届いた。
私はユニフォームを受け取りに、ファシャグナトゥスの和尚さんに連れて行ってもらっている所。
ハドロサウルスの私に服を作ってくれるなんて、アメリカ軍って太っ腹だ。
その和尚さんは、すでに海兵隊のスタジャンを着ていて、なかなか似合っている。
そして、どうやら受け渡しの場所らしき建物の前へやってくると、ジェシー(シャルビノ少尉)さんとデイノニクスのミハルさんが、地面にテントのようなシートを広げていた。
MARINE STUFF
INTRPRETER D.HERBIVORE
竜
遠目にロゴが入っているのが見える。
"竜"は恐竜スタッフとかそんな意味だろう。
"INTRPRETER(通訳)"はなんとなく分かるけど"D.HERBIVORE(恐竜.草食)"は何の意味だろ?
ミハルさんが私に気付いたのか、クリッと私たちの方を振り向く。
「待ってたわよ、三嶋さん」ミハルさんは翼みたいな手を挙げて振ってくる。
「ありがとうございます。ジャンパー作ってもらえるなんて」
「昨日アン(ジョアンナ・ミハイロフ看護師長)に言われちゃってね。"友達助けるためにレックスと戦うなんてコがスッピンなんてとんでもない"って。
早速着てみて」
私たちが話し始めると、口々に"着るの手伝おうか?"と兵隊のみなさんがワラワラと出てきた。
そして、やっぱりというか、予感は当たっていた。
用意されていたのは和尚さんが来ているようなスタッフ・ジャンパーじゃなくて、カイさんやミハルさんが着ている防弾ジャケットの方だった。
「大きいなぁ」和尚さんが感想をつぶやく。広げられている防弾ジャケットは、体長2mほどの和尚さんからすれば、レジャーシート並みのサイズになる。
「マナミは通訳士だから、完全に後方にいると言う訳にはいかないからね。
場合によっては、即交戦にもつれ込むこともありうるの。
それに、レックスと戦いに臨むなんて無茶するコにはスタジャンじゃ役不足で、最終的に防弾ジャケット(ボディ・アーマー)になっちゃったのよ。
アンからのリクエストで、中にアラミドの厚地を仕込んであるわ」
「"アラミド"って何ですか?」
「強化繊維よ。
あなた用のスペシャルメイドで、NIJ規格レベルⅣをテストパスしている素材を使っているの。
着心地と動きやすさを考えて、背中側から脇腹は4枚重ね。お腹の方は1枚にしてあるわ。
これならレックスに噛み付かれても大丈夫。だと思う」
「だと思う、って…」
「正直な所、どこまで保つか分からないのよ。
生き物が持つ力は、シミュレート値を超えることが往々にしてあるから。
だから、個体差や人間が知る以上の能力を発揮された場合、どうなるか分からないのよ。
一応、レックスの咬合力を13t/cm2(トン/平方センチ)と見積もって作ってもらったの」
「13t!?1センチ当たり?ティラノってそんなに噛む力強いんですか?」
「これも人間の学者たちがあなたたちの化石を研究して出した推測の中での最大値。
だから、最大でどこまでの破壊力があるのか、正確な所は分からないのよ」
「タルボサウルスやカルカロドントサウルスに噛まれても大丈夫かな?」
「え?」
私はジョージさんからついさっき、お肉調達メンバーの大型肉食恐竜さんたちの解説を聞いたばかりなので、ティラノサウルスを超えるパワーを持つ肉食恐竜がいることを知っている。
「あ~しまった、"それ"忘れてた。
そうよね、レックスはメジャーだけど、今はもっとパワフルな恐竜が見つかっていたんだわね。
ん~、マナミは大型肉食竜と直接向き合うことはまずないけど…。
じゃぁ、こうしましょう。
今日はそれ着てもらって、着心地を主に見てみるって言うのはどう?
改良は後日にってことで」
「そうですね。せっかく作ったのに、もったいないですしね」
「ん、ありがと。物分かりのいいコって好きよ」ジェシーさんはそう言うと私の鼻先にキスした。
「じゃあ、服の説明に移るわよ。
マナミは体の造りがシンプルなハドロサウルスで、神経棘(しんけいきょく。背中のトゲトゲのこと。)やセイル(背中の帆状の膜のこと。)がないから、比較的作るのはラクだった。とは言え、何分急造りだから、排熱や動きやすさがあまり考慮されてないの。
排熱口を付ける案もあったんだけど、それじゃトリケラ(トリケラトプス)やステゴ(ステゴサウルス)のツノやスパイクに貫かれるリスクがあるから、今回は見送ったの。
今は装備していないけど、下腹部にハンディトーキー(携帯無線機)を入れるポケットがあるわ。今ダン中尉がコントロールスイッチ作ってるトコだからまだ使えないけど、後々、無線を使えるようになるわ。
ただ、一応無線の筆記試験を受けてもらう必要があるから、そのつもりでいてね」
「え~、ケータイ使うのにテストしないといけないんですか?」
「代わりに50W以下のリグが使えるようになるから、CP(指令所)から30キロ以内で迷子になる心配なくなるわ。
なにより、ケータイ代ゼロよ?」
「頑張ります!」ケータイ代タダになるテストなら、是非受けさせてもらいますとも!
「20問のテストでイエス/ノーだけだからそんなに難しくないわ。フォニクスコードもワッチしてればその内覚えられるわよ。
私が工学、ミハルが法規教えるから安心して。ひょっとしたらトウヤも手伝ってくれるかもだし」
「トウヤさんですか?」
「そう。あのコ、航空無線のライセンス持ちなのよね。パイロットライセンスはまだみたいだけど」
「私も警察無線の免許はあるし、警察限定ならレーダーも使えるから。今トウヤさんに頼んで家から免許持って来てもらってるの」
「出来たらトウヤにヘリのライセンス取ってもらえると助かるんだけどな」
「ジェシーさんは飛ばせられるんですか?」
「私は実家で使うことあるからセスナだけね。もっぱら乗せてもらうの専門なの。
さ、そろそろ着てみて。
ん~"着付け"って言うんだっけ、日本語で?」
「ええ、そうみたいです」
「それ、もっぱら和服やドレスの時に使う言い回しよジェシー」ミハルさんからコメントが出る。
「そうなんだ?」
「ええ、成人式の時に振袖着たから。…また着られるといいんだけどな」ミハルさんは寂しそうにため息をついた。
「ん~、なんとかなるんじゃない?今のあなたの羽毛もきれいだし、マナミの模様もいいじゃないの。
まあ、そっちのことは人間に任せといて。
それはそうと、成人式の写真、あったら見せてよ」
「それはトウヤさんに頼んでなかったから、また今度になると思うな」
「約束よ。
さて、マナミの着付けやっちゃおう」
ジェシーさんは、見物がてら待機していた兵隊さんに合図して、私が着やすいように防弾ジャケットを広げてもらった。
着るのは案外簡単だった。
後脚立ちになってアタマからかぶり、両脇腹のベルクロを閉じるだけ。
肩周りと腿の周り、そしてシッポの根元の方もガードしてくれる作りになっているので、それぞれベルクロ・ストラップで止める。二本脚でも四本脚でも歩きやすいようにデザインされているのはさすがだ。
手伝ってくれた兵隊さんたちも口々に"グ~ッ!!(イイね~!)"とか"オーサム、バリスティックアーマー・ディナソー(スッゲー、防弾恐竜)"とか言っている。
声の感じからするといい意味みたいかな?
でも…。
「…1人じゃ脱げないんですね」
「マナミなら近くにいつも誰かいるでしょう?
誰か呼べばいいわ。和尚さんなら手先も器用だし、頑張ってもらえればなんとかなるかも。
いいですよね、和尚さん?」
「分かった。マジックテープを剥がすくらいなら、私のこのなりでもなんとか出来るでしょう」
「暑くなってきたらお願いね」
「どう、着心地は?」
「着心地は悪くないですけど、ちょっと重いですね」
「う~ん40キロくらいあるからねぇ…。重いとは思うけどガマンして」
うーん。私って、胴体だけでも4mくらいあるし、ぽっちゃり型だし。その分防弾ジャケットも重くなるんだな。
「代わりにレックスに喰い付かれてもトリケラに突撃されても大丈夫だから」
「そうそう!。トリケラトプスのビル・フィールズ少尉の破壊力見たら分かるけど、それスゴい助かると思うわ」ミハルさんがコメントを付けてくる。
「そんなに?」ビルって病室一緒だったんですけど。あのお兄さん、そんなに怖いの?
「大抵の恐竜なら、トリケラの一突きは致命傷になるわ」
「ええ。コンクリの壁もぶち破ってたから」
「なんだかこの2日間で、私の中の"草食恐竜怖い率"がどんどん上がっていくんですけど。
トリケラやクビナガに比べて、ハドロサウルスってホントに何も取り柄ないんだな。
好くも悪くもフツーの草食恐竜で」
「そうね。恐竜なのは分かるけど、シンプルよね。
でもそこがまたいいわ。
ウマみたいに勇敢で優しいしね。
知ってる?
ハドロサウルスってね、アメリカで一番初めに発掘された恐竜なの。
そして、ニュージャージーの州の恐竜でもあるわ」
「州の恐竜?」
「全部じゃないけど、アメリカはいくつかの州で、州の恐竜を決めているのよ。
ちなみにテキサスはサウロポセイドン!。推定体長34m。首の一部しか見つかってないけど、アメリカ一大きい恐竜よ」
大きいことはいいことだ。ジェシーさんって解り易いアメリカ人だな。
「デイノニクスは?」ミハルさんが訊いてくる。やっぱり気になるよね。
「ドロマエオサウルスの仲間はユタ州のユタラプトルだけなの。調べたのよ。
ワイオミングはもうトリケラトプスが決まってるから…。
ひょっとしたらモンタナあたりでその内選んでもらえるかもよ?
…和尚さんは中国竜だから、ちょっとムリだと思う」
「いや、何も言ってないが」和尚さんは苦笑いを浮かべる。
「コンプソネーサスの仲間って、基本ヨーロッパからユーラシア出身なのよ。
じゃあ、少し体を動かして、布擦れとか当たりがキツい所がないか、具合を見てもらえる?
体をかがめたり、肩とか腰とかがきつくなるようなら、直さないと大変なことになるから」
「どうなるんですか?」
「サンドペーパー着てるみたいなものだからね。布擦れで擦り傷だらけになっちゃうの。だから、ボディ・アーマーを新調した時はかならず体に合わない所は直しにかけるのよ」
ジェシーさんに言われて、私は軽く運動を始める。
二本脚と四本脚でそれぞれ歩いたり、小走りで走ったり、体の曲げ伸ばし。
「どう?」私が戻ってくるとジェシーさんが訊いてくる。
「やっぱり少し重いですけど、スキーウェアみたいで着心地は悪くないです」
ユニフォームというか防弾ジャケットをもらって、ジョージさんのところに戻る。
「なかなかいいね。着心地はどう?」
「え~、防弾ジャケットなんて着るの始めてなんで、よく分かりませんよぉ」
「布擦れとか当たりがキツい所はない?」
「ええ、ジェシーさんが見てくれました」
「明日から茨城県の方に遠征だからね。今日はアーマーを体に馴染ませる感覚でいてくれればいいよ。ちょっと暑いかも知れないけど」
「あの、ジョージさん」
「なにかな?」
「和尚さんみたいなスタジャン作ってもらうコトってできないかな?
私、これでも一応JKだし。
せっかく作ってもらったものだけれど、こんなイカツいのより普段着にできるヤツ欲しいよ。さっきカイさんも着てたし」
そのカイさんは、いつの間にやら戦闘用らしく肉厚の丈夫そうなジャケットに着替えて、もらったばかりのM2マシンガンを吊っていた。
「それもそうか。いいな、カニンガム・チームお揃いでスタジャン。
トウヤたちの分も予算が出ないか、ジョンソン少佐に訊いてみるよ。
じゃ、用意も出来たことだし、出発しよう。
マナミちゃんはカイさんたちと一緒の班で、先頭に着いて道案内だよ」
ジョージさんは兵隊さんと参加者を整列させ、お出かけの目的を説明する。
そして、グループ分けと並び順を発表した。
他の恐竜からの襲撃があった場合は、なるべく兵隊さんたちとカイさんとで対応するけれど、場合によっては協力を要請する場合もあるそうだ。
そうだよね。
まだこの混乱が収まったワケじゃないんだものね。
いよいよ出発。
マナミ :前回のジョージさんのニヤニヤで、なんとなくこうなるんじゃないかと。
アン :牧師のボウヤは無関係よ。私がムリヤリねじ込んだだけ。
ジェシー :なんかゴメンね。アタシもジャンパーの方がいいと思ったんだけど。
ジョージ :代わりにオソロでスタジャン作る名目が立ったからいいよ。
和尚 :なんだか人気がありますな、スタジャン。
ジョンソン:もちろん予算は出んぞ。カンパでやれ。
カイ :では、私がスポンサーになろう。トウヤにも声掛けとく。




