091:ダイナソー・フッド #3-4
横田基地主催、大型セロポーダ展示会。
カイさんが日曜の朝から節句働きしてます。
091:ダイナソー・フッド #3-4
青梅市へ買い物に出かけた次の日。
今日は日曜日。
トウヤさんとポールさんは、バイクに乗って朝早くから出かけたそうだ。
昨日の盗賊クビナガたちの襲撃のこともあるから、ツーリングに行ったんじゃないことだけは分かる。
何しに行ったんだろ、あの二人?
一方で、カイさんはジョンソン先生に掛け合って、昨日倒したクビナガを回収しに行くことに話を持って行った。
現実化しつつある食糧問題に対処するには、先が見えている人間の食糧供給に頼らず、別の手段を模索する必要がある。
現に草食竜用の野菜は、農家さんまで調達に行ったし、お肉も養豚場や牧場をいつまでもアテには出来ない。
と言うことを、ローイン大尉とタカシマ中尉を引きずり出してぶち上げたんだ。
ついでに避難者との懇親会を兼ねてBBQパーティーをやることになった。
つまり、食べちゃうんですよぉ!
なんていうか、食べるのがあの盗賊なんで、よくないものがうつるというか取り込みそうでイヤだ。私は食べないし、そもそも草食なんで食べれないけど。
けど、"肉食い放題"に釣られた避難者の肉食竜の方たちがヘルプに名乗りを上げ、結構な数が揃った。
結局大型トレーラー3台にクレーン車、そして、私が最初に見たハムビー2号が護衛に用意され、昨日の現場まで行くことになった。
ケラトサウルスのカイさんとファシャグナトゥスの和尚さんは、MARINEのロゴが入った海兵隊スタジャンをキメて、イベント幹事として2人で調整に飛び回っている。
「ニク!クイホ~!!」とか完全に舞い上がっている大型肉食恐竜の面々は、1頭を除いた全員参加で、総勢6頭もいる。
トレーラーの脇で、はしゃぎながら小躍りしている2頭のティラノサウルス。
どちらも、ユカリさんより一回り小さいけれど、トレーラーと同じくらいの体長で背というか体高も高い。
「よく似ているけど、実は別種なんだ」副長のジョージさんが解説してくれる。
「アメリカのティラノサウルス・レックスに、ティラノサウルスのアジア種になるタルボサウルスだよ」
「どっちも同じに見えますけど。どう違うんですか?」
「鼻が違うんだ。よく見てみて。タルボの方がちょっと丸くて、レックスはほっそりしているだろう?」
なんとなくだけど、ティラノの方が鼻がなだらかで細く、タルボは丸鼻というか鼻の上の方が高く幅も広くなっている。そうして見てみると、ティラノはなんとなく日本人みたいで親近感がわくな。
とか観察してたら、2人にクリッとかコッチ向かれて、ちょっと恥ずかしかった。
ジョージ副長がフォローで手を挙げてくれたら、2人とも「ゴチんなりま~す!」とか2本指の小さい手を振ってくる。
そして、私たちの方を向いてくれたおかげで、2人の違いがよく分かった。
ティラノさんは、イヌみたく鼻先がスマートで目が両方とも私たちの方を向いている。タルボさんの方は、鼻が広く目が少し離れている感じ。
2人とも眼力が強いので明らかに肉食竜と分かるけど、前に動物園で見たライオンを思い出す。どこかフレンドリーだ。
「獲物の違いなんだよ」ジョージさんが更にトリビアを披露してくる。
「白亜紀のアメリカは10m級の獲物が多かった。だから、自分より少し小さい獲物を追い掛けるために、レックスは両目で獲物を立体視する方向に進化した。
対するアジアは15m級オーバーの獲物と大型のクビナガ、つまり自分より大型の獲物が多かったんだ。そのためタルボは攻撃力重視に進化していったと推測されているんだ」
そしてジョージさんは声を潜める。
「カレラガ キオクヲ トリモドシタラ ゼヒ トウジノセイカツヲ キイテ ミタイネ」
「ソレジャ ワタシ タベラレチャイマスヨォ」
そのコンビのダンスというかコントを眺めている恐竜。
彼らティラノより二回りほど小さく、体長は10m級でトレーラーの荷台くらい。羽毛がなく、額からカイさんのような平べったい角が1本生えている。シッポが長くて走るのが速そうだ。
「インド人、じゃなくてインド恐竜のラージャサウルス(ラジャサウルス)」
「ラジャって、何が了解なんですか?」
「英語じゃないんだ。正しい発音はラージャになる。梵語で"王侯"の意味だよ。インドの北西部にあるラージャスターン州の辺りにいたから、地名を冠しているんだ」
「"ラジャスタン"ってなんかカッコいいですね。そのまま名前に使っても好かったんじゃナイかな?」
「言えてる。実際カルノタウルス科だから脚がスマートだね。彼女のスケールアップ版のカルノタウルスは、10m級でもっと足が長いんだ。この間、江戸川で見たけれど、獣脚類のファッション・モデルみたいだったね。代わりにラージよりさらに手が小さかったけど」
「その恐竜はどうしたんですか?」
「ん?トウヤに蹴り倒されたよ。その後黒焦げにされちゃった。残念だよ」ジョージさんはため息をついた。
「あ~あ…」あのデイノニクスってどんだけ大型恐竜蹴り倒すの…、それにジョージさんもどっかズレてる。
「ラージと一緒にティラノの見物しているのは、イギリス南部のネオヴェナトー(ネオヴェナトルの英語発音)」
体長がラージと同じくらいの恐竜。
ラプトルに似たスタイルでスマートな体付き、そして、腕も長い。トウヤさんたちデイノニクスから羽毛を薄くして、巨大化させた姿をしている。
ただし、脚に大きな三日月爪はなく、ティラノさんたちと似たデザインだ。
「体付きがスマートですね。K1ファイターかダンサーみたい」
「いいねぇヴェナトー。"新しい狩人"って意味で、アロサウルスの進化版だよ。最近新設されたネオヴェナトル科ね」
「アロサウルスってティラノみたいな恐竜ですよね?名前はよく聞きます」
「実の所、白亜紀に入ると本家アロサウルス科はほぼ絶滅していて、その分家のネオヴェナトル科とカルカロドントサウルス科が進化していったんだ」
「何があったんですか?」
「自然界の食物連鎖にリーマン・ショックが起きたんだよ。
まず、ジュラ紀の終わり頃から世界規模で植物相が変わったんだ。それまで主流だったシダとかソテツなどの成長に何年もかかる裸子植物から、成長が早い被子植物、今普通に見られる草や樹に変わって行った。
それに北アメリカは大陸移動の影響で高緯度へ移動して山も多くなっていった。
そして、今まで食べていた植物がなくなり、住んでいた土地も寒冷化(熱帯から亜熱帯または海洋性温帯へ変動)してしまい、相次ぐ環境変化に対応しきれなかった大型の竜脚類たちが、軒並み衰退した。
それに圧される形で、当時大型化していた本家アロも、獲物の変化に対応しきれずに衰退したとみられている」
私はゾッとした。
今、まさに私たちが直面している食糧問題で、滅びた種がいたんだ。
「当時の北アメリカは、キミたちハドロサウルスたちの方が暮らしやすかったらしく、キミたちの仲間が繁栄したんだ。マイアサウラやパラサウロロフスのように大型のカモノハシ竜も出てきた、ある意味平和な世界だったんじゃないかな」
「アメリカが田舎オチしちゃったんですね」
「グッ、イタいな。その通りだけど。
ハドロサウルスたちと一緒にいた、当時小さかったティラノサウルス科の生き残りが、キミたちと一緒に進化していったんだ。
それが白亜紀中盤以降の北アメリカ。
不思議なのが、白亜紀末期からタイムトラベルして来た恐竜の中に、なんで本家アロサウルスやケラトサウルスがいるのかなんだよな。
彼らジュラ紀世代だから、滅んだはずなのに」
「デイノニクスのトウヤさんはケラトサウルスのカイさんと友達だったって言ってましたよ」
「う~ん。デイノニクスも白亜紀末期にはいなかったらしいけど、田舎の方で細々と生き延びていたのかな?」
「落武者みたいですね」
「それでジョージさん、ネオさんの隣の方は?」
マッチョでゴツゴツした感じの、ティラノ・サイズの恐竜。タルボさんより丸みのある、丈夫そうな顔立ちだ。
「南米のマプサウルスだよ。アルゼンチンからチリの辺りにいたんだ。
マップは、今では地図の意味だけど、元々は大地や陸地を指す言葉だった。
余談だけど、海や空の地図はチャートと言うね。
だから名前の意味は"大地のトカゲ"になる。
ギガノトサウルス亜科ね。これもアロの分家の一つだよ」
「タルボさんより口も牙も大きいですけど、アルゼンチンも大きい獲物が多かったんですか?」
「ご明察。
白亜紀中盤以降の南米には、20mオーバーの大型サウロポーダがウヨウヨいたんだ。そのおかげでセロポーダたちも大型の種が多かった。
圧巻なのがアルゼンチノサウルス。このサウロポーダは体長35mもあって、体重も推定60t。最大級の個体だと体長45mで、体重にいたるや100tほどあったと見積もられているんだ」
「100t!?」私の20倍以上ある!。いや、体重とか張り合ってないから!。「隅田川の遊覧屋形船より大きいというか長いじゃないですか!」
「当時のアジアと南米は、ジュラ紀の北アメリカみたいに大型恐竜たちの天国だったんだ。
実際、アジア種の多様性と南米種の大型化は白亜紀の2大イベントだったからね。ジュラ紀末期から白亜紀にかけての真鳥類への分化をギリギリ入れられるとしたら、3大イベントになる。
それに最近じゃ中国が恐竜研究先進国としての優れた研究成果を公表してくれるようになったから、この先、鳥類型恐竜(鳥になった恐竜。詰まる所、現生鳥類直系の先祖のこと。)と非鳥類型恐竜(鳥にならなかった恐竜たちのこと。主に獣脚類を指す)の分化や進化大系の研究がもっと進歩するだろうね。
楽しみだよ」
「ジョージさん、またヒート・アップしてきてますよ」背中を鼻先で小突いてコッチに帰って来てもらう。
「オー、ウップス(おっと、失礼)。
それはさておき、マプサウルスたちは、幼竜から成竜まで群れで生活していたとみられる化石が発掘されているんだ。
そこから、それまで大型セロポーダたちは単独で狩りをしていたとする説が主流だった所に、ドロマエオサウルス科のように群れで狩りをしていたとする新しい学説を加えことになった、アカデミックな種なんだ。
つ~ま~り~、レックスも群れで狩りをしていた可能性が出てきたのさ!。
さぞかし壮観な狩りだっただろうね」
そして、ティラノのユカリさんよりさらに一回り大きく、背中にトゲトゲがある、厳ついお方がいらっしゃいます。
「カルチャロダントソゥラス(カルカロドントサウルスの英語発音)、体長14mもある最大級のセロポーダ。
あの方は体格がいいんで15mあるよ。
さっき話したアロサウルスの分家の一つ、カルカロドントサウルス科で、巨大恐竜のメッカ、北アフリカ出身ね。エジプトからモロッコの辺り。
この地域には体長18mのスピノサウルスや26mのパラリティタンもいたよ」
「大きさも姿も全然違うのに、さっきのネオヴェナトルやカイさんに雰囲気似てますね」
「シマちゃんて、鋭い観察眼を持っているね。
レックスは狩りもするけどスカベンジング率高い恐竜だった。
で、カルカロはあのサイズにしては貴重な種で、なんと狩り主体の食生活だったらしいんだ」
「やっぱり。
トウヤさんもそうだけど、狩りが巧い恐竜ってどこか近寄りがたいって言うか、ストイックな感じがするんですよ」
「実際、カルカロはセロポーダ最強だろうね。
多分、戦うことがあれば逃げ出すのはレックスの方になる。
その意味じゃ、アロサウルスの子孫は、アフリカで大成功を収めたことになるね。
牙がケラトサウルスやサメのように平たいブレード状で、切れ味がいいんだ。
名前の意味は"サメキバトカゲ"。そのものズバリだね。
カルカロドンてサメの学名なんだ」
「なんか名前のネタ切れ感しますね」
カルカロドン、って言うか、ドン・カルカロ。
その麻薬王みたいな名前の狩猟竜は、私たちが話しているのに気付いたらしく、ノシノシと近付いて来た。
ドンは鼻先が長いこともあり、目が離れていて前が見えづらいらしく、時折首をかしげて私たちの方を見ながらやって来た。
「レナード大尉、今日はお誘いありがとうございます。BBQパーティー楽しみですよ」ドンはワード・キーパー(人間語会話能力回復者)みたいだ。種族のせいなのか、うなるような声で、まだ舌が絡まった話し方をする。でも、色々話していれば自然に治っていくんだろうな。
「ミスタ・滑川、ご協力感謝します」ジョージさんは嬉しそうに両手を広げる。
「彼はスポーツ・ジムのコーチで、滑川 純生さん。こちらは、草食恐竜語の通訳に同行される三嶋 真波さんです」
「滑川です、よろしくお願いします。通訳の方だったんですか。てっきり音楽ユニットかと。この前のコンサート、よかったですよ」
デカい。
顔の位置が2階建ての家のベランダぐらいにある。それも、ジョージさんを一口に出来るほどのオオアゴ。
口の端から見えているキバも、20センチくらいあるよ。
ティラノよりほっそりした口元と併せて、西洋の剣のようなイメージ。
「あ、…ありがとうございます」
滑川さんのあまりの迫力に、引きそうになる。
その滑川さんは、かしこまった様子で訊いてくる。
「あの、三嶋さん。自我のないティラノサウルスと戦い、勝ったと聞いたのですが、本当ですか?」
「とても戦いなんて言えるモノじゃありませんよ。血に飢えた追い剥ぎを仲間たちから引き離そうとしただけです。
逃げるのに精一杯で、一方的にメッタ噛みされるばかり。勝ち負け以前に、とても勝負になりませんでしたよ。
命があったのは運がよかっただけです。たまたま、ジョンソン先生たちと出会えて、ティラノをやっつけてもらって、ケガの手当てをしてもらえたから」
「ハドロサウルスは体が丈夫とは言え、6回だったっけ、背中をレックスに食い付かれたの?、重体だったんですよ」
うう、ジョージさん。そのフォローはやめてよぉ。
「壊疽や敗血症を起こしていたら死んでいた所でした。包帯も昨日取れたばかりで」
「英雄ですね。名誉の負傷だ。
ツメもツノもないのに自分の倍はある肉食恐竜に立ち向かうなんて、怖くなかったんですか?」
「あんなのに仲間を食い殺されてたまるか、って気持ちの方が強くて、怖いとか分かりませんでした」
「そこまでの体験をしたのに、私たち肉食恐竜が怖くはないのですか?」
「…気を悪くしないで欲しいのですが、どうでもいい、と思ってます。
もう、相手が肉食とか草食とか、一々逃げ隠れするより、相手を見て判断して行くしかないんですよ。
ヒトとしての自我が残っているかどうかは、もう当てになりません。
自分が何者だったのか分からなくなっても、ヒトとして生きようとした肉食恐竜もいます。こんなこと言ったら怒られるかも知れませんが、私はあのオジさんを親友だと思っていますから」
「私は…」滑川さんはそう言いかけ、私の後ろの方に会釈した。
振り向くと、カイさんと和尚さんが戻ってきていた。
見慣れたサイズに、なんだかホッとする。
「クレーンの準備はどうだね?」カイさんがジョージさんに訊いてくる。
「ええ。油圧チューブの交換がありましたけど、もう終わる頃です。そろそろ出られますよ」
「よし。では、そろそろ参加者たちを集めておこう」
カイさんはそう言うと、私のことをチラッと見てから、参加者へ声を掛けに戻った。
カイさんには悪いけれど、大型狩猟恐竜の後で見ると、6m級のケラトサウルスは小さく見える。
けど、自分の倍以上も大きい恐竜を相手に、あれだけの数をあっという間にまとめてしまったカイさんは、偉大だ。
「さて、嬢ちゃん。支給品のユニフォームが出来ているそうだから、取りに行こう」和尚さんが私の顔の前に来て、メモ帳を確認しながら言ってくる。
「ユニフォーム?」
「シャルビノ少尉とミハイロフ看護師長が作って下さったそうなんだ。今着ているこれも中々具合いいぞ」和尚さんはそう言いながら、メモ帳をポケットにしまい、スタジャンの襟を正す。
「そうだね、和尚さんと行っておいで」ジョージさんは、なんだかニコニコしている。
イヤな予感しかしないんだけど…。
ジョージ:朝から大型セロポーダの展示会みたいで、幸せだ。こんな日が来るなんて夢みたいだよ。
カイ :今回、私たちは幹事役なので、完全に裏方だな。
和尚 :そうですな。私はこちらの方が性に合ってます。
滑川 :そのスタジャンいいですね。頼んだら作ってもらえるでしょうか?
ジョージ:う~ん、それは難しいと思います。
マナミ :私もスタジャン楽しみデス。




