090:ダイナソー・フッド #3-3
今回Gレート。
狩猟恐竜のナマの狩りを目の当たりにして、シマちゃん涙目。
ついでに魔王様を呼び戻すのに成功してしまったようです。
090:ダイナソー・フッド #3-3
人間はいろんなものを呼び出したがる。
神様とかUFOとか、聖霊とか魔王。
私たち海兵隊買い物チームは、元からこの世界にいた人を呼び戻した。
そのはずだった。
青梅市の農家さんからの帰り道。
3頭の巨大なクビナガが襲ってきた。
クビナガたちは、私の目に見えない速さで攻撃を繰り出してきて、1号トラックの運転席を粉砕した。
乗っていたポールさんたち人間がどうなったか、今は分からない。
体中の羽毛をボワボワに膨らませたデイノニクスのトウヤさんがトラックを降りる。
その後にケラトサウルスのカイさんがトラックから降り、1号車の残骸からマシンガンを引きちぎると、トウヤさんの後に続く。
さらに、トウヤさんと同じデイノニクスのミハルさんとドロマエオサウルスのトシさんが、ライフルを用意しながら合流して行った。
ダメだ。
私は止めようとした。
それなのに体がすくんで、声も出ない。
けれど、そんな思いと裏腹に、私はすぐにトウヤさんたち狩猟恐竜の本当の姿を見る。
凶夢が、始まった。
4頭は、山みたいに巨大な敵に、まっすぐ向かって行く。
1頭のクビナガがまた回れ右をしたかと思うと、何が起きたのか、いきなりちぎれたシッポがゴロゴロと転がってきた。
転がってきたシッポに気を取られている間に、一体どう移動したのか分からないけど、トウヤさんとミハルさんは、いつの間にかクビナガの足の間に跳んでいて、刀みたいなものやライフルで、クビナガたちの死角から攻撃していた。
そして多分トシさんだろう。姿が見えないのでどこにいるのか分からない。時折、遠くから甲高いマシンガンの音がしてクビナガたちの気を反らしている。
そうして、クビナガたちはカイさんの方にシッポを向けてしまった。
カイさんは、その瞬間を待っていたように、クビナガたちにマシンガンを浴びせる。
クビナガたちの後ろ脚が爆発したように次々と吹き飛び、下半身を支えられなくなり腰をついた。
「ゴォォォ~~~~!!」
クビナガたちはうなりながら、動かなくなった血まみれの後ろ脚を引きずって逃げようとしている。
もう、見ていられない。
目を逸らしたい。
それなのに、体を動かせない。
誰か、助けて。
私の目を塞いで。
私の耳を塞いで。
カイさんは、容赦なくクビナガの腰に喰らい付いて、鈍いイヤな音を立てた。
トウヤさんも、他のクビナガの腰に取り付いて、刀で深く切りつけたみたいだった。
すると、それまでムチのようにビュンビュンと動いていたクビナガのシッポが、クタッと地面に落ちて動かなくなった。
「オァァァァ~~~~~~~~~~~~ッ!!」
クビナガたちが上げる長い叫びが、この時ほど分からなければよかった。
そして、急に静かになった。
ようやく少しだけ身動きできるようになった私は、隠れるように荷台に引っ込み、うずくまって震えていることしか出来なかった。
肌を通して、大きなものがズルズルと動いているのを感じる。
大きな生き物が喘ぐような、息をつく音がかすかに聴こえる。
それらが少しずつ遠ざかって行くのを感じる。
私は、どうにもならないことを、それでも祈った。
私は、なにかわからないことを、いろいろ願った。
ドン! ドン! ドン!
やがて、落雷のように銃声が響き、そして、静かになった。
終わった。
祈りは届かず、願いは叶った。
私は草食恐竜なんだ。
改めて思い知る。
たった一度、ティラノサウルスとの戦いに生き延びただけで、うぬぼれていた。
トウヤさんたちハンターが見せた実力の前では、"自我なし"の闇雲な攻撃なんて子供の遊び。
私が生き残れたのは、ただのビギナーズ・ラックだ。
冷徹な計算ずくの攻撃連鎖。
お互いのわずかなサインだけで複雑に響き合う攻撃連携。
真性狩猟恐竜が相手では、あれだけ大きな体でも狩られる以外に為す術がないんだ。
私なんか秒殺で餌食になってしまうだろう。
肉食恐竜を見たら、すぐ逃げる以外に、生き延びる方法はないんだ。
ガラン…。
出口のない考えに圧し潰されそうになっていると、ドアを叩くように何かが落ちる音が響いた。
「ワッツハプン?(なんだ?)」
「ワッツゴーインオン、ミスタ・カイ?(カイさん、どうしたんだ?)」
運転席の人間たちが英語で何か言っている。
意味は分からない。
"ミスタ・カイ"ってキーワードだけ浮かび上がって聴こえた。
荷台から顔を出してみてみると、横たわるクビナガの間で、ケラトサウルスがガクガクと痙攣している。
様子がおかしい。
そばでトウヤさんたちが手を貸そうとしている。
あの姿を見れば分かる。
カイさんが今、壊れていく所なんだ。
助けなくちゃ
この一線を越えたら、私はいつか、あそこで横たわるクビナガと同じ最後を迎えることになる。
この一歩を踏み出したら、私は、もう戻れない。
でも
いいか
それがカイさんなら
カイさんは自分を失い
人間でも恐竜でもなくなり
暴力で荒れ狂うこの世界を
あてもなくさまよい歩いていた
それでも恐竜に堕ちずに
"人"として生きようといていた
私は、あのケラトサウルスのオジさんと歌っていると楽しかった。
あのケラトサウルスは、お世話になっている海兵隊さんが攻撃されて、敵を倒すため、私たちに一度も見せたことのない牙を剥いた。
そんな人を見捨てるなんて、出来ない。
私は、また肉食恐竜に向かって走り出した。
今度も仲間を助けるために。
けど、前と違うのは、その相手を救うため。
「カイさん、大丈夫なんですか?」
「ああ。
肩を支えて寄りかからせてやってくれないか。
オレじゃ力不足だからね」
トウヤさんは、コッチが不安になるくらい落ち着いている。
「カイさん。"恐竜"になりそうなんですよね?」
「そうとも言える。
違うと言えば違う。
けれど、危ない状態なのは本当だよ。
さぁ。
そっと名前を呼んであげてくれないか。"大丈夫 何も心配はいらない 私たちがいるから"ってさ」
私を見つめるデイノニクスの、まっすぐな目。
残忍で無慈悲な殺し屋は、そこにはいなかった。
「カイさん、マナミよ。大丈夫だから、寄りかかって楽にして」私は、カイさんに呼び掛ける。
「ケルルル」トウヤさんも恐竜語で話し掛ける。
「ミスター・カイ、気をしっかり持つんだ」ジョージさんも駆け寄り、声を掛けてくる。
カイさんを支えている肌を通して、カイさんから爆発しそうな心臓の鼓動が伝わってくる。
トウヤさんが、そっと落ち着いた声で話していたのが、なぜだったのか分かった。
焦らせたり慌てさせたりするのは厳禁だ。
今、ほんの少しでも警戒心をゆり起こせば、カイさんは帰って来れなくなる。
私たちは口々にカイさんを呼び戻す。
静かに、心の奥へ染み透るように。
「…マナミ、トウヤ。私なら、大丈夫だ。少し、休ませてくれ…」
どれくらい時間が経ったのか分からない。
カイさんはそう言うと気を失った。発作が治まり、どうにか落ち着きを取り戻したようだ。
1号車のポールさんたちは無事だった。
ボロボロになったトラックの修理を私も手伝い、どうにか走れるようにして、カイさんもトラックに乗せ、何とか基地まで帰ることが出来た。
今日は大変だったけど、少しは海兵隊さんの役に立てたかな?
江戸川でサバイバルやっていた時と比べれば、トウヤさんたちもいたし、トラックもあったから、かなり頑張れた。
なにより、食糧が手に入ったのは嬉しい。
けど、これからずっとこうして行かないとならないのかと思うと気が重い。
今日出会った農家のテリジノサウルスのユタカさんが言っていた、畑の手伝いは中々いいアイデアだ。
でもそれは、草食恐竜と小型の昆虫食恐竜に限られる。
肉食恐竜はどうやって生きていけばいい?
私たちで野菜を作って食べて、そして私たちを食べもらう、とか…?
イヤ!。それはナイ!。
う~ん。今日は疲れててダメだから、もう明日にしよう。
トウヤさんはポールさんと用事があるらしく、大きなバイクに乗ってどこかへ行ってしまった。
ミハルさんは、ジェシーさんの所へ行った。
デイノニクスたちって、なんだかんだ言って相棒と仲がいいんだな。
私たちは荷物を降ろすのを少し手伝い、トラックを格納庫へしまいに行った。
カイさんは大分よくなったらしく、クビナガとの戦闘で使っていたマシンガンを、ジョージさんとトシさんとで改造し始めた。
ジャンク品になったマシンガンをもらえることになったようで、ケラトサウルスでも操作しやすいように改造するらしい。
なんだか、カイさんの様子がいつもと違う。
今朝まで、おじいさんみたいにどこかぼんやりした話し方だったのが、人間の記憶を取り戻したせいなのか、生き生きした感じだ。
ジョージさんとの軽い掛け合いや、トシさんへの注文の付け方とか。
そして、完成したマシンガンを装備したケラトサウルスは、完全にSFキャラだった。
首と肩に回したストラップに吊ったマシンガンを握り、"どうだ"、と楽しそうに見せてくる。
「マナミ、さっきは世話を掛けたな。礼を言う」
「ううん。コッチに戻ってきてくれてよかったよ」
「所で、マナミ、和尚。君たちはもう、記憶は戻っているのか?」
始めは、何を言われたのか分からなかった。
「人間の記憶のことですか?」和尚さんが不安気に訊き返した。
「いや。こちらへ渡って来る前の記憶をだ」
トウヤさんが言っていた、ハドロサウルスは白亜紀の歌い手。
テリジノサウルスのユタカさんが言っていた、毎年やってくるクビナガたち。
ジョージさんの"やっちゃった"という顔。
トシさんの「キィァ!(ダンナ、それストップ!)」とカイさんに注意するような声。
私の中に集まっていた言葉のカケラが、浮かび上がるように答えを形作る。
「…私たちは、恐竜時代からやって来た、本物なんですね?」
ジョージさんとトシさんは、お互いに顔を見合わせるとため息をつく。
「礼も兼ねて、知っておいてもらいたいことを話そう」
カイさんがジョージさんとトシさんをチラ見すると、二人は肩をすくめる。
そしてカイさんは、色々話してくれた。
恐竜時代の地球に侵略してきたエイリアン。
タイムマシンを作って未来に逃げる恐竜。
進化した哺乳類=人間が地球を破壊する未来予知。
恐竜たちの意見の分裂。
タイムトラベルの失敗。
記憶や自我を失った恐竜が数多くいること。
そして恐竜禍。
ナニソレアタラシイエイガデスカ?
自分のことでもあるのに、ホントにそう思った。
私たちは、6700万年前の白亜紀から、事情通の魔王様を呼び出してしまったようだった。
私と和尚さんが呆然としていると、トウヤさんとポールさんが甘い匂いと一緒に帰って来た。
そして、シナモンロールをおいしそうに食べる魔王様とお茶を飲みながら、ジョンソン先生は私に、通訳として正式に勤務する気はないかとオファーを出してきた。
私は、人間としての自分と恐竜としての自分の間をフワフワしながら、ハイと言ったようだった。
マナミ:てへっ、失敗しちゃった。
ミハル:魔王って世界を半分くれるとか言う?
カイ :私は肉は食うが草は食わん。だから世界の半分は草食恐竜のものだと言える。元からな。
トウヤ:カイさんらしい考え方だな。
和尚 :世界の半分は食べていいから、残り半分は自分のもの。と言うことですかな?
マナミ:そうじゃなくて、今日のバイト代のコト、話そびれちゃったから。
それか!(×4)




